三話・ブラックレディ
三話 ブラックレディ
「おいおい、どうなってる 戻った途端、修羅場じゃないか 」
テクノポリスから戻ったショウとパンダが車から飛び降りると、ミナミたちに駆け寄る。そして、魔獣に斬り込んだ。
「ありがとう 助かった 」
ミナミは礼を言うとそのまま倒れ込んだ。ミナミだけではない、キャスーたち三姉妹もドーバ、ハーシも力尽きた様に倒れ込む。
ショウとパンダに続いて、黒髪に黒いサングラスを掛け黒いスーツ、スカートから伸びた足には黒いストッキングに黒いハイヒールを履いた黒尽くめの女性が二人、車から降りてきた。そして、その後に続々と続く車から屈強なスーツ姿の男性がばらばらと降りてくる。
「あらあら なにか、大変な事になっていますね 」
「あなたたち、魔獣を止めておいて下さい 」
黒いスーツの女性が、後から降りてきた男性たちに指示を出す。そして、指示を受けた男性たちは其々武器を構え魔獣の群れの前に壁のように立ちふさがった。
「あなたたちは、ブラックレディ 」
ミナミが彼女たち二人を見て思わず叫ぶ。テクノポリスの宰相カシギの側近で事務的な仕事をこなしている彼女たちが、こんなところに来たことにミナミは驚いた。
「あら、その聖剣 あなたたちがイノさんのお弟子さんね 」
黒いスーツのショートカットの女性が、ドーバたちの聖剣を見て言う。そして、足に怪我したノッコを見ると険しい目付きになり、あとから降りてきた男性にすぐに担架を持ってくるよう指示し、応急処置を施す。さらに急いでテクノポリスまで搬送し病院に連れて行くよう命じた。
「イノ先生を知っているんですか? 」
ノッコが担架で運ばれて行き、ホッと一安心したドーバが黒いスーツの女性に尋ねる。
「イノさんには以前、遺跡調査で大変お世話になったんですよ その、イノさんの大切なお弟子さんをこんな目にあわすなんて許せませんね 」
「そうね、ミイ イノさんたちが来る前に少し懲らしめてやりましょうか 」
二人はそう言うと、普通に街中を歩くようにスタスタとヘルシャフトに向かって歩いていく。そのあまりの普通さに魔獣も戸惑い動きを停めていた。
「なんだ、貴様等 そのふざけた格好は そんなんで戦えるのか 」
ヘルシャフトの一人が弓を構えながら言う。そして、ヘルシャフトの命令で、それまで動きを停めていた魔獣が一気に襲いかかる。
二人は飛び掛ってきた数体の魔獣エーバーに慌てる素振りもみせずゆっくりと軽く手刀を打ったように見えた。が、エーバーはパーンという乾いた音と共に弾け跳び、血を吐いたまま動かなくなった。そして、次に巨大なギガントにはくるりと身体を回して、廻し蹴りを叩き込むと、やはり、乾いた音と共に巨体のギガントも弾け跳ぶ。そして、倒れたギガントの頭部を踏み付けた。
グシャッと兜ごと潰れる音がしてギガントは動かなくなる。
二人は魔獣の群れの中で、まるでダンスを踊るようにして次々に魔獣を倒していく。
「凄い 」
ドーバとハーシは目を剥く。カシギ様の側近を務めているんだからね、あの二人は相当強いよ、それに特殊な武器も使うらしいと、ミナミが説明する。
「面倒だ また、魔獣諸共やれっ 」
リーダー格のヘルシャフトが命令する。
「ガラクスィープファイル 」
弓を持つヘルシャフトが再び矢の雨を降らせる。が、二人は腰に付けていたヨーヨーのような武器のフィンガーホールを両手に装着すると頭上で回転させる。そして、矢の雨の中、何事もないようにヘルシャフトに近付いていった。
「なんだ、こいつら 」
驚愕する弓を持つヘルシャフトに向かって二人は、片手を前に伸ばしスローする。すると、刃の付いたヨーヨーのボディがヘルシャフトに向かって飛び、その持っていた弓を粉々に破壊した。そして、手首を返しバインドしボディを手元に戻す。
