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いちがん ーBelieveー  作者: とらすけ
六章 誰かが落とした悲しみ
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 三話・初陣


 三話 初陣



 テクノポリス中央広場、現在。


「さっそくだが、任務がある 」


 ミナミの言葉で全員に緊張が走る。


「ここからは距離があるが、ハローの浅い位置に孤立した面影村という集落があるという情報があって、僕らにその村の現状の調査に向かってくれという要請があった 」


 いよいよ本当の戦いが始まる。皆、拳を握り締めてミナミの話を聞いていた。


「これから、すぐ出発する 車を三台用意したので、それに分乗して行く予定だが、一台目はパンダとショウでパンダ、君が運転してくれ 二台目はシンフォニー家でキャスーが運転 三台目はキャスタリア村の君たちだが運転はまだ無理なので、僕が運転する 」


 付いて来てくれというミナミの言葉に一同はぞろぞろとミナミのあとを付いていくと、門の手前にごつい軍用車のような大きな車が三台止まっていた。


「すげぇ 」


 ドーバが感嘆の言葉を漏らす。


「よし それじゃあ急ぐぞ 」


 ミナミの言葉でそれぞれ車に乗り込みエンジンを始動する。


「地図で目的地を確認してくれ それと、カイ隊長の部隊と違って燃料はタンクに入っているだけだから、走行距離と残量はきちんと把握するようにな 」


 ミナミからの注意に皆、了解すると一号車から順番に走り出す。最後の三号車が門を出るまで遠くから見守っていたイノたちは、車が見えなくなってもまだ門の外を見続けていた。


「俺たち、車に乗るの初めてなんだ いつも、馬車だからな 」


「馬車だって一年前の大会のとき初めて乗ったんじゃない 」


「まあ僕たち、田舎者にとっては初めてのことばかりですね 」


 三人の会話を聞きながらミナミは吹き出した。これから、魔獣やヘルシャフトと命懸けの戦いをしなければならないのに、三人にその恐れがないのはミナミにとって嬉しい誤算だった。これなら、わざわざ自分が運転手を務めなくても良かったかなと思いながら、前の二台に思いを寄せる。

 ショウとパンダは戦闘経験があるし、シンフォニー家の三姉妹も魔獣とは戦った経験があるという、やはり心配なのは、この三人が実際魔獣と相対したときに動けるかどうかだ。

 ミナミはルームミラーで後部座席の三人をみると、最悪残りの六人で任務にあたることも考えないとなと思いながら運転していた。



 * * *



 「もうすぐ着くぞ 」


 ミナミの言葉で三人に緊張が走る。それまでは逆に、少しくらい緊張しろと言いたいくらいはしゃいでいた三人だったが、さすがに顔が強張ってきていた。

 車は森の中の街道をしばらく走ると、いきなり視界が広がった。周りに畑や田園が広がり、その奥に固まった集落が見える。

 ミナミたちは物見櫓のある広場のような場所に車を止めると、車から降り歩き出した。


「私たちの村とあまり変わらないね 」


「いや 僕らの村のほうが雑然としてますよ 」


「ユーナ先生が練習とか言って、すぐ岩や木を切り散らかすからな 」


「よく、教授に資源を無駄にするなって怒られてたね 」


「マゴット先生からも、ちゃんと片付けろと言われてましたね 」


 三人は多少緊張が解れたようで話しながら歩いていた。その頃、テクノポリスではユーナが大きなくしゃみを何度も何度もしていた。

 そして、一同が歩き続けていると、一際大きな建物が現れる。


「あれがおそらく、この集落の長の家だろう 僕が挨拶に行って来るから君たちはここで待っていてくれ 」


 ミナミはみんなに言うと、一人歩いて行った。そして、しばらくして初老の男と一緒に帰ってくる。


「村長のヒラカズと云います 」


 ヒラカズと名乗った初老の男がノッコたちに挨拶し、ミナミがヒラカズにノッコたちを紹介する。そして、ヒラカズから村の現状を説明してもらった。

 田畑を耕作し静かに暮らしている、以前はもっと人が居たが、魔獣に殺されたり、出て行った者もいるので現在は百人足らずの小さな集落ですという事だった。


「魔獣に襲われたりもしますが、このまま静かに暮らしていければと思います 」


 ヒラカズは遠回しに、あなたたちの助けは不要ですと言う。そこをミナミは粘り強く説得し、みなさんの安全の為にこの周囲の魔獣は駆除していきますと言い、納得してもらった。


