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いちがん ーBelieveー  作者: とらすけ
五章 三本の聖剣
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 三本の聖剣

 三本の聖剣




「よーし 集合 」


 イノが号令すると、それまで森の中で戦い方を考えながら練習していた、ノッコ、ドーバ、ハーシの三人が集まってきた。


「これから、ゴンタを相手に戦ってもらう ゴンタから一本でも取れたら合格だ 逆にゴンタに猫パンチくらったアウトだからな 」


「えーっ ゴンタちゃんからなんて無理だよ 」


「始めから諦めてどうする お前たちは三人居るんだからな 頭を使ってやってみろ 用意が出来たら始めるぞ 」


 イノの言葉に三人は、円陣を組んでひそひそと作戦を練る。そして、作戦がまとまったようで円陣の中央で手を合わせると、おーっと掛け声を上げた。


「先生 始めていいよ 」


「よーし、いくぞ 始めっ 」


 イノの掛け声で、ゴンタが魔獣化する。ノッコたち三人はそれぞれ別の方向に走り出した。ゴンタは、まず少し出遅れたハーシを狙う。そして、あっという間に追いつくと右の前足で猫パンチしようとする。が、ハーシは左に飛んで転がった。ちょうど、ハーシが転がったところは斜面になっており、ハーシはそのまま斜面を転がり落ち、ゴンタの攻撃から逃れようとする。


「おーっ やるじゃないか うまく地形を利用してるな 」


 しかし、転がり落ち止まったところを、あっけなくハーシは猫パンチをくらいアウトとなった。

 次にゴンタはノッコに向かう。ノッコはもう森の中に逃げ込んでいたが、ゴンタにとってそれ程の距離ではなかった。間近に迫ったゴンタを見たノッコは、猫パンチをくらう寸前大きくジャンプする。そして、木の枝に結んであったロープを掴む。一瞬戸惑ったゴンタだったが、空中のノッコ目掛けて跳躍した。しかし、反動をつけていたノッコは振り子のように大きく身体を振り、次のロープに飛び移る。


「ノッコもなかなかやるな 」


 しかし、ノッコも三本目のロープに飛び移る前に、ゴンタに猫パンチをくらいアウトになった。ゴンタは最後のドーバに向かった。ドーバは広場に立ちゴンタを待ち構えていた。剣の代わりに持っている木の棒をくるくると回し、ゴンタの出方を伺っているようにみえるが、何かぶつぶつと数を数えている様だった。それを見たゴンタは警戒するように、ドーバに飛び掛る姿勢のまま一旦動きを止めた。その時、なんとドーバからゴンタに向かって飛び出した。


「さん 」


 なにか掛け声をかけながら走って来る。


「にい 」


 ゴンタもドーバに向かって飛び出した。ドーバも走りながら木の棒を構え迎え撃つ体勢でいる。


「いち 」


 ゴンタがドーバに飛び掛る。ドーバもゴンタに向かって木の棒を振り下ろす。


「ぜろ 」


 ドーバがそう言った瞬間、ゴンタの魔獣化が解け、身体が小さくなる。そこへ、ドーバの振り下ろした木の棒がポコリと当たった。


「やったーっ ゴンタちゃんから一本とったぁー 」


 ノッコとハーシも万歳しながらドーバに駆け寄る。ゴンタは、参りましたというようにふにゃっと鳴いた。


「今のは反則じゃないのか 」


 いつの間にかノッコたちの戦いを見ていたコッコが言う。


「いや、よく考えたと思うよ 魔獣化したゴンタには俺も勝てないからな 十分、合格だ 」


 イノは、良くやったよとコッコに答えた。


「そうだっ、ちょうど良かった コッコもあいつらと戦ってくれないか 」


「俺が 」


「ああ これでな 」


 イノは紙で作ったハリセンをコッコに渡す。


「本当は俺がやるつもりだったけど、コッコの方が適任だ 」


 そうかぁと、イノに(おだ)てられコッコもその気になる。


「それでは、お前ら 最終試験だ コッコ先生が相手してくれる 」


「コッコ先生 よろしくお願いします 」


 三人は声を揃えて言うと、コッコに深くお辞儀した。


「う、うむ 」


 コッコは照れたように顔を赤くしながら胸をそらす。そこへ、ユーナとマゴットも顔を出した。そして、教授とキャスタリア村に来ていたマツ分隊長もやって来た。


「私たちも見学させてもらうね 」


「はいっ 」


 ノッコたちはギャラリーが増えたことで緊張した声で返事する。イノはノッコたちの頭を撫でると、思い切りやれば大丈夫、頑張れと勇気付ける。


「どちらか、参ったと言った方が負けだからな それでは 始めっ 」


 イノの合図でノッコたちは、また一斉に逃げ出した。


「おいおい、また逃げるのか 俺はゴンタみたいに変身が解けたりしないぞ 」


 コッコは余裕で呟きながら、ハリセンを持って追いかける。


「疾風のコッコとでも呼んでもらうか 」


 コッコはにやにやしながらノッコに追い付くと、ハリセンで軽く叩く。


「いたーいっ でも参ったは言わないよっ 」


 ノッコはそのままロープに飛び移り逃げ出す。コッコがよく見ると森の木のいたる所にロープが結び付けられ垂れ下がっていた。よほど練習したのだろう、ノッコはロープを使い森の中を縦横無尽に飛び回る。

