一話・残された悲しみ
一話 残された悲しみ
ショウとパンダをテクノポリスへ面影村の惨状の連絡に向かわせ、残ったミナミたちは村の片付けをしていた。村の人間で生き残ったものはいなかった。
あの村長も……。
家はアマノが守りきったが、すでに怪我を負っていたらしいヒラカズはベッドの上で亡くなっていた。
村の人達の遺体は、テクノポリスの人達が来て墓地に墓穴を掘り終えるまでは、温度の低い村の礼拝堂の地下に安置しておこうと云う事になり、ミナミたちは黙々と担架に乗せた遺体を運んでいた。
「この、おじいちゃん あの時、話した…… 」
担架に乗せられて運ばれてきたのは、キャスーが先日話した老人だった。キャスーは老人の遺体を安置しながら、老人が苦悶の表情ではなく穏やかな表情で亡くなっている事に少しだけ安堵した。
「周辺の魔獣は掃討した筈なのに、何故なんだろう? 」
礼拝堂の地下でずらりと安置された遺体を見て、キャスーは救えなかった悔しさで涙が溢れてくる。
一度溢れ出した涙は止めることができずキャスーは身体を震わせて嗚咽していた。
「キャスー 大丈夫? 」
いつの間にかキャスーの後ろに立っていたノッコが心配そうに声をかける。
「ノッコ…… 大丈夫よ ただ悔しいの 」
キャスーは涙を拭うと、さあ行きましょうと歩き出した。二人が地下から外に出ると、きれぎれの空に穏やかな風が吹いている。
キャスーはこの廃墟になった村を見て、この村の至る所に悲しみが落ちていると感じた。
途中、ラン、ミキディと合流し、広場の方に行くと、ドーバとハーシがミナミに話しかけているところだった。ミナミは、村外れの桜の木の下にアマノの亡骸を、彼の恋人の墓の隣に埋葬した後、隊員に指示を出すとき以外ほとんど喋らなくなっていた。隊員たちも遠慮して話し掛けるのを控えていたが、とうとうドーバは我慢できなくなったようだ。
「隊長 アマノさんから貰った、その剣 まだ一度も振ってないですよね 」
「……ああ、そうだな 」
「俺たち、聖剣を使えるようになるまで結構大変だったんです だから、隊長も今のうちに練習しておいて、いざという時に使えるようにしておいた方がいいんじゃないかと 」
「ありがとう そうだな 」
ミナミは力ない返事で答える。
「ねぇ、隊長 誓いの言葉を思い出して下さい あの時、隊長の瞳は輝いていましたよ 」
キャスーもミナミを元気付けようと話し掛ける。
「大丈夫さ 少し疲れているだけだよ 」
ミナミは、もう僕にかまわないでくれという仕草で立ち去ろうとする。
「隊長っ アマノさんの最後の話 アマノさんは過去に囚われていた でも隊長に会っていたらと言ったじゃないですか 別れは必ずくるんです それと同じで出会いも必ずある 私たちだって全然知らない間柄だったのに、今はこうして仲間じゃないですか 」
キャスーは、ミナミの背中に言葉を投げつける。ミナミは振り向くと悲痛な表情で叫ぶように言う。
「ごめん、僕だって頭では分かっている でも心が受け付けないんだ 前のように燃え上がらないんだよ 」
そんな、ミナミの前にノッコ、ドーバ、ハーシが進み出る。
「俺たち、アマノさんにアドバイス貰って聖剣の次の段階に進む訓練をしてたんだ まだ完璧じゃないけど 隊長、そこで見ていて下さい 」
ドーバは、ミナミの返事も待たずに広場の奥に向かって剣を構える。
「シュバルツハンマー 激震 」
ドーバが集中して剣を振り下ろすと、それは以前の破壊力の比ではなかった。剣を打ち付けられた地面が大きく割れ地割れが延びていく。まるで、海を割ったモーゼの様だった。さらに地面の揺れも凄まじく、ドーバ以外の全員が尻餅をついていた。
