1-5【祠巡りその2:深淵種子からタロスヒル】
結局、様々なエリアを渡り歩き、三日掛けて判明している範囲の祠37か所、新たに発見してしまった祠12か所を直して回ったが、目当ての【深淵種子】を捧げるべき祠を見つけることができなかった。
「うーん。どこに俺の探し求める祠があるんだろうなぁー」
「ユン、お前ずっと【アトリエール】にいないと思ったらそんなことやっていたのか」
カウンター越しに対面し、呆れたように呟くタク。
「確か【深淵種子】でわらしべイベントは終わりだろ?」
「だけど、調べたら【祠】に捧げるってフレーバーテキストが出てきたんだよ」
俺が図書館で見つけた本に関してタクに伝えるが、信じていないような半目でこちらを見てくる。
「はぁ、やっぱり祠ってどこにあるんだろうなぁ」
唯一、心当たりがあるのだが敢えてそれには触れない。絶対に行きたくないからだ。
「祠ねぇ。その話が本当なら、あそこは行ったか? 墓地の――『あーあー、聞こえなーい!』――」
微妙な表情を作って互いに見つめ合う俺とタク。
「墓地にある――『墓地なんて知らないーい!』――墓地ダンジョンの中!」
「やっぱりあるんよな! 行きたくないし! 改めて聞きたくなかった!」
墓地ダンジョンとは、第一の町から南東の方向にある湿地帯よりの一画に墓地があり、その中にダンジョンの入り口があるのだ。
そのダンジョン内には、ゴーストやアンデッド系MOBなどが多数出現する。
「ううっ、あのダンジョン。ダンジョン入り口手前に生えている【マンドラゴラ】くらいしか倒したことないんだよぉ~」
「【マンドラゴラ】って、いる場所ダンジョンの外じゃねぇか」
「悪いかよ! ホラー苦手なんだから!」
開き直って言葉を返すと、タクはバツの悪そうな顔をして頭の後ろを掻く。
と、いうか。薄々そんな気はしていた。
【精霊の泉】で要求された【根源体】は、アンデッドの中でゴースト系MOB共通のレアドロップだ。
逆に、スライム系なら【スライムの核】、実体のあるアンデッド系なら【守護霊の紫水晶】などが存在する。
だから、【根源体】を集めやすい場所が墓地ダンジョンか【ホリア洞窟】の二つに絞られる。
そして、2回目以降の交換では一度に10個の【根源体】を要求され、それを満たすために墓地ダンジョンを歩き回れば必然的にタクのいう【祠】を見つけることができるのだ。
だけど――
「ううっ、あそこのゴーストとかアストラル系MOBっていきなりヌルッと出てくるから怖いんだよ!」
「いや、ユンの今のレベルだと雑魚だろ。いい加減行ってこいよ。それに、リゥイの【浄化】スキルで一発だろ」
そう言って、【アトリエール】の隅で休んでいるリゥイが立ち上り、任せろと言わんばかりの目を向けてくる。
「……わかった。何時までも逃げちゃ駄目なんだよなぁ」
はぁ、と重い溜息を吐き出して、リゥイとザクロを連れて墓地ダンジョンに向かう。
途中、敵MOBのマンドラゴラを倒して、ドロップアイテムの調合素材をついでに回収してダンジョンの中に入っていく。
「ううっ、こうなんか出そうな雰囲気が嫌だなぁ……って、早速出てきやがった!」
湿った暗いダンジョンに足を踏み入れれば、壁や天井からヌッと半透明な姿を現す敵MOBだが、現れると共に、パッとその範囲に光が差し、その姿が搔き消えて後には、ドロップアイテムがダンジョンの床に落ちる。
「……ほんとに、タクの言う通りリゥイが無双するなぁ」
俺の隣で、どうだ、という感じで顔を向けるリゥイの鬣を優しく撫ででダンジョンの奥に進む。
殆どの敵MOBは、リゥイによって近づかれる前に倒されていくので驚きも恐怖も覚える暇なくドロップアイテムに変えられる。
「あー、なんか楽だなぁ」
ダンジョンの曲がり角で出待ちしているMOBもリゥイの浄化の範囲に入り、飛び出す前に消えるので、ただのひんやりしたダンジョンと同じである。