 やるもんだなとコッコもロープに飛び移りノッコを追いかけ始めた。そして、さすがにあっという間にノッコに追い付くと、ハリセンを構えて言う。


「ほーら もう一発いくぞ 」


 コッコが次のロープに手を掛け、ノッコをハリセンで叩こうとしたその時、ノッコがコッコの方を向いてニヤッと笑う。そして、コッコの体重がロープにかかった瞬間、ロープのかかっていた木の枝が折れ、コッコはそのまま落下した。


「なにぃーっ 」


 コッコは悲鳴をあげながらも空中で体勢を立て直そうとするが、その時草むらに隠れていたハーシが現れコッコに向かって投網を投げる。


「うわぁーっ 」


 網に絡まったままコッコは落下し、なんとか立ち上がると、そこへドーバが現れコッコをトンと押した。コッコがよろけて二三歩後ずさると、コッコの足元の地面が崩れ、ぽっかりと穴が開く。ご丁寧に落とし穴の中には泥水が貯めてあった。そして、網に絡まったまま落とし穴にはまったコッコの周りに三人が集まり、木の棒でポカポカとコッコを叩く。


「うわっ 参った 参りました 」


 コッコはたまらず降参した。


「だらしなーい 」


 落とし穴に落ちたコッコの周りに集まってきたギャラリーの中で、ユーナが開口一番コッコに向かって言う。


「油断しすぎだ 」


 マゴットが笑いながら言うと、教授やマツも同感だというように、うんうんと頷いた。絡んだ網を取り外し、落とし穴から這い出そうとしていたコッコはイノの顔を見ると口を尖らせて文句を言う。


「イノ こんな仕掛けあるの知ってたんじゃないのか 」


「まあ、ここで試験するとは伝えてあったからな 何か準備するだろうとは思ってたけどこんな仕掛けを作ってたとはな 俺も知らなかったよ 」


 イノは泥だらけのコッコに手を貸し落とし穴から出るのを手伝う。穴から出たコッコの前にノッコたち三人は並ぶと頭を下げてお辞儀した。


「コッコ先生、ありがとうございました 」


「コッコ 俺からもありがとう こいつらのいい経験になった 」


 イノが言うと、ユーナたちが周りから拍手を贈る。コッコは照れたように、水浴びて着替えてくると逃げるように去っていった。


「さて おめでとう 試験は合格だ 」


「やったーーっ 」


 ノッコたちは万歳しながら飛び回る。イノもノッコたちの頭を撫でながら、よく頑張ったなと自分も嬉しそうだった。


「ほんと みんな凄いね ちょっと前より断然強くなったよ 」


 ユーナに言われ、ノッコは、もう少ししたらおねえちゃんより強くなる、と断言した。


「それは無理だよ、ノッコ ノッコが強くなったら、私はもっと強くなっているから 」


 ユーナが言うとノッコはへへんという顔で……


「おねえちゃんは、すぐおばあちゃんになるでしょ ノッコはまだ若いからノッコの方が強いよ 」


 ユーナはノッコの言葉にショックを受け、口を開けたまま硬直した。


「それは違うぞ、ノッコ 老練という言葉を知っているか 」


 ノッコはイノに、知りませんと答える。


「老練と云うのは、年をとってもそれまで積み重ねてきた経験でさらに強くなっている人の事だ 若いだけじゃ、ユーナには勝てないぞ、ノッコ 」


 イノの言葉に、ユーナは両手でがっしりとイノの手を握る。その眼は涙ぐんでいるように見えた。どうしたんだと戸惑うイノをユーナはうるうるした目で見つめる。


「イノ あんた、初めて私のこと…… 」


 感極まったのか言葉の続かなくなったユーナに、イノの横から教授が口を出す。


「今のはイノ君がノッコに慢心しないように言った言葉だと思うが…… 」


 マゴットが慌てて教授を、せっかく機嫌がよくなったのに余計なことを言うんじゃないと押さえつける。マツは困惑した顔で皆を見回していた。


「さて ノッコたちの次の目標だ 」


 イノはユーナの手を振り払うと、ノッコたちに向かって言う。


「三ヵ月後にテクノポリスでコート・オブ・クリムゾという武術大会がある 」


 国王主催の大会で、成年と少年の部があり、それぞれ男女別に開催される。ここで好成績をだせば賞金や賞品が貰えるうえに希望の部署や部隊に配属可能になるらしいから毎回参加希望者が押し寄せるらしい。イノは軽く説明すると、ポカンとした顔をしている三人に、そこでだと言う。


「本来ならまだ参加できる年齢ではないんだが、ここに居るマツ分隊長の計らいでお前たちも参加できることになった 」


「えーーっ 本当っ 」


「本当だ 出るからには優勝目指して頑張れ 」


「うん マツ分隊長、ありがとう 」


 三人はマツに向かって頭を下げる。


「いや、俺だけじゃなくて、カイ隊長や教授やユーナも口添えしてくれたから それに、あの神将を追い詰めてノヅチも倒した君たちの先生の推薦だからな 王もカシギ様も文句ないさ 」