「今まで魔獣に襲われた時にはどうしていたんですか? 」


 ミナミの問いにヒラカズは、この村の唯一人居る戦士が魔獣を倒してくれるのだと答えた。


「戦士…… それは是非お会いしたいですね 」


 ミナミだけでなく他の隊員も会ってみたいと希望し、ヒラカズはそれならついて来てくれと歩き出し、一軒の家の前まで来るとドアをノックした。


「はいっ 」


 返事の後、ドアを開けて出てきたのは、少し髪を伸ばし柔和な顔をした中肉中背の青年だった。


「この村の戦士アマノ君だ アマノ君、彼らはテクノポリスという街の人達で魔獣を倒してまわっているらしい 」


 ヒラカズはアマノに軽くミナミたちを紹介する。


「そうですか ご苦労様です 」


 そう言うとアマノはミナミたちにお辞儀した。ミナミはアマノの腰に差した剣に目を留め、その剣はと尋ねる。


「ああ これは、この村に代々伝わる剣です この剣のおかげで魔獣から村を守れているようなものですよ 」


 それは、柄に木の枝が付いただけのように見えるが、その見た目とは裏腹に剣から発する空気は明らかに普通の剣とは異なっていた。


「それは聖剣ですよね? 」


 ミナミがアマノに問うと、アマノはきょとんとした顔で答える。


「聖剣と云うんですか 僕は村長から、この剣を使って魔獣から村を守ってくれと頼まれただけで 」


 そう言うとアマノは村長を振り返る。


「その剣は、遥か昔一人の女性がこの村の守護神として大切にしなさいと置いていったと古い書物に書かれている それ以来、この村一番の(つわもの)がその剣を振るい村を守ってきた 」


「女性…… 」


「隊長、何か心当たりでも? 」


 キャスーが腕を組んで考えるミナミに言う。


「いや 聖剣伝説というのが各地にあるんだけど、どの伝説でも聖剣を与えているのが一人の女性なんだ 」


 と、その時、ジャンジャンと村の半鐘が打ち鳴らされる。


「いけないっ 魔獣だっ 」


 アマノは叫ぶと広場に向かって走り出していく。ミナミたちも慌てて後を追う。


 広場に着くと物見櫓の上で村人が半鐘を鳴らしながら畑の先、森の方を指差している。 見ると森の中から魔獣が現れ、畑仕事をしていた村人がこちらに向かって逃げてきていた。しかし、すでに何人か倒れている人も見える。


「いくぞっ、みんなっ 」


 ミナミの号令で森に向かって一斉に走り出す。


「ギガントが何体か居る エーバーの数も多い 気を付けろっ 」


「了解っ 」


 ミナミの言葉にショウとパンダが答え、走りながら剣を構えると突進してきたエーバーに向かって剣を振るう。


「ランッ ミキディッ 行くよっ 」


 シンフォニー家の三姉妹も魔獣の中に切り込んで行く。アマノもそれに続いて切り込んでいった。

 しかし、ノッコたち三人はここにきて、ミナミの危惧した通り足がすくんで動けないでいた。

 村で(シールド)越しに魔獣を見たことはあるが、こうして現実に魔獣と対するとその迫力はまるで別のものだった。一突きで致命傷になるエーバーの鋭い角、斧や棍棒など武器を装備した巨大なギガント。その恐怖に身体が震えて動けなかった。


