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伝説の武器を手に

       伝説の武器を手に


 俺達がいなくなっている間に、地上の戦いは大変な事になっていた。

 スコット達は傷だらけで、ラベンダーの治癒魔法も追いつかないのだ。

 不敵に笑うバービリオンは、腕組して地面に立っていた。

「さあ、その鎌をよこせ」

「誰が、貴様なんかに!」

 ジャネットは、満身創痍になりながらも鎌を力強く握りしめていた。きっと彼女なりの自分のしでかした事へのケジメなのだろう。

 突然、光の球体が地面に、いや地面に転がってる勇者の鎧に命中した。

「何事だ?」

 バービリオンが、攻撃を止めて警戒する。

 煙と土埃はすぐに収まり、光球が落ちた場所には鎧をまとったコートが立っていた。

「コートさん、帰って来てくれたのですね」

 ラベンダーが、両手を胸の前で組みながら微笑んだ。

「おっと、俺もいるぜ」

 コートの隣に着地した俺が振り返ると、目の前に矢が迫ってきた!

「うわっ」

 慌てて鎌で矢をはじくと、ニットが矢を構えて睨んでるのが見えた。

「きっさまあっ! どの面下げて!」

 うん、やっぱり怒るよな。スコットもニットの隣で攻撃魔法を使おうとしてるし。

 こうなったら、やることは一つだけだ。

「みんな、ごめんっ」

 俺は、気を付けして頭を下げた。

「ベニヤさんも反省してるみたいですし、ニットさんもスコットさんも勘弁してあげましょう」

 ラベンダーになだめられて、スコット達は渋々ながらも攻撃をやめた。

「ああっ。なんてことをしてくれたんです」

 ノリリンが、クローラに羽交い絞めにされながら降りてきた。

「あなたは静かにしていなさい!」

 まあ、あいつはクローラにまかせてればいいか。

「コート、これ!」

 ジャネットが、コートの前に鎌を差し出した。

「さっきは、すまなかったな」

 コートは鎌を受け取りながら、にっこりと笑った。

「伝説の武器を守ってくれたんだろ? ありがとう」

 その笑顔だけで、ジャネットは満足したみたいだった。

「さあ行くぞ、コート」

「ああ、やるぞ」

 俺達は並んで鎌を構えながら走り出した。

「そうは行くか! くらえっ!」

 バービリオンはコートが復活してから今まで力を溜めていたらしく、四本の腕から同時に四つの輝く球体を発射した。

「なんのっ!」

 俺は、速度を落とすことなく走りながら鎌を振り下ろした。俺を狙った光の球は二つとも切り裂かれて消滅した、コートも足元を狙った球をジャンプしてかわしながらもう一発の球を鎌で切り裂いた。

「こいつめっ!」

 バービリオンは更に二発目三発目の光の球を投げてきたが、最初の一発目よりも明らかに見劣りしてて余裕で切り捨てたりかわしたりできた。

「うおおおっ!」

「きええええいっ!」

 俺達は同時にバービリオンに切りかかった。

「甘いっ!」

 バービリオンは、四つの腕を縦横無尽に振り回して二本の鎌の攻撃を受け流して俺達を弾き飛ばした。

「うぐっ」

「うわっ!」

 弾き飛ばされた俺達は、そのあまりの衝撃に手にした鎌まで落としてしまった。

 地面に叩きつけられた後に何メートルも転がって、ようやく俺達は止まった。

「ぐ、、、ぐう」

 全身を強く叩きつけられて、目が回りそうだった。しかし、グズグズしていたらまた怪物にされてしまう。急いで立ち上がらないと。

「立てるか? コート!」

「あ、ああ。何とかな」

 俺のすぐ隣で倒れていたコートも、鎌を杖代わりにして立ち上がった。

 て、おい、その鎌は俺んじゃないか。

「コート! お前の鎌はこっちだ!」

 俺がコートの鎌を拾い上げて、取り換えようとした時だった。俺がコートの鎌が突然、黄金色に輝きだした。

「な、なんだ?」

「一体どうしたんだ?」

 コートの手にしている俺の鎌まで同時に輝いていた。

「待てよ、この鎌は?」

 俺の鎌じゃないのに、なぜか重さを感じなかった。持ち上げた時にはズシリと感じていた重さが消えていたのだ。

 コートも、本来の持ち主じゃないのにバトントワラーのように軽々と鎌を振り回し出した。

「これでもくらえいっ!」

 俺達が輝いている鎌に驚いている間に、バービリオンは更に強力な魔力の球体を生み出していたのだ。今度は四本の腕から放出される魔力を一つに収束させた巨大な一個の球体だった。