「みなさん、ありがとうございます 私たち頑張るっ 」


 ノッコが代表してお礼を言う。ドーバは拳を握り締め、ハーシは腕組みしたまま大きく頷いた。


「みんな 期待しているからね 私もその大会で優勝した経験があるんだ 」


 ユーナが遠くを見る目で言う。横でマツが頷きながら、そうあの時の大会のことはよく憶えていると言い、ユーナをチラリと見る。

 そういえば、あの時の宰相はカシギではなかったと思うがとユーナは記憶を探るが、教授の言葉で頭の中から抜けてしまった。


「確か、女子の部の優勝者が男とも戦わせろとか言って揉めたんじゃなかったか あれが、ユーナだったか 」


 教授が思い出したというように、ユーナを見ながら大きな声で言う。


「ちょとぉ 教授っ 」


 ユーナが慌てて止めようとするが……


「それで、マゴットと戦ってボロボロに負けたんだよな 」


 着替えを終えて戻ってきたコッコが、さっきの仕返しとばかりにユーナの過去を大声でばらす。


「まあ、それが切っ掛けでこうして一緒になったわけだから良かったんじゃない 」


 コッコは二人を見て笑いながら言う。


「なるほど それが二人の馴れ初めか 」


 イノが、マゴットにユーナの何処が気に入ったんだと追求する。その足元でゴンタも興味深そうに、二人をじっと見つめ耳をピンと立てていた。


「わ、我は最初、小生意気な女を叩き潰してやるつもりだったが、何度も必死に向かってくる姿を見るうちに…… 」


 意外にイノもゴンタもこういう話が好きなのか、目を輝かせて夢中になっている。


「ユーナはどうなんだ? 」


 イノに追求されユーナは、普段のユーナから想像つかないモジモジした態度で、自分より強い人だからと小さな声で言う。


「わーーっ おねえちゃん、赤くなってるっ 」


 それを見てノッコたちが(はや)し立てる。しばらく、(うつむ)いてぷるぷるしていたユーナだったが、頭を上げキッとイノを睨みつけると剣を抜く。


「ローゼパイチェ 」


「ちょっ なにする気だっ? 」


「斬るっ! 」


 嘘だろっと逃げ出したイノを、剣を抜いたユーナが追いかける。イノはノッコが用意していたロープに掴まり空中へ逃げた。そして、ロープを次々に飛び移りユーナから逃げようとするが、四本目のロープに飛び移ったところで木の枝が折れ、イノはぎゃふんと無様に地面に落下した。


「あーあぁ 先生、赤いロープは駄目って気付いてなかったのか 」


 ノッコの、残念という言葉に森中にみんなの笑い声が響き渡った。



 * * *



 三ヵ月後、テクノポリス。


「どうした 緊張しているのか 大会はまだ三日先だぞ 」


「だって私たち、こんな大きな町初めてだし、大勢の人の前で戦うのかと思うと 」


 イノは町のレストランで、夜の食事を頼みながら三人の緊張を解こうとするが、ノッコたちは固くなったまま食事も喉を通らない様子だった。

 そこへ、お疲れ様と聞き覚えのある声が耳に入ってきた。声の方を見ると、ユーナが手を振りながらマゴットとコッコと一緒に店に入ってきた。


「私たちも応援に来たわよ 」


 そして、自分たちの後ろに手を向ける。そこにはシンフィールドが車椅子を押して入って来ていた。車椅子の上には、なんとフリップが座っている。まだ、両手両足も動かず言葉も喋れないが、シンフィールドに自分もノッコたちの応援に行くと目で訴えたという事だった。


「フリップのおじちゃんっ 」


 ノッコたちは椅子から立ち上がると一直線にフリップに駆け寄り車椅子を取り囲む。


「おじちゃん ノッコたち、頑張るから 」


「俺、強くなったよ 」


「僕の成長した姿、見てください 」


 三人は口々にフリップに話しかけ、フリップもにっこり笑って聞いているようだった。


「よし それじゃあ、お前たち しっかり食べて、体力つけないとな 」


「うん 」


 三人はテーブルに戻ると、それまで緊張で喉を通らなかった食事をガツガツと食べ始めた。


「ありがとう あいつら、ご飯も食べられない程緊張してたから助かりました 」


 イノが車椅子のフリップにお礼を言うと、フリップの口元が動いた。


「イ……ノ…… 」


 えっ……とイノをはじめ皆が驚く。イノはフリップの口元に耳を寄せた。


「ノッコ……たち……頼む……な…… 」


 イノはフリップの動かない手をがっしりと掴むと、任せてくれと誓い、ユーナは両手を口に当てて涙ぐみ、シンフィールドは、うおぉーっと雄叫びを上げていた。



 * * *



大会当日。特設アリーナの中にノッコは居た。これから、少年女子の部の試合が始まる。


「大丈夫、ノッコ 」


 ユーナが心配そうに聞くが、ここに来てノッコは逆に落ち着いたようだった。この日の為にユーナは、昔自分が来ていた身体にフィットし軽くて動きやすい赤いバトルスーツをノッコの体型に合うように手直しして着せていた。


