年の差婚に偏見はないけどさすがにこれは
前回までのあらすじ。
期待の冒険者コンビ、ラスとロウは、冒険ギルドの任務中、女性の叫び声を聞いた。駆けつけてみると、そこには二頭のボーンベアに襲撃を受ける侯爵令嬢ご一行の姿が。
2人は二頭のボーンベアを倒すのに協力し、令嬢たちを助けた。
すると、金髪マッチョのベン=ビルディンに、マウンテまでの道案内を頼まれた。
快く了承したラスとロウだったが・・・。
ここまでの経緯を簡単に紹介してみたよ。
正確に言えば、快く了承したわけじゃなくて、やんごとなき身分の方々の頼みをつっぱねると後々めんどくさいからしぶしぶ了承したんだけども。
「なっ!!この私に、目的地まで歩けとおっしゃるの!?この私は、ファスルベル侯爵の次女なんですのよ!」
お嬢様が駄々をこねだした。
「しかし、お嬢様。馬車はご覧の通り大破してしまって、とてもではありませんが乗ることはできませんわ。馬も逃げてしまったようですし・・・」
侍女の1人がごもっともなことを言って説得を試みるも、
「誰かが先に町へ行って馬車を借りてこればいいでしょう!?私にこんな山道を歩けだなんて、無礼にも程がありましてよ!!」
とおっしゃる。
誰かが町へ行って、と言うのはおすすめしないなぁ。
護衛の人たちはもう疲れきっているようだし、行く途中に魔物に襲われれば太刀打ちできないだろうからね。だからといって大人数で行けば、こちらの護衛がおろそかになって、ご令嬢の身が危うくなる。
別に私たちが行ってあげてもいいんだけど、であったばかりの私たちは助けてもらったとはいえ、完全には信用できないだろう。
馬車を借りるお金を渡して持ち逃げされたら困るだろうからね。
なんとかお嬢様を説得しようとする護衛と侍女の皆さん。
「お嬢様、どうか辛抱なさってくださいませ。歩くほかに町にたどり着く手段はないのでございます」
「私はドレスを着、ヒールを履いているんですのよ!?また、野蛮な魔物に襲われでもしたらどうするのです!!歩き疲れた私は逃げ遅れて、けがわらしい魔物の餌食になってしまうに違いありませんわ!!」
「お嬢様、ご安心くださいませ。万が一そのような事態になった時は、ベン様たちが、お嬢様を身をていして護ってくださいますわ。決してお嬢様をおいていくなんてことはございません!」
「人はいつ裏切るかわからないものですわ!信用なりません」
とまぁ、こんな具合でなっかなか動こうとしない。
この状態でわいわいがやがや騒いでいる方が、余計に魔物に襲われやすいと思うんだけどなぁ。
「お嬢様、町までは大した距離はございません。お嬢様は、我々一同が命に代えましても護りぬきますゆえ、どうか歩いてはいただけませんでしょうか」
ベン=ビルディンさんもそういうんだけど、このお嬢様頑固である。
嫌ですわ、の一点張りだ。
このままじゃ拉致があかない。
「ねぇ、ベンさん」
私は困り果てたベンさんに提案してみた。
「さっきみたいに私がお嬢様を運んでさしあげましょうか?」
「さっきみたいに、とは?」
あ、そっか、ベンさんあの時ボーンベアの方をむいててこっちみてなかったんだっけか。
「いわゆる姫抱きってやつですよ」
「まさか、それをお嬢様が許したのか?」
「やー、嫌がってはいましたけど」
別にお嬢様に嫌われても実害なかったら構わないよね。
そのことを聞いたお嬢様、なぜか顔を赤らめて怒りはじめた。
「あ、あなたに姫抱きにされるくらいなら、自分で歩きますわよ!!私にだって、プライドというものがありますわ!」
「よし、今歩くって言ったね?」
「!?」
「ベンさん、お嬢様歩くってさー!」
「ああ、確かに聞いたぞ。お嬢様、歩いてくださるんですね?」
顔をさらにまっかにするお嬢様。
「は、はめましたわね!?」
んー?
はめたつもりはないんだけどなぁ。
ものすごく嫌そうな顔をしながら歩きはじめるお嬢様。
いやぁ、よかったよかった。
「いやはや、貴殿には世話になりっぱなしだな」
頭をかくベンさん。
そして、おもむろに語り始めた。
「フランチェスカお嬢様は、みてのとおり気位の高いお方なんだ」
「まぁ、そうですねぇ」
誰だってわかりますよね。
「お嬢様はファスルベル侯爵の二番目の娘であられるんだが、姉君のフランソワーズお嬢様がたいへんできたお方でな」
ほうほう、フランソワーズお嬢様とな。
いかにもお嬢様ってかんじの名前だね。
「父君のファスルベル侯爵も、フランソワーズお嬢様の方をたいへんに可愛がってらして、いつでもお二人は比較されていたんだ」
ふんふん。
日本でもありがちだよね、そういうの。
「で、フランチェスカお嬢様はフランソワーズお嬢様に、敵対心や対抗心を抱くようになってしまわれたわけなんだ」
ふんふん、それでそれで?
「フランソワーズお嬢様は、16歳の時にこの国の宰相の正妻として嫁いでいかれ、現在二児のお子を授かっている」
ふんふん、それはいいことだね。
「ここからが問題だったんだが。フランソワーズお嬢様に敵対心やら対抗心を持っているフランチェスカお嬢様は、フランソワーズお嬢様のお相手である宰相よりも、もっと身分の高い方に嫁がねばとお考えになってな」
ふんふん・・・ん?
「宰相よりもえらい人ってなると・・・王族ですか?」
「そのとおりだ。フランチェスカお嬢様は、この国の王太子殿下の婚約者候補に名乗りを挙げたんだ」
「そりゃまた・・・」
大きくでたね。
まぁ侯爵令嬢ともなれば釣り合いはとれてるかな?
でもさ。
「王太子殿下って、たしか婚約者がすでにいらっしゃいますよね?」
公爵令嬢の婚約者がいるって、アニタさんから聞きましたよ、私。
「一夫多妻制だってことをお忘れか」
「あ」
そういやそうでした。
この世界は一夫多妻制でしたよ。さっきも正妻っていってたもんね。
「フランチェスカお嬢様は第二婦人をねらっていらっしゃったんだ」
そこまで話して、顔をしかめるベンさん。
「だが、フランチェスカお嬢様のことを、とあるお方が見初められてな」
「へぇ?」
見初められてってことは、少なくとも侯爵以上の身分の人だよね。
公爵か、王族かってところだ。
「王弟殿下なんだ」
ほー。国王の弟さんですかぁ。
あれ?おいくつだったっけ?
「今年で47になる」
あら、エスパー?
「すでに4人の妻があられる」
わーお。好色家なの?
あ、ちなみに。一夫多妻制でも、奥さんは5人までって決まってるらしいよ。大抵の人は3人くらいまでしか娶らないそうですが。
王族はその限りじゃないって聞いたけどね。
「元々、フランソワーズお嬢様を気にいってらしたようでな。フランソワーズお嬢様が結婚なされたので、その妹であるフランチェスカお嬢様で妥協されるとか」
女の敵ですね、王弟殿下。47の好色家のくせに。
「ファスルベル侯爵が44であるから、父君より年上になるな」
え、お父さんより年上の人に嫁ぐとか。
さすがに嫌じゃありませんこと?
「そうだ。だからフランチェスカお嬢様は、はるばるこのマウンテまで逃亡されてきたんだ」
・・・・・・・やっぱり、めんどくさい事情を抱えてらっしゃったようです、この侯爵令嬢ご一行。