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第3話 下郎の集落

 深い闇の中を落ちていく。いや、落ちているのか上がっているのかも分からない。


 視力も聴力も閉ざされ、あるのは鼻に抜ける土の匂いだけ。


 

 ただひたすらそんな状況を受け入れることしか出来なかった。良く分からない状況に心が落ち込み、焦燥感と共に体育館での出来事を思い返す。


 目をつぶり、いろいろなことに想いを馳せることで幾分か心が軽くなった。


 

 

 ──フワッ。


 浮揚感。多くの気配……しかし闇に包まれ姿は見