「こんなのっ!」

「止めて見せる!」

 俺達二人が同時に鎌を前に突き出した。輝く鎌の柄が交差した箇所に命中した球体が、そのままバービリオンに向かってはね返った。

 自らの魔力によってバービリオンが吹き飛ばされた。

「うぎゃああっ!」

 壮絶な悲鳴をあげて、バービリオンが吹き飛んだ。

 空中で一回転したバービリオンは、地面に大きい溝が出来るくらいに両足で踏ん張って勢いを殺した。

「今だっ!」

「今度こそ!」

 鎌を振りお回して、俺達はバービリオンに向かって突撃した。

「このままやられっぱなしでいくか!」

 バービリオンは、四つの腕に魔力を込めて赤く輝かせた。このまま接近戦で立ち向かうつもりなのだ。

「えいっ!」

「きええええいっ!」

 鎌の間合いまで踏み込んだ俺達は、同じタイミングでバービリオンに鎌を振り下ろした。

「そうは行くか!」

 バービリオンは腕を二本ずつ使って、俺とコートの鎌の柄を受け止めた。だが、俺達の突進は止まろうとはしなかった。

「よくも怪物にしてくれたな!」

「俺は、本物の勇者になってやる!」

 俺達の鎌の刃先の輝きが更に増し、光の刃となってバービリオンに向かって伸びていった。

「こんな所で、この妖獣将軍が死んでたまるか!」

 バービリオンの四本の腕も光り輝くと、鎌の輝きと激しくぶつかり合った。その瞬間、眩しい光に俺達は包まれた。

 全身を焼かれてるかのような高熱に耳をつんざく轟音、それに激しい衝撃波がまとめて俺に襲い掛かった。

「コートさんっ!」

「ご主人様っ!」 

 どこか遠くからラベンダーやクローラの声が聞こえたような気がしながら、俺は意識を失った。


         †


 何か柔らかい物の感触を頭に受けながら、俺は意識を取り戻した。

「う、うーん」

 少しずつ瞼を開けると、目の前には泣いてるようにも笑ってるようにも見えるクローラの顔があった。

「ご主人様ーっ!」

 クローラの顔が横に傾いてるので、どうやら俺が彼女の膝枕で寝ているようだ。

 地面に片手を突いて上半身を起こすと、直に地面に座ってラベンダーに手当てをされているコートが見えた。

 遠くの岩陰からはノリリンが恨めしそうな顔でこっちを見ているが、無視しよう。

 コートも俺に気づいて、ゆっくりと立ち上がって歩き出した。左手には俺の鎌を握っている。

 俺はコートの差し出した右手を掴んで立ち上がりながら、まだあいつには直接謝っていない事に気が付いた。

「な、なんていうか。さっきは殺したりしてすまなかった」

 謝罪する俺を、コートは笑って肩を叩いた。

「いいって事よ。それに、あいつを倒すのには必要な事だった気もするしな」

 あいつという言葉で、俺はバービリオンを思い出した。辺りを見回すと、少し離れた所に煙がうっすらと立ち昇るクレーターがあった。どうやらバービリオンは、あそこで消滅したようだった。

「これって、勝ったのかな?」

 俺が首をかしげると、スコットが俺の前に立って頷いた。

「まだまだ妖魔頂帝や他の将軍達がいますが、この戦いについては勝利です」

「だけど、こちらには勇者達がいます。心配無用です」

 ラベンダーの言葉に何か引っ掛かった。勇者達だって?

「まさか、俺も勇者に入っているのか?」

 びっくりしながら見回すと、ジャネットもペールも一斉に首を縦に振った。

「だってご主人様が伝説の武器を光らせたんでしょ。はい」

 クローラが、伝説の鎌を俺に差し出した。

「い、いや。やっぱ俺は必要な時以外は使い慣れた鎌がいいよ」

 そう言いながら、俺はコートの手から愛用の鎌をひったくった。

 そんな俺を見て、ラベンダー達は楽しそうに笑うのだった。



<完>

「孔明どのは、異世界転生は古いと申すか」

「もっと古いジャンルもどうです?」

「おお! 死神ピカーッ! ですか!」


 という発想で死神ピカーッ! を異世界転生でやってみました。

 通常の死神ピカーでは死神と人間は別性にしてラブコメ要素を入れますが、私はバトルで終わらせるために両方とも男性にしました。

 最初はこんな安直な設定、すぐに書き上がると思ったら、この長さで三年かかってしまいました。

 終わりまでの展開は頭の中にあるのに、場面と場面がどうにもつながらない。

 要するに、元々オカルトの存在の死神をファンタジー世界に連れて行っても化学反応が少なかった。

 その上、死神ピカーは出オチのネタだから長編には不向きで読み切りサイズでやるべきだった。そう気付いたのでコートの生前の生活やラベンダーの家庭の事情等を思い切りぶん投げて短くしました。


 感想をいただけたら幸いです。

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