「よく似合うよ、ノッコ 」


「ありがとう おねえちゃん 」


 片手に剣を持ち、髪を後ろで結わえて赤いバトルスーツに身を包んだノッコの姿は、ミニユーナのようであった。


「カッコいいぞ、ノッコ それじゃ行って来い 」


 イノはノッコを送り出すと、観覧席にユーナと戻った。


「大丈夫かな、ノッコ 」


 ハーシが心配そうにドーバに言う。


「大丈夫さ だって俺たちの先生はあのイノ先生だぞ それに、コッコ先生やユーナおねえちゃん、マゴットおじちゃんやマツ分隊長まで教えてくれたんだ 負けるわけないさ 」


 ドーバの言葉通り、勝負は一瞬だった。

 開始の合図とともに飛び出したノッコは、相手の間合いに一瞬で入り頭上から一撃。そして、怯んだ相手に間髪入れず横から胴を一撃。その一撃で相手は横に吹っ飛び、審判が手を挙げ終了となった。その動きに歓声が沸き起こる。


「凄い動きだな、あの娘 レベルが違う気がする 」


「あの娘ですよ、クリムゾ王 ノヅチを倒したイノ君の弟子というのは 」


「そうか 流石だな カイ君や教授も薦めるだけのことはある 」


 王とカシギも見守るなか、ノッコとドーバ、ハーシも順調に勝ち進んでいく。そして、少年男子の部、準決勝。


「ほんとなら決勝で会いたかったな、ドーバ 」


「こればかりは仕方ないさ 」


 がっしりとした身体全体を覆うフルプレートに身を包み盾と剣を装備するドーバ。対して黒いスーツにブレストプレートのみという動きを重視したハーシ。二人がアリーナの中で相対する。そして、審判が開始の合図が告げる。

 合図と同時にハーシが飛び出す。ドーバはどっしりと迎え撃つ構えだ。


・・・まともに行ったらドーバに潰される あのフルプレートと盾、いくらドーバでも動きは鈍くなる それに頭を覆う兜で視界は悪い ここはドーバの死角から攻める・・・


・・・ハーシがまともに突っ込んでくるわけがない 必ず俺の死角から攻撃してくる 右か左か上か・・・


 ドーバの予想通り、突っ込んできたハーシの姿が視界から消える。咄嗟にドーバは左右と上を確認するがハーシの姿はない。


・・・まさか ・・・


 ドーバは下を見る。すると、スライディングしてきたハーシがまさに剣を突き出す寸前だった。それを辛うじて盾で防いだドーバは横に飛び退き、剣を振り下ろす。ドーバの剣を転がって避けたハーシはすぐに立ち上がり間合いをとる。


・・・さすがドーバだ 簡単に決まるわけないか・・・


 ハーシは再びドーバに向かって突っ込む。そして。ドーバの視界からハーシの姿が消える。


・・・ハーシが同じ事をするわけがない それなら・・・


 ドーバはくるっと後ろを振り向くと剣を振り下ろした。


「うわぁっ 」


 まさにドーバが剣を振り下ろした位置に居たハーシは避けきれず、ブレストプレートに剣戟を受け吹き飛んだ。が、審判の手は挙がらず試合は続行される。


・・・今のは見て剣を振ったわけじゃない ここだろうという勘で振っただけだ それなら死角のぎりぎりから攻撃する・・・


 ハーシは息を大きく吸い込むと飛び出した。再びドーバの視界からハーシが消えた瞬間、ドーバは兜を脱ぎ捨てた、そして、広くなった視界でハーシの姿を捉える。


・・・右斜め前・・・


 ドーバの放った一撃は、ハーシをまともに捉えて吹き飛ばした。そして、審判の手が挙がる。ハーシはよろよろと立ち上がると、ドーバに握手を求めた。


「最初から作戦だったな 」


「えっ 何のことだ 」


 とぼけるドーバにハーシはやれやれといった口調で言う。


「わざと僕に死角を狙わせたんだろう その兜を被っていれば僕が死角を狙ってくるのは間違いないものな やられたよ 」


「悪いな こうでもしないと、お前何してくるか判らないからさ 」


 二人は固く握手をかわした後、ハーシは退場していった。


 そして、いよいよ少年女子の部、決勝が行われる。


「ノッコの相手のあの子はどんな子なんだ? 強そうだが 」


 イノが隣のマツに聞く。


「強いぞ 彼女はシンフォニー家の三姉妹の長女キャスー 」


 マツは、彼女は遠征部隊に入りたいらしく試合に勝ったら入隊させてくれとカイ隊長に頼んでいたと言い、だから負けられないんだと思うと続けた。


「今度の私の相手、凄く強いよ 老練だっけ、先生が言ってたの 」


「老練ってほど年とってないけどね でも、ほんと強そうね 」


 ユーナはノッコの試合前のチェックを行いながら、相手の様子を伺う。ノッコと同じ動き重視の身体にぴたりとフィットしたバトルスーツを着用し、その白い色が汚れていないのは此処まで無傷で勝ち上がってきたということだろう。ただし剣はスピードを重視したノッコの細身で片刃の剣に対して、重量のある両刃で幅広の剣を備えていた。


「それでは、用意して  始めっ 」


 審判の合図で、これまで同様ノッコが飛び出す。これまでの相手はこのノッコの速攻で怯んでしまい一撃を浴びていた。しかし、キャスーは怯むことなくノッコの一撃を剣で難なく受けると、そのまま剣を振り切る。