「まったく 雑魚のくせに、私たちの大切な子供たちを傷つけるとは…… ここで始末してあげますわ 」
「ちょっと、ケイ 勝手に始末したら、後から来るイノさんに怒られますよ 」
怒り治まらぬケイをミイが嗜める。
「だから、半殺しくらいにしておきましょう 」
「貴様等ぁ ヘンズレー様配下の我らを舐めているのか 」
ヘルシャフトが怒気を孕んだ声で怒鳴る。
「弱い者ほどよく吼えると云いますが まったく、その通りですね 」
ミイとケイの二人は、せせら笑うように言う。
「ミナミ隊長、ミナミ隊長 ミイさんとケイさんって怖いですね 」
ドーバとハーシが、ミナミに小さな声で囁く。
「ばかっ、そんな事ないよ 彼女たちはカシギ様の側近で何時もは事務仕事が主体なんだ 普段はもの凄く優しいよ きっと何か仕事の鬱憤が溜まっているんだろう 」
ミナミも小さな声で、的外れな事を言う。
「隊長 違うでしょ ノッコが怪我させられたから怒っているんじゃないですか 」
キャスーの言葉に、ランとミキディもうんうんと頷いた。
* * *
その頃、イノたちは面影村へ向かう街道の途中で、道路わきの溝に車が脱輪し揉めていた。
「自信たっぷりに運転は俺に任せろなんて言いながら、なによ、これ 」
ユーナがぷりぷりしながら、車の前に立つ。ゴンタは勝手に揉めなとでもいうように、車のボンネットの上で丸くなっていた。
「いいから、早く押せっ 」
運転席からイノが、やはりイライラしながら怒鳴る。
「ここは車を溝から出すのが先決 揉めるのは後にして早く三人で車を押そう 」
マゴットがユーナに言うと、わかってるわよとユーナも車に手をかける。
「せーのっ 」
三人で一斉に車を押し、イノがアクセルを開けてタイヤを動かすがタイヤは空転するばかりで溝から脱出することは出来なかった。
「マゴット 剣の力を使ってくれ 」
イノがマゴットに聖剣の力を使ってパワーアップしようと提案する。そして、マゴットが剣の力を解放し、再び三人で車を押す。すると、今度は車が少し動いた。
「もう少しだ せーのっ 」
ある程度まで車が上がると、あとは一気に動き出した。ようやく車を溝から出し、ふーっと一息ついているところへ前から来た車が停車する。
「イノさん ノッコちゃんが負傷した 」
窓を開けて運転してきた男が言う。
「ノッコが 」
イノたちが慌てて駆け寄ると、後部座席でノッコが横になっていた。
「ミイさんの指示で、テクノポリスの病院へ連れて行く途中ですがイノさんも一緒に行きますか 」
運転席から男が言う。しかし、イノは耳に入らないのか、後部座席の窓を叩きノッコに声をかける。
「大丈夫か、ノッコ 」
イノの声にノッコは身体を起こす。
「ごめんなさい、先生 やられちゃった 」
ノッコは泣きべそをかきながら、イノを見る。
「そんな事はいい 大丈夫なのか? 」
「左足が痛くて動かないの…… でも大丈夫、それより、早くドーバたちを助けてあげて 」
マゴットがどういう事だと運転していた男に詰め寄る。男の話では、私たちが到着した時には大量の魔獣と数人のヘルシャフトに囲まれており、ノッコはすでに負傷していたという事だった。
「わかった、ドーバたちは必ず助ける ノッコも頑張れ 」
そして、イノは運転してきた男たちに向かい、ノッコをよろしく頼むと言い車に飛び乗ろうとすると運転席にはコッコが座っていた。
「イノッ 早く乗れっ 」
イノが後ろの座席に飛び乗ると、コッコはアクセルを全開にして走り出した。
「悪いな、イノ 運転したいだろうが、ここは俺に任せてくれ 」
「いや 頼む、コッコ ミイとケイがいるから大丈夫だと思うが、急いでくれ 」
彼らが、面影村に到着した時には、魔獣の数が減っているどころか、さらに膨れ上がっていた。




