二話 キューの砦
二話 キューの砦
遥か彼方の深い森の中、何かの気配に気付いた魔獣エーバーやギガント、ダムが騒ぎだしていた。それは森の中の岩山を中心に拡がっていった。その岩山から一目散に逃げるもの。あるいは逆に、その岩山に向かうもの。後からみれば皆同じ運命を辿る事になるのだが、魔獣たちの混乱は収まらなかった。
初めは小さな揺れだったものが次第に大きな揺れになっていく。それは自然の地震ではなく、何か巨大なものが地中で動いている為のものだった。そして、岩山がピシピシと割けていく。岩山に向かっていた魔獣は、牙を剥き、そこから現れるであろう何かに敵意をむき出しにしていた。岩山から逃げていた魔獣は、さらに慌てて逃げ足を速める。結局は徒労に終わるのだが、逃げる足を止める訳にはいかなかった。それほどの恐怖に刈られていたのである。
そして、ついに岩山が砕け散り地中から8つの頭を持つ竜のような怪物が姿を現した。遥か古代に”八俣遠呂知”と呼ばれたそれは8つの口で大きく咆哮する。それだけで、付近の魔獣が肉片となり消滅していた。八俣遠呂知は岩山から抜け出すと、体を震わせ久しぶりの地上を楽しむように大きく息を吸い込み、また咆哮した。この咆哮で逃げていた魔獣たちも全て消滅し、八俣遠呂知はゆっくりと歩き出した。
八俣遠呂知の向かう方向、そこにはこの星で人間が一番多く集まる街”テクノポリス”があった。
* * *
「おーい、ユーナ コッコ、見なかったか? 」
イノがユーナに声をかけるが、ユーナから知らないわよと返事が返ってきた。そこへマゴットがやって来て、コッコならキューの砦に行ったぞと言う。
「カシギ様に頼まれて、完成した”雷電”を運んで行ったぞ ハローの侵食を阻止する重要な砦だからな、戦力アップしておかないと不味いからだろうという話だ 」
「一人で行ったのか? 」
「まさか、カイ隊長の部隊と一緒だよ 我も行こうかと言ったが、断られた たまにはユーナとゆっくり過ごせだと まったく変なことに気を遣う奴だよ 」
そう言いながらもマゴットは嬉しそうだった。
「そうか じゃあ、マゴット 少しいいか? ユーナとの時間は邪魔しないからさ 」
「な、何を言う イノ 我は何時だって友情優先だぞ 」
「ははっ、分かってるよマゴット さっき教授に呼ばれたんだ 付き合ってくれないか 」
「教授に? 分かった、行こう 」
イノとマゴットが教授の元に行くと、教授は難しい顔をしていた。
「これを見てくれ これはキューの砦近くの測定器の信号だ この数値はかなり異常といえる 何かが地中で蠢いているようだ 」
「待ってくれ教授 地中で蠢くって何だ 生き物のように聞こえるが 」
イノが信じられないという顔で言い、マゴットも同様の顔をする。
「我も地中で動くものなど聞いた事がないぞ 」
「私も同じだよ 液体と違って、こんな固体の中で動くものなど蟻やもぐら位の小さな生き物しか想像出来ん だが、この数値を見る限り相当巨大な何かが動いていると推測出来る 」
「ヘルシャフトの武器の可能性は? 」
「いや、いくら奴らでも、この地中で動く物を創るのは無理だろう それにこの波形は機械ではなく生き物を示している 私が思うには”調停者”ではないかと思っておる 先日の戦いを機に活動を始めたのではないかと推測しておるが、確信があるわけではないがな 」
「キューの砦の近くと言っていたな、教授 」
「そうだ 」
「今、あの砦にはコッコたちが行っている 我が行ってコッコたちに知らせよう 」
「マゴット、俺も行く ゴンタを連れてくるから待っててくれ 」
「私も同行しよう すぐに支度をする 」
イノと教授は急いでキューの砦に向かう準備に取りかかる。マゴットも車も用意してきた。その三人の慌ただしい動きを見たユーナが、どうしたのと近付いて来た。マゴットが説明すると、当然ながら私も行くとユーナも車に乗り込んできた。ゴンタは嬉しそうにユーナの膝の上に乗ってゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「教授はまだか? 」
イノが少しイライラしたように言うが、マゴットがまあ落ち着けと諭し、ゴンタも慌てるなというようにニャーと鳴いた。
「教授はもうお年寄りなんだから、労ってあげなさいよ 」
ユーナも、イノに我慢しなさいという調子でいうと車の外から声がした。
「誰がお年寄りだって 」
ユーナがビクッと外を見ると教授がカシギと一緒に立っていた。
「カシギ様にも報告しておかんといかんだろう 何でも報連相は大事だぞ 」
「教授から話は聞きました まだ”調停者”なのか、ヘルシャフトなのか、分からないということですが、キューの砦は重要な砦です なんとか守りきらないといけません ミナミとオータキの部隊にも向かうように伝えます キューの砦をいちがんとなって死守して下さい 」
カシギの言葉で送り出され、イノたちはキューの砦に急行した。
* * *
「カイ隊長、あれは何だろう? 」
コッコは砦の上から遠くに見える土煙のようなものを指差して、隣のカイに問いかけた。
「何か大きなものに見えるが、動いているな こちらに向かって来るように見える なにか嫌な予感がするぞ 」
カイも砦の下に警戒するよう声をかける。
「”雷電”の装着も忘れないように徹底してくれ 」
カイは念を押し、自分のヴァッフェも確認し、コッコにも、もしもの事態に備えてくれと緊張した面持ちで言う。二人が話しているうちにも土煙は近付いて来ていた。近付いてくると土煙の中に八本の蛇のようなものが見える。
「まさか まさかな 」
「カイ隊長、どうした? 」
コッコが震えているカイを見て驚いたように尋ねる。
「あれは、あの怪物は”八俣遠呂知”だ 神話に登場する不死身の怪物だ 」
「八俣遠呂知 神話の怪物というと、あの”ノヅチ”みたいな奴か 」
コッコが言うとカイが、いや違うと答える。
「”ノヅチ”など問題にならない ”八俣遠呂知”は神話の中で最凶の怪物だ 倒す事は不可能だ それでも、この砦は守らないと人類は滅亡する 」
「なかなかハードな展開になってきたという事か これも”調停者”という奴と関係あるのかな 」
「ヘルシャフトでないという事は、おそらくそうだろうな 」
砦には”八俣遠呂知”が迫る地響きが伝わってきていた。コッコとカイ、それに砦を守る者たちは”八俣遠呂知”に備えて緊張した顔で武器を握りしめた。