「うわっ 」


 軽量のノッコは軽々と弾き飛ばされ地面を転がるが、ノッコの攻撃も止まらない。すぐさま起き上がったノッコは再びキャスーに向かい突っ込む。そして、正面からいくと見せかけて右に飛んだ。が、キャスーはそれにも反応し凄まじいスピードでノッコ目掛けて剣を振り下ろす。


・・・この人なら、ここまで読んでて当たり前 ・・・

 ノッコはここからさらにジャンプし頭上からの一撃を狙う。剣を振り下ろしているキャスーは上には対応出来ない、そうノッコが思った瞬間、キャスーは振り下ろした剣をそのまま地面に打ちつけ、その反動で剣を振り上げる。そして、ノッコに一撃を浴びせる。


・・・凄い、こんな事が出来るんだ・・・


 再び地面に転がったノッコだったが、それでも攻撃は止まらない。続けてキャスーに向かって剣を打ち込んでいく。が、その度にキャスーに反撃をくらっていた。そして、いつの間にかノッコは壁際まで追い詰められていた。


・・・追い詰められた 先生ならこんなとき・・・


 ノッコは壁を背にして剣を構え、これまでの練習を思い出す。そして、先に動いたのはキャスーだった。もう左右にしか逃げ道はない状態で、キャスーはノッコがどちらに飛んでも対応できるよう剣を上段に構え踏み込んでくる。そして、キャスーは剣を振り下ろし、ノッコが地面を蹴る。右か左かと誰もが思ったなか、ノッコは地面を蹴った勢いでそのまま背後の壁面を駆け上がり、今度は壁面を蹴ってキャスーの頭上を飛び越え背後にまわった。ノッコが森の中で練習していた、本人が「木走り」と呼んでいる技だった。そして、キャスーの背後から剣を振り上げる。


「やったーーっ 」


 ドーバとハーシが立ち上がり大声を上げる。

 しかし、両手で前方に剣を振り下ろしていたキャスーは左手を剣から離し、そのまま右手を伸ばして剣を振り抜く。そして、なんと剣の重量と遠心力でくるりと身体の向きを変えると、その剣の勢いのままノッコに剣戟を浴びせた。カウンターでキャスーの剣を浴びてしまったノッコは地面に転がり、そのまま気を失ってしまった。

 ここで審判の手が挙がる。優勝はキャスーとアナウンスされ、キャスーの手が挙げられた。


「ううんっ 」


 ノッコが気が付くと、キャスーが四つん這いでノッコの顔を心配そうに覗き込んでいた。まだ、アリーナの地面の上、ノッコが気絶していたのはほんの短い時間のようだった。そこへちょうど救護班が担架を持ってくる。


「大丈夫? 」


 担架に乗せられたノッコの横を一緒に歩きながらキャスーは心配そうに訊く。


「うん へーき ありがとう 」


「ごめんね あなたが私の想像以上に強かったから 私も全力でいかないと…… 」


「私が強い…… 」


「そう 最初の一手であなたが只者ではないとわかった 小柄な身体で細い剣なのに受けた剣戟はずしりと重いものだったから 身体の筋力やバネ、スピードが高い次元で揃っている人だと思って私も全力でぶつかったの 」


 ノッコは担架で運ばれながら、全力で相手してくれたキャスーに感謝した。


「もし、あなたが策士だったら最初の一撃をわざと軽くして私を油断させたでしょうね そうすれば、勝っていたのはあなただったかもしれないね 」


「ううん 私はそんな勝ち方したくない おねえちゃんとは全力で戦いたかったから 」


「あなた、いい子ね 」


 キャスーはノッコの頭を優しく撫でると微笑んだ。


「ノッコは残念だったな 」


 マツがイノに話し掛ける。


「でもこれでノッコのいい経験になった、キャスーという娘に感謝だな ヘルシャフトや魔獣相手だと判断を誤ると命を失くすからな、こういう所で経験を積めれば言う事ないさ 」


「次はドーバか 」


 マツは頷きながらアリーナ中央を見る。少年男子の部決勝が行われようとしていた。ドーバの相手も、同じようにフルプレートを着用し剣と盾を備えた騎士タイプだったが、ドーバが着用している装備とはあきらかにレベルの違う輝きを見せていた。


