焼け焦げた心
焼け焦げた心
「ゲンド王、申し訳ありませんが、それは私には出来かねます 」
男は、前の玉座に座するゲンド王に向かって丁寧に答えた。
「ならば、何か手があると? 」
「それは…… 」
男は言葉に詰まった後、正直にその心を打ち明けた。
「現状を打破する策は残念ながら持ちかねていません 」
再び男は、ゲンド王の前に頭を下げる。
「ならば リツを連れて早く逃げるのだ 」
「いやしかし、私の仲間や国民を見捨てて逃げることなど出来ません 」
ゲンド王は、わからない奴だなという顔で男に向かって言う。
「奴らが我々に降伏を望んでいるのなら私の首を喜んで差し出そう 」
「しかし、奴らが望んでいるのは我々の皆殺しだ…… 」
男はうな垂れたまま黙り込んでいる。そこへ、一人の女性が入って来た。
「父上、私も皆を見捨てて逃げるなど出来ませんっ 」
「リツ お前も分からない奴だな 」
しばらく腕組みして思案していたゲンド王は、二人を指差し口を開く。
「お前たち二人に逃げろと言うのは、この国の、いや、この星の未来を託したいからだ 二人ならそれが出来ると信じている この私の願いをきいてくれないか 」
そして、最後は懇願するように頭を下げた。二人は言葉も無く、頭を下げるゲンド王を見つめていた。
「城の地下の神殿で、フカシギたちが待っている 彼女たちがお前たちを逃がしてくれる 急いで行きなさい 」
リツはそれでも動こうとしなかったが、男がリツの腕をとる。
「姫…… 行きましょう…… 」
「だが、私は…… 」
男は強引にリツの腕を引き歩き出す。リツは始め抵抗していたが、やがて諦めたように男に引かれ歩き出した。
男が大きな扉まで行くと、扉の前にいた武装した男が脇に避け扉を開ける。
「姫を頼むぞ 」
脇に避けた男が、リツを連れた男に声をかけた。
「ワッショ、済まないがゲンド王を頼む 」
男も立ち止まると、声をかけた男に複雑な表情を向ける。ワッショと呼ばれた男は、そんな男を笑顔で見返すと明るい声で続けた。
「心配するな、俺は俺の仕事を最後まで遂行するさ それより、お前のほうが責任重大だぞ 」
ワッショは他人の事より自分の事を心配しろと言う。男も笑顔になると、右手を挙げ拳を突き出した。
「俺は必ず姫を守って未来を創る 安心しろっ 」
男はそう言うと、キッと前方を見据え扉から外に出た。リツも男に続いて扉を出たが、すぐに戻ると玉座のゲンド王に向け大声で叫ぶ。
「父上っ お達者でっ 」
そしてリツは、クルリと背を向けるともう振り返らずに通路を走っていく。そのリツの後姿をゲンド王は、まるで未来に向かって走っていく娘を見守るように何時までも見送っていた。
* * *
城窓から目に入った市街地は酷い有様だった。真っ赤な炎が全てを飲み込むように迫り、魔獣の群れも押し寄せて来ている。
男はリツの手を引き、城の地下目指して全力で走っていた。もう、この城まで敵の魔の手が伸びるのは時間の問題だった。今の最優先事項は、この城の地下でフカシギたちが待つ神殿までリツを連れて無事辿り着く事だ。
「姫っ 大丈夫ですか? 」
男は、ともすれば足が止まりそうになるリツを気遣う。
「私は大丈夫だ だが…… 」
「姫っ 今は地下まで辿り着くことだけ考えましょうっ 」
リツは男の言葉に頷くと、迷いや悲しみを吹っ切るように唇を噛み締めて駆け出した。もう、町の人間の叫び声や悲鳴、魔獣の咆哮、異星人の嘲笑する声が間近まで迫ってきている。
男は地下への重い扉を開け、先にリツを通すと扉を閉め閂をかける。そして、さらに中身の入った重い樽を何樽も扉の前に置き敵の侵入を防ぐ為のバリケードを築いた。
バリケードを設置した後、再び全力で駆け出した二人は、かろうじてフカシギたちの待つ地下神殿に辿り着くことができた。そこには、三柱と呼ばれる三人の女性が準備を整えて待っていた。時間に干渉できるセツナ、空間に干渉できるユークリッド、そして、その二人の力を融合できるフカシギ。
「早く こちらへ 」
フカシギが二人を導く。二人は神殿奥の祭壇の前に立った。
「これから、お二人を時空を超えて跳ばします 」
フカシギが話しながら二人の正面に立ち、セツナが男の左斜め後ろ、ユークリッドがリツの右斜め後ろに立った。ちょうど上から見ると、二人を中心に正三角形の形になる。
「ただし、申し訳ありませんが何処へどの時代に跳ぶか指定出来ません そこまでの力は残念ながら私達にはありませんので…… 」
「それに、跳んだ先でどのような状態になっているかも不明です 」
「私達三人の全ての力を使っても、あなたたち二人を跳ばすことが精一杯ですので 」
フカシギは申し訳なさそうに言う。
「構わない どんな事になろうとも、それが父上に託された未来だ 」
リツは毅然と言い放つ。そして、隣の男に目を向ける。
「お前はどうだ? 」
「姫をお守りするのが私の仕事 是非もありません 」
「そうか わかった それでは、この剣を預けておこう 」
リツはそう言うと背中に背負っていた大剣を男に渡す。男は恭しく剣を受け取ると自分の背中に背負った。
その時、地下に何かが破壊された音が響き渡る。どうやら地下への扉と、その前に設置したバリケードが魔獣に突破されたようだ。
「急ぎましょう 準備はいいですか 」
フカシギは二人に問う。リツと男は頷いた。
「フカシギ、セツナ、ユークリッド、ありがとう あなたたちとはまた何処かで会える気がする お達者でな 」
最後に、リツがフカシギたちに礼を言う。フカシギたちもまた神妙な顔で頷いた。そして、フカシギ、セツナ、ユークリッドの三人は顔を見合わせると天を仰いで集中する。
すると、リツと男の身体が白い光に包まれていった。二人は互いの手を握り、互いの顔を見つめ合い、そして、この先に起こるどんな事にもけして負けないという、その強く固い意志を確認する。
その最中、神殿の扉が激しい音を立て始めた。魔獣が神殿の外まで迫ってきたようだった。しかし、フカシギたちは、そんな事態にも一切集中を乱すことなく二人を”跳ばす”ことのみに精神を集中する。
そして、光に包まれていた二人の身体がふわりと宙に浮かんだ。その時、激しい音とともに神殿の扉が破壊され魔獣がなだれ込んで来る。
が、魔獣がフカシギたちに襲い掛かった時には、リツと男の身体は祭壇の前から消えていた。消える寸前、リツたち二人が見たものは、ニッコリと笑うフカシギたち三人の笑顔だった。




