九話・阿修羅
九話 阿修羅
「うおぉぉぉーーーーっ 」
イノは雄叫びを上げ自分を鼓舞する。もはや体力は限界だ。残りは精神力だけでどこまでいけるか……。イノは、コッコをチラリと見る。コッコもなんとか自分に飛び掛かってくる魔獣を撃退するのが精一杯のようだった。このままでは、そう遠くない未来に二つの死体が転がるのは明白だが、それでも諦めない二人の精神力は驚異的といえた。
・・・いかんな 俺もコッコもそろそろ限界か ・・・
イノは、最悪の場合コッコだけは守るつもりでいた。自分が動けなくなる前にその仕掛けだけは作動させないと……。イノは魔獣の群れの中でロートホリゾントの引き金を引き続けた。が、どうしても狙いがブレる。体力、精神力とも底をつく前兆だとおもわれた。今までは正確な狙いで一撃で仕留めていたものが、一体の魔獣につき三発、四発と発砲する銃弾の数も多くなり、その為余計に体力、精神力が消耗されていく。
・・・しまった ・・・
そして、とうとう銃弾が魔獣を外れ、そのまま魔獣エーバーが突進してくる。鋭い角が間近に迫った。イノはその角を避けようと身体を捻るが、そこで疲労の為バランスを崩してしまう。なんとか倒れることはのがれたが大きく態勢が崩れ、そこを周りの魔獣エーバーが見逃さず攻撃を仕掛けてきた。
「くそっ 」
イノは舌打ちしながら連続でロートホリゾントの引き金を引き、かろうじてエーバーを倒した。
「少しくらい、休ませろっ 」
イノは休みなく襲ってくる魔獣の群れに向かって毒づいた。
* * *
コッコは、エーバーなんて雑魚だと高を括っていた。問題はギガントだと思いながら、迫ってくる多数のエーバーを瞬殺していたが、いくら倒しても果てがなかった。もう数十体いや百体以上倒した筈だが、それでも群れを成して飛び掛かってくる。
・・・くそっ 切りがない ・・・
コッコも果てのない戦いに体力、精神力を持っていかれる。イノは大丈夫なのかとチラリと横を見ると、イノも相当疲労しているようで弾幕の数が減り、魔獣の群れに押され始めている。
・・・かなり やばい状況だ ・・・
あとは、カイが少しでも早く援軍を連れて戻って来てくれる事を願うばかりだった。だがそれも、カイが無事だったらの話だ。もし、カイたちが途中で倒れていたら、その望みも断たれる。
・・・いかん 悪いことは考えるな ・・・
コッコは頭を振りネガティブな考えを追い出す。そして、迫る魔獣の群れだけに意識を集中した。
* * *
ハァ ハァ ハァ
イノは目が眩み、足がふらついていた。もう猶予がない。イノはコッコだけは救う為、仕込んでおいた仕掛けを作動する決意をする。
・・・すまんな、教授 それに、ノッコたち まあ、姫は許してくれるだろう ・・・
イノは姫の顔を思い出す。こんな状況なのに顔に笑みが浮かぶ。そして、一体のエーバーの突進を避けた際、足が縺れ地面に倒れた。
・・・ここまでか ・・・
倒れたイノに、その角で串刺しにしようと数体のエーバーが飛び掛かる。イノは仕掛けの作動させる為、自分の心臓にロートホリゾントの銃口を当てた。以前、三柱と呼ばれる三人がその力を集めイノに施したある術。姫を守る為、自分の命を盾にして保護する絶対防御の術だった。それは、イノが姫を守る為三柱の三人に頼んでしてもらった事だったが、姫はそれを知ると激怒した。死ぬときは一緒だ、そんなものは絶対使うな。と……。
引き金に掛けた指に、イノが力を込めようとしたその時……。
飛び掛かってきていた数体のエーバーが血飛沫を上げて肉片と化した。更に、次に戦斧を振り上げてきたギガントが、戦斧を振り下ろした瞬間バラバラになり地面に転がる。
・・・何が起きている? ・・・
イノは自分の目を疑った。周りに押し寄せて来ていた魔獣の群れがアッという間に全滅し、さらにその奥の魔獣の群れにも血飛沫が上がりバタバタと倒れていく。何かが魔獣の群れの中で動いていた。イノは目を凝らして、その何かを見る。
・・・コッコか? ・・・
それはコッコのようで、コッコとは違うものだった。腕が六本になり、頭の両側に目のようなものが付いていた。
「戦神・阿修羅…… 」
思わずイノは呟いた。コッコの姿は、三面六臂のまさに阿修羅の姿だった。イノはコッコが聖剣の力を覚醒させるのに賭けていた。イノの予想では、動きが加速するコッコの聖剣”ヴァンダーファルケ”が覚醒すれば、さらに速度が増し目にも止まらぬ速さで敵を倒していく、そんなイメージだったが、実際はその遥か上をいくものだった。
・・・阿修羅とは…… ・・・
予想の上をいくコッコの覚醒にイノはこれでいけるという希望が湧いてきた。阿修羅化したコッコは、まさに鬼人の動きで、そのあまりの速さに四体の残像が見える。まるで、五人のコッコが戦っているようであった。