「凄いな、あの少年の装備は 」


 イノが舌を巻く。


「あいつは、ミナミ 富豪の息子だからな、あれはおそらくミスリルの装備だな 軽量なうえに強度もある 」


 開始の合図が告げられ、二人はじりじりと間合いを詰めていく。


・・・俺と同じフルプレートに盾か ダメージを与えるのが大変だな 長期戦を覚悟していかないとな・・・


 ドーバは相手の出方を見ながら少しづつにじり寄っていく。そして、一気に間合いに飛び込むと剣を振り下ろす。


 ギィーーン


 しかし、ミナミは盾でドーバの剣をかわし、逆にドーバに一撃を加える。それを、ドーバも盾で防ぎ、一進一退の状況が続いた。

 しかし、徐々に均衡が崩れドーバが責められる時間が多くなってきていた。傍から見ても明らかにミナミの方が優勢に見えた。


・・・このままじゃいけない・・・


 ドーバは体力を温存している場合ではないと考え、大きく息を吸い剣を振り上げ飛び出す。


「うおぉぉぉーーーっ 」


 しかし、そんなドーバの一撃もミナミは軽くいなし剣を振ってくる。それでも、ドーバは止まらずに剣を振り続ける。その、ドーバの勢いに流石のミナミも後退した。


「やったーっ 押してるよーっ 」


「このまま、行けぇ ドーバ 」


 形勢逆転にノッコとハーシが大声を上げる。がしかし、当のドーバは兜の下で顔を歪めていた。


・・・くそぉ腕に力が入らない・・・


 休まずに連続で剣を振り続けていたドーバの腕は、剣と甲冑の重量で限界を向かえていた。それに反してミナミは今だ軽々と剣を振るっている。


「そろそろ気が付いたかい ここは君のような人が来る所じゃないよ 」


「なにっ 」


「そんな安物の装備だから、君の体力はもう限界だろう 装備が揃えられないなら、君のお仲間の様に軽量の装備にすべきだ 」


「ふざけるなっ これはイノ先生や村の皆が協力して俺の為に用意してくれたものだっ  お前にとやかく言われることはないっ 」


 ドーバはイノに言われた言葉を思い出していた。お前が二人を守るんだ、これはその為の装備だからな……


「だから君は駄目なんだ もしこれが魔獣に囲まれていたら、君は間違いなく殺されているだろうな 」


「なんだとっ 」


「これから一気に勝負をかける 装備も整えられない意識の低い奴は二度と来るなっ 」


 そう言うとミナミは一気に間合いに踏み込み、連続で剣を叩き込んでくる。それは先程ドーバが見せたラッシュよりはるかに早く重いものだった。

 ドーバは剣と盾でなんとか攻撃を防いでいたが、ミナミのあまりのスピードに対応が追いつかなくなる。


・・・しまった・・・


 一瞬反応が贈れミナミの剣を剣の腹で受けてしまったドーバの剣は、嫌な音と共に中程より折れてしまった。そして、ミナミはさらに攻撃の手を早め、ドーバは盾で防ぐだけの棒立ちの状態になっていた。


「うおぉぉーっ 」


 さらに掛け声とともに繰り出したミナミの一撃は、そのドーバの盾さえも弾き飛ばす。ドーバは起死回生の一手としてミナミにタックルを試みるが、あっさりと避けられてしまった。そして、ドーバは下からの剣戟で倒れることを許されず立ったまま袋叩き状態にされていた。それは、高速の斬撃が限りなく叩き込まれ、まるでドーバが踊っているように見えるほどの凄まじさだった。


「もう やめてぇーーっ 」


「酷いですよ あんなの 」


 ノッコとハーシが大声で抗議する。それが聞こえたのかミナミは攻撃の手を止めくるりと踵を返した。その瞬間、ドーバが崩れ落ちる。そして、審判がミナミの手を挙げ、優勝ミナミとアナウンスした。


「ドーバァ 大丈夫ぅ? 」


「しっかりしてください 」


 ノッコとハーシが倒れているドーバに駆け寄り声をかける。ミナミは、何か言いかけたが二人を一瞥すると控え室に向かって歩いていった。


「……負けたかぁ…… 」


 気が付いたドーバが残念そうに言う。


「あんな奴が優勝なんて間違ってるっ 」


「けっきょく、お金でいい装備揃えたから勝てたようなもんですよ 」


 ノッコとハーシがぶつぶつ言うのをドーバが遮る。


「それは違うぞ あいつの言っていることは正しい これが魔獣相手だったら俺は殺されてた 」


「だからって、あんな言い方ないでしょ ふざけないでよっ 」


 怒りの収まらないノッコに、あいつは真面目なんだとドーバは言う。


「剣を交えたから俺には解かる あいつは真剣に俺のことを心配してくれたんだ だから今度は俺が勝って安心させてやるつもりだ 」


 ノッコはドーバの顔を見つめると、にっこり笑った。


「じゃあ、今度リベンジだね 」


「違うよノッコ リベンジ(復讐)じゃないチャレンジ(挑戦)だ 」


 その様子を見ていたイノとゴンタ、ユーナたちも安心したように微笑んだ。



 * * *



 ノッコたち三人は、ユーナに連れられてレストランに来ていた。テクノポリス滞在の最終日、頑張った三人に美味しいものを食べて貰おうとイノを始め皆が企画し、ユーナに引率を頼んだのだった。


「イノ先生やフリップおじちゃんも来れれば良かったのに 」


 フリップは本来安静の為、一足先にキャスタリア村にシンフィールドと帰っていた。マゴットとコッコは村への必要な物資を買い求めており、イノは教授とカシギに用事があり会いに行っていた。