「ショウ、パンダッ ここはまかせたっ 」


「ラン、ミキディ ここを押さえておいて ノッコを助けに行く 」


 ミナミとキャスーが助けに向かおうとするが魔獣に阻まれなかなか動きがとれない。


・・・何やってんだ、ドーバ・・・


 ドーバはイノに言われた事を思い出した。昨日の晩、一人イノに呼び出されたドーバはそこでイノにある事を頼まれた。


 いいか、ドーバ、お前が二人を引っ張っていくんだ。お前の持つ聖剣はその勇気の証だ まず、お前が一歩を踏み出すんだ 忘れるなよ


・・・先生、俺・・・


 ドーバは震える足を叩き、力を入れる。


・・・フリップおじちゃんも、あの時・・・


 ドーバは、以前自分たちを救ってくれたフリップの姿を思い出す。


・・・俺が、ここで一歩踏み出さないと、あの時のおじちゃんみたいに・・・


「うおぉぉーーーっ 」


 ドーバは雄叫びを上げると右足を一歩踏み出す。そして、そのままギガントに向かって走り出した。


「駄目だっ まわりのエーバーに狙われるぞっ 」


 ミナミが叫ぶが、ドーバは一直線にギガントに向かって行く。


「たあぁぁーーーっ 」


「やあぁぁーーーっ 」


 ノッコとハーシも雄叫びをあげる。そして、聖剣の力を解放する。


「ヴァイスフェーダー 」


「ブラウシャッテン 」


 ドーバに飛び掛ろうとしていたエーバーが、ノッコの高速で空を飛ぶ剣で次々に切り裂かれ血飛沫をあげる。そして、ドーバの前から突進してきたエーバーはハーシの放ったモーントの強力な拳で粉々に粉砕された。


「凄いっ なにあれっ あれが聖剣の力…… 」


 キャスーが驚きの声を上げる。


・・・先生 先生の言ったとおりだ・・・


 ドーバ、お前が勇気を出して踏み込めば二人は必ず付いてくる、信じるんだ


・・・俺は一人じゃない このまま突き進む・・・


 ドーバは飛び掛るエーバーには一切目もくれず、ギガントに一直線に向かい、ついにその間合いに入った。


「シュバルツハンマー 」


 ドーバは大上段からギガントに剣を叩き込む。周囲の地面が地震のようにぐらっと揺れる。一撃だった。一撃でギガントは半身を粉砕されたうえ地面に減り込み戦闘不能になっていた。


「ギガントを一撃…… 」


 ミナミが絶句する。しかし、ドーバはそこで止まらず次のギガントへ向けて走り出す。

・・・ユーナ先生に三回は使える様にと言われて練習してきたんだ 実戦でも使えないと意味が無い・・・


 そして、二体目のギガントを今度は横殴りに剣を当て一撃で仕留める。もうすでにまわりのエーバーはノッコとハーシに倒されていた。

 ドーバの右にはノッコの剣ヴァイスフェーダーが並ぶように飛び、ドーバの後ろにはハーシの放ったモーントが影のように付いていた。


「最後の一撃だっ 」


 ドーバは飛び上がると渾身の一撃をギガントに浴びせる。そして、崩れ落ちたギガントを確認するとドーバもその場に倒れこんでしまった。


「大丈夫かっ 」


 ミナミたちがドーバに駆け寄る。


「ノッコッ ハーシッ 」


 キャスーの声に皆が振り向くと、ノッコとハーシも倒れていた。そして、ミナミたちが倒れた三人を抱えていこうとした、その時、森の中から巨獣ダムが現れた。

 

「このタイミングで、ダムか 」


「急いで倒さないと、また、魔獣を呼ばれてしまいますね 」


 ミナミとキャスーが剣を構えダムに向かおうとすると、アマノが二人の行く手を塞ぐ。


「ありがとう 君たちのおかげで助かりました ダムは僕が倒します 」


 そう言うとアマノは腰から剣を抜き、ダムに向かう。そして、アマノが腕を広げると、そこに風が集まっていくように感じた。


「グリューンヴェント 風の旋律 」


 アマノが剣を振ると、集まった風が竜巻のようにダムを襲う。その一撃は巨大なダムの身体を一瞬でばらばらに粉砕した。そして、アマノはポケットから出したボトルに入っていた液体を、ばらばらになったダムにかけると火を点けた。


「こうすれば、この魔獣は復活しないんだよ 」


 初めの頃は苦労したんだ、倒しても倒してもまた復活してくるから、どうしたら倒せるのか考えてね。木の魔獣だから火を点けてみたけど表面が燃えるだけでほとんどダメージを与えられなかった。

 でもこうしてばらばらにしてから燃料をかけて燃やせば良かったんだ。アマノは焚き火のように燃えるダムに手をかざしながら言う。


「よし、大丈夫だ 」


 この時点で動いたりしていなければ、もう復活はしない。もし動いたりしたら燃料を追加してもっと火力を上げるんだよとアマノは言う。


「でも、燃料は貴重だからね 」


 夕暮れ時の村で、アマノは淋しそうに笑った。


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