三話・乱戦
三話 乱戦
ハローの中に入ってもう結構走っているが、まだ先行した二つの部隊には追いつかなかった。深い森が続いているが、まだ魔獣の気配は感じられない。
「けっこう奥深い所まで来たけど、まだ先行した部隊は見えないな 」
コッコが運転しながら、助手席の教授をチラリと見る。教授は、ヒーローについて熱く語り過ぎて疲れたのか、眠っている様に目を瞑ってシートにもたれていた。
「気を付けろよ、コッコ そろそろ、何が起きるかわからないぞ 」
マゴットがコッコに言った時、周囲の空気が突然変わる。森がざわつき、匂いも変わる。教授も、ハッと目を開き、ゴンタの表情も険しくなった。
そして、不穏な空気の中、車を走らせていくと、森が終わり突然目の前に阿鼻叫喚の景色が広がった。そこかしこに乗り捨てられた単車や車が転がり、その先で人間と魔獣が血飛沫を上げて戦っている。
怒声や罵声、悲鳴が飛び交い、敵味方入り混じっての混戦状態だ。
「これは…… なんて数だ…… 」
思わずイノが声を漏らす。それは先日の面影村の魔獣の数の数十倍、数万の単位の魔獣だった。しかも、それを指揮するヘルシャフトの数も十人はくだらない。
「ダムはナイアガラ隊に任せて、他の魔獣を殲滅しろっ 」
カイの声が戦場に響く。
「やっぱり、待ち伏せの罠だったみたいね 」
ユーナは、マゴットに教授を頼むねと言い車を飛び出した。イノとゴンタ、コッコもそれに続く。
「ダムを狙え タツとキンジは右、ローズとマーサは左だっ 他の細かいのはヒーロー隊に任せろっ 」
「了解っ 」
ナイアガラ隊隊長オータキの声も響く。
「何処に行く 」
コッコが走りながら言う。
「押されている所へ行って押し返すっ まずはあの左奥のエーバーとギガントの群れだっ 」
「わかったっ 」
イノの言葉で全員が左奥に向かう。ゴンタの身体も光り始めていた。
「いったん、みんな退いてっ 」
ユーナの叫びでヒーロー隊の面々が退いて来る。
「ローゼパイチェ 大切断 水平タイプ 」
前線に躍り出たユーナは剣を一閃。その一撃で数十体の魔獣が血飛沫をあげて倒れた。
「ヴァンダーファルケ 」
そして、加速したコッコと魔獣化したゴンタも加わり、二人と一匹は次々に魔獣を倒していく。
「マツ 大丈夫か 」
「イノさん、ありがとう 今のうちに少し休ませてもらいます それにしても流石ですね、俺たちが十人がかりでも押されているところを 」
「ユーナが強いのは分かってるが、コッコもかなりやるな 」
イノも新たな弾丸のイメージを創りながら、マツに答える。
「コッコさんも大会の優勝者だからね それも歴代最短試合時間で…… 」
「へぇー、あいつ、そんなこと言わないけどな 」
「まぁ、ユーナさんとは性格がちがうからね 」
マツは苦笑いしながら言う。
「よし 準備OKだ ユーナ、コッコ、ゴンタ、退いてくれっ 」
ユーナたちがサッと退いてくると、イノはロートホリゾントを構える。
「ロートエクスプロジィオーン 拡散 」
イノが引鉄を引き弾丸が撃ち出される。その弾丸に当たったギガントが爆裂する。面影村の時同様、必殺の弾丸だったが、それだけに留まらずなんと爆発して飛び散った弾丸の破片がさらに誘爆する。爆裂したギガントの周囲の魔獣数体が、その弾丸一発の爆発で倒れた。
「よしっ 」
イノは続けて爆裂弾を撃ち続ける。それは、イノ一人でこの辺りの魔獣を殲滅するのではと思えるほどの破壊力だった。しかし、さすがに相当消耗するようで、マツに交代の合図を送る。
「よし、みんな 押し返せっ 」
マツの号令で休んでいた隊員たちが一斉に銃撃を開始する。
「ふぅーっ なかなかしんどいな 」
後退して来たイノが呟く。
「なによ、あれ この前のとまた違うじゃない 」
さっそく、ユーナがイノに食い付く。
「まあな 俺も少しでもみんなの負担を減らそうと努力してるんだぞ 」
「どうだか この前、ミイさんとケイさんに凄いですねと褒められたからじゃないの 」
おいおい、とイノが反論しようとした時、マツが交代を要請する。ユーナは、わかったと答えると飛び出していく。コッコとゴンタも、ユーナに続いて飛び出していった。
「倒しても倒してもきりが無いな このままだと、こちらの体力が底をつきそうだ 」
マツの言葉でイノは苦い記憶が蘇ってきた。そして、一抹の不安が膨らんでくる。
・・・あの時、俺は・・・
数え切れない程の魔獣に襲撃され火の海となった町の中を、イノは姫の手を引き逃げ出していた。思い出したくない記憶であるが、忘れられない記憶でもあった。
「弱音を吐いたら負けだ 頑張ろう 」
その不安を打ち消すようにイノは頭を振った。しかし、その後交代しながら魔獣を倒していくが、敵の数が減ってきたという印象はなかった。
他の所も今の戦線を維持するのが精一杯で、とても敵を押し返すような余力はなかった。