「ごめんね みんな忙しかったりするから 」


 そのかわり何でも頼んでいいからねと、ユーナが言い、三人はメニューを見ながらわいわい騒ぎ出す。


「私、これっ 」


「スイーツが先なんておかしくないですか 」


「俺はこれとこれとこれからいくぞ 」


「肉ばっかりじゃないですか 」


 その三人のテーブルに人影が近づいてきた。ドーバが顔を上げ人影を見る。


「ミナミ…… 」


 ドーバの声でノッコとハーシも顔を上げミナミを見る。


「明日帰ると聞いたんで、伝えたい事もあったし挨拶に来たんだ 」


 ミナミが三人の顔を見ながら言う。三人は緊張した顔をしていたが、ユーナはにっこりと微笑んでいた。


「どうしてここが 」


「カシギ様の所でイノさんに君たちがここに居ると聞いたんだ 」


「それで 伝えたい事って 」


「今回の大会で僕は少年男子の部で優勝した そして本来、賞品・賞金や希望部署への配属が選べるんだけど辞退したんだ 」


「辞退 どうして? 」


「その代わり、ひとつお願いして了承を貰った 」


 三人は話の先が分からずきょとんとしている。ユーナだけは話が分かっているのかゆったりとお茶を飲んでいた。


「ハローの中には孤立した我々人類の集落がまだ無数にある そこから人々を救出したいという思いから僕は剣を習った そして僕は、僕の部隊を作る事を今回了承してもらった 」


「へえぇ 凄いな 」


 ドーバが感嘆の声を上げる。ノッコとハーシもうんうんと頷く。


「僕は僕の部隊は、僕がその力を認めた人達で編成したいと考えている 」


「それは、もっともだよね 」


 再びノッコたち三人は頷く。


「そこで、ドーバ、ノッコ、ハーシ、君たち三人に僕の部隊に入って貰いたい 」


「えぇぇーーっ 」


 三人は声を合わせて驚く。


「君たち三人の戦いは全部見ていた ドーバとは剣を合わせたし 君たちには是非僕の部隊に参加して欲しいんだ 」


「そりゃあ俺たちだって剣を習ったのは、少しでも人の助けになればと思ってだけど イノ先生に相談してみないと 」


 三人は困ったようにユーナを振り向く。


「イノの事は気にしないでいいから あなたたち自身で決めなさい 」


 ユーナは優しい笑顔で三人を見ながら言った。三人は顔を見合わせると大きく頷く。


「わかった、ミナミ 俺たちも是非参加させてくれ 」


「そう言ってくれると思ってた これからもよろしくな 」


「こちらこそ、よろしく 隊長っ 」


「た、隊長…… 」


 ミナミが照れたように頬を赤らめる。そのミナミの後ろにいつの間にか一人の人影が立っていた。


「じゃあ一緒に戦えるね ノッコ 」


 人影がノッコに声をかけ、ノッコが人影を見る。


「キャスー 」


 ノッコが驚いて声を上げる。


「彼女も僕の部隊に参加してくれる 彼女だけじゃなくシンフォニー家の三姉妹全員参加だ それに僕の仲間のショウとパンダ 君たち三人を加えて総勢九名が僕の部隊となる 」


「もともと私は部隊に参加したかったところ、ちょうどミナミに誘われたから 断る理由もないしね 」


 キャスーが微笑みながらノッコに言う。ノッコたちも頬を紅潮させながらお互いの顔を見つめ合っていた。


「一年後だ 本来君たちはまだ大会に参加できない年齢だからな 部隊設立の準備もあるし、一年後の今日、ここの中央広場に集合だ 忘れるなよ 」


「じゃあね、ノッコ 再会を楽しみにしてるわ 」


 ミナミとキャスーはそう言うと手を振りレストランから出て行った。後に残されたノッコたちは、それぞれの思いを噛み締めるように押し黙っていたが、やがてユーナの方をくるりと振り向くと心配そうに話す。


「ノッコたち、勝手に決めちゃったけどイノ先生怒らないかな 」


「大丈夫よ イノも私もこの話は聞いていたの あなたたち自身でどうするか決めるのがとても大切だから どんな結論をだしても怒らないわ 」


 ユーナは優しく三人に言い、三人の頭を撫でた。


「これから、今までよりももっと大変になるわよ しっかり頑張ってね それと、イノがあなたたちに一番最初に言ったことは忘れないでね 」


「はいっ、忘れません 戦いの極意は生き残る事っ 」


 三人は涙ぐみながら大きな声で誓う。ユーナはそんな三人を見ながら、こんな子たちがどんどん育ってくれたら、この星に明るい未来が訪れるのもそう遠くはないのではと思った。



 * * *



 キャスタリア村の外れ


「よーし 集合 」


 イノが号令すると、それまで森の中で戦い方を考えながら練習していた、ノッコ、ドーバ、ハーシの三人が集まってきた。


「これから、ゴンタを相手に戦ってもらう ゴンタから一本でも取れたら合格だ 逆にゴンタに猫パンチくらったらアウトだからな 」


「はいっ わかりました 」


 三人は声を揃えて言う。以前と違いその言葉には自信と決意が込められているようにイノは感じ、思わず嬉しさで口元が緩みそうになるのを必死に堪えた。


「よし、それじゃいくぞっ 始めっ 」


 イノの合図で三人はドーバを先頭に縦一列に固まる。


・・・ほうっさすがに以前とは違うな・・・


「どうするつもりかしらね 」


 ユーナがポツリと独り言のように呟く。


「お前たちならどうする、ユーナ 」


 イノが隣のユーナに訊くと、ユーナは少し考えながら答えた。


「ゴンタちゃん相手なら、マゴットを守りに据えて私とコッコで陽動しながら戦うわね 」


「おそらく、あいつらも同じこと考えてると思うぞ 」


 イノの言葉通り、ドーバが盾でゴンタの攻撃を防いでいる。ゴンタは回り込もうとするが、ドーバはうまくゴンタの進路を塞ぎ回り込ませない。業を煮やしたゴンタは後足で立ち上がり強引にドーバに猫パンチを浴びせようとした、その時。ドーバの足元からスライディングしてきたハーシが、下からゴンタ目掛けて剣を振るう。しかし、ゴンタはジャンプして難なくハーシの攻撃をかわした。が、その時既に大きくジャンプしていたノッコが空中でゴンタを迎え撃つ。