「あー、ドロップには【根源体】が殆どないか。やっぱりレアドロなんだよなぁ」
とりあえず、報告にあったダンジョンの祠は第二階層にあるのでその階層を目指す。
第二階層までの敵MOBの強さは殆ど変わらないので、リゥイの浄化一発で安全地帯を築いて進む。
そして、第三階層に繋がる階段とは別の方向の行き止まりの大部屋。
そこの最奥の壁に祠があった。
「ここが【深淵種子】を捧げる祠……だといいなぁ。ここも違うと本当に当てがないなぁ」
俺はそう言って、ダンジョン内の小奇麗な祠に【深淵種子】を乗せる。
すると、【深淵種子】が光の粒子となって溶けて消え、ダンジョンの部屋の中を舞い始める。
その光の粒子は、俺たちを囲むように回り、徐々に別の姿に形作る。
それは、【深淵種子】と同じ闇色をした鱗を持つ胴体が俺たちを全方位取り囲んでいる。
「くっ! 囲まれた! 敵MOBとの戦闘のトリガーだったのか!?」
リゥイが威嚇するように成獣化して鬣を逆立て、ザクロも三尾の尻尾をピンと立たせて警戒する。
そして、ずるずると俺たちの周りを這うように動く胴体を見回しその先を追えば、俺たちの真上にその頭部が存在した。
「ひっ!? 蛇っ!」
大口を開けて二つに割れた長い舌を伸ばしてこちらを見下ろしている大蛇。
爬虫類の切れ長の瞳に睨まれて、俺もリゥイもザクロも戦意を喪失してその場に尻餅を着いてしまう。
『くくくっ、久しぶりの濃縮した暗闇の力は、いいなぁ! この俺様が祠の蛇王だと知って呼び出したのか! なぁ、嬢ちゃんよぉ!』
甲高い声で直接脳内に語り掛けてくる大蛇のMOB。
一応、言葉が通じるってことは、敵MOBじゃないってことだろうか。だが、本当に体が動かない。
『あー、動けないよなぁ! 【蛇の目】で動けないんだから無理に抵抗するんじゃねぇぞ!』
ずるり、と俺たちを見下ろす頭の位置を下げて俺たちの真正面に持って来る。
そうすると対等に会話しているっぽいけど、逆により距離が近くなり、食われそうな気がする。
「それで……祠の蛇王は、なんで姿を現したんだ」
『おいおい、呼び出したのはおめえだろ!』
「まぁ、そうだな。興味本位だから帰っていいぞ」
【蛇の目】で動きが取れないが、会話は成り立つのでお帰りを願うが、帰りそうな雰囲気はない。
『ははっ、おめえ面白いなぁ! だが、おめえに用が無くても俺様には用がある。ほれ、こいつだ!』
長い舌が口の中に戻され、再び出てきた舌が何かを掴んで俺の前に差し出される。
「こいつは、【タロスヒル】っつう素材だ。そいつで俺様の目薬を作れ、ただし素材には、鮮度が重要だ。鮮度のいい素材からでしか作れねぇ! そいつを作って来い!」
そう言って、赤い果物の【タロスヒル】を受け取り、俺たちの帰り道を用意するために尻尾を上げる。
【お遣いクエスト:タロスの目薬を作れ】
素材アイテム【タロスヒル】から【タロスの目薬】を作れ。
※【タロスヒル】の残り時間――【30:00】
突発的にクエストが発生した。
しかもお遣いクエストである。
「まぁ、素材はいくらでもある。その【タロスヒル】がダメになっちまっても俺様の所にまた持ってくれば、用意してやるぞ!」
そう言って、俺に一言告げた後、頭を下げて眠りに着く祠の蛇王。
ゴールデンウィークの長期休暇に合わせたOSOの短編です。どうぞ、お楽しみください。
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また、新作【モンスター・ファクトリー ~左遷から始まる魔物牧場物語~(旧題:左遷騎士と牧場娘)】も楽しんで頂けたら幸いです。
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