ミナミも、その凄まじい破壊力に口を開けたまま固まっていた。
「ドーバ 少し手を抜きなさいよ 」
立ち上がり服の汚れをはたきながらノッコが文句を言う。ドーバは、ごめんと笑って誤魔化した。
「じゃあ次 ノッコ、いくね 」
ノッコも広場の奥に向かって剣を構える。
「ヴァイスフェーダー 飛天 」
ノッコが剣の力を解放すると、ドーバとハーシ以外の全員が目を疑った。
「……空を……飛んでるの…… 」
キャスーが言うように、ノッコは聖剣ヴァイスフェーダーと共に宙に浮き上がり、まるで鳥のように空を浮遊していた。そして、しばらくして地面に降り立ったノッコは得意気にみんなの顔を見回す。
「聖剣を操れる距離に限界があったけど、空を飛べれば敵の近くまで行けるでしょ 」
ミナミも、ノッコの聖剣の力に目を丸くしていた。
「凄いでしょ でも一番反則なのはハーシなんだよ 」
「俺も、そう思うわ 」
ドーバが相槌を打つ。
「ちょっと プレッシャーかけないで下さいよ 」
ハーシはそう言いながらも、自信満々な顔をしていた。
「ブラウシャッテン 極界 」
モーント・炎、ハーシの言葉でモーントの身体が燃え上がる。そして、倒れた巨木にパンチを浴びせると、巨木が燃え上がった。
「凄い 」
一同、声を揃えて驚いていた。しかし、ノッコは顔の前で指を振ると……。
「ハーシがずるいのはこれだけじゃないんだ 」
モーント・メタル、ハーシが再び指示を与えるとモーントの身体が金属状の材質に変化する。そして、ハーシが斬れと命令すると、両腕が剣のように変化し巨木を切り倒す。もし、イノが見ていたら、ター◯ネー◯ーかよと驚くところだ。
これだけでも十分凄い力だが、ハーシはさらに指示をとばす。
「モーント・土 」
見ているうちにモーントの身体に地面の土が張り付いていき、どんどん大きくなる。そして、あの巨獣ダムよりも大きなサイズにまで巨大化した。
「確かにこれは、反則ね ねぇ、隊長 」
キャスーは瞳を輝かせ始めたミナミに言う。
「ああ、みんな凄い力だ ただ、うまく使わないと逆に弱点になってしまうかも 」
先程と変わり口調にも力が入り始めたミナミを、一同は微笑みながら見ていた。
その時、いきなりキャスーが剣を抜くと、ノッコを突き飛ばす。
「ちょっ 何する…… 」
ノッコが地面に転がり文句を言おうとした時、
キィーン
キャスーが剣で何かを叩き落とす。地面に転がったそれは弓矢だった。
「魔獣は弓など使わない ヘルシャフトかっ 」
ミナミの言葉で全員、弓矢の飛んできた方角を注視する。すると、森の中からきらりと光るものが見えた。それは高速で飛んでくる弓矢だった。
キィーン
今度はランが弓矢を叩き落す。
「ドーバ、ノッコ、ハーシ、僕たちの後ろに 」
ミナミが三人に指示をとばし、剣を構える。ノッコたちを守り、ミナミとキャスーたちが警戒していると、しばらくして森の中から三人のヘルシャフトが現れ、その後ろには数え切れないほどの魔獣が控えていた。
ヘルシャフトは、ミナミたちを見ると、驚いた表情をする。
「おやおや、たったこれだけですか 」
ヘルシャフトは、まるでミナミたちを侮るように笑みを浮かべながら言い放つ。しかし、ミナミたちは緊張を高め、更に集中する。なにしろ、ミナミもキャスーも、ここに居る全員がヘルシャフトと戦った経験がある者は居なかったからだ。
・・・どうする 退くべきか・・・
しかし、あの数の魔獣に追撃されたら逆に不味い。
ミナミは、たった一人で戦ったアマノを思い出す。
・・・隊長は僕だ 僕の覚悟が必要なんだ・・・
ミナミは、剣を握りしめる手に力を入れた。