「たあぁぁーーっ 」


 さすがのゴンタも空中では動きがとれず、ノッコの一撃をポカリと受けてしまった。


「それまでっ 」


 三人の計算された動きに驚いたようにユーナとマゴット、コッコがパチパチと拍手する。


「やったぁ ゴンタちゃん、ありがとう 」


 ノッコが小さくなったゴンタを抱き上げ頬擦りする。ゴンタも嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしていた。


「よくやったな、お前たち だがこれで終わりじゃないぞ 一年後、ミナミたちと会った時にがっかりされないように日々鍛錬すること いいな 」


「はいっ 先生 」


 イノの言葉に三人は元気に返事をする。そこへ、教授とカイ、それにマツたち分隊長が木箱を抱えてやって来た。


「ちょうどいいタイミングだ 」


 イノは彼らを迎えると教授たちと言葉を交わし木箱を受け取る。そして、ノッコたちを振り返るとにっこりと笑みを送った。


「これから、大会で頑張ったお前たちに賞品を渡す 」


「えっ ノッコたち、何か貰えるの? 」


「頑張ったお前たちに相応しい、いいものだぞ 」


 イノは勿体つけるように言うと、まずドーバを呼んだ。


「体力があるドーバにぴったりの聖剣だ 」


 そう言いながらイノは木箱からハンマーの様な剣を取り出す。


「せっ、聖剣って、ユーナおねえちゃんたちが持っている凄い剣のこと? 」


 三人は驚いて目を丸くする。


「もちろん、ユーナたちが持っている聖剣と同じ本物だ 教授と一緒にカシギに頼んで貰ったものだ 」


「僕たちがそんな凄いもの貰っていいんですか 」


 ハーシが分不相応なものだと尻込みする。他の二人も怖気づいたように、みんなを見回す。


「これは、君たちの先生、イノさんが見つけたようなもんだし、国王の了承ももらっている 遠慮しないで貰っていいんだよ 」


 カイが優しく三人に話し掛ける。


「そうだぞ これは俺たちみんなの総意だ それだけ、お前たちは頑張ったということだ 遠慮しないで受け取りなさい 」


 イノの言葉でドーバは剣を手に取った。ずしりと重い手応えは、剣の重さだけでなく責任の重さも加わっているように感じられた。


「次はノッコ 」


 イノがノッコに渡した剣は、まるで白い羽のような剣であった。


「ノッコの身軽さを活かせる剣だと思う 」


 そして、最後にハーシを呼ぶ。


「ハーシは体力的には少し弱いからな 」


「すいません、もっと頑張ります 」


 ハーシが萎縮するのを見て、イノは慌てて言葉を続ける。


得手不得手(えてふえて)があるのは当たり前 ハーシの良い所もちゃんと分かってる この剣はハーシの良い所を活かせる剣だ 」


 イノはハーシに巨大な鍵のような剣を渡す。そして、三人に向かって、これから聖剣の使い方はユーナが指導してくれると伝えた。


「ユーナは聖剣の新しい力を発見した第一人者だ これから、しっかり指導してもらって聖剣を使いこなせるようになるんだぞ 」


「はいっ ユーナ先生、よろしくお願いします 」


 三人に深々とお辞儀されユーナは照れたように顔を赤らめる。


「私は別に先生じゃなくて、おねえちゃんでいいけどね 」


「ユーナが忙しい時は、俺やマゴットが教えるから安心してくれ 」


 コッコが三人に言う。


「コッコ先生とマゴット先生もよろしくお願いします 」


「我もついにおじちゃんから先生か 」


 感無量のように呟くマゴットを見て、ユーナは良かったと胸を撫で下ろした。


「よし、それじゃあ今日はこれまでだ お前たち、フリップにも聖剣を見せてあげたらどうだ 」


 イノに言われ三人は、歓声を上げ一直線に駆け出して行った。


「あいつらを見てると、未来は明るいと思うな 」


 イノがしみじみと言う。その横でユーナがパンと手を鳴らす。


「せっかく、こうしてみんな集まっているんだし、たまにはお酒でも飲もうよ 」


 ユーナの提案に全員即座に乗り気になる。


「タクローの店でも行くか 」


「あそこのカンパリソーダとフライドポテト、絶品だしな 」


「ユーナ また歌、聴かせてくれ 」


 一時の平和な時間。みんな、それぞれの思いを胸に秘めながら、この僅かな時間を楽しもうとしている。


「イノさん、俺の歌も聴いてくれ 」


 マツがイノの横に並び自信たっぷりに告げる。


「どんな歌が得意なんだ? 」


「俺の十八番は”ビューテフル・エネルギー”さ 」


 それはいい、是非聴かせてくれと、イノはマツと肩を組んで歩き出した。それを、ゴンタが、この男共何やってんだと冷ややかな目で見つめながらも、嬉しそうにとことこと後を就いていった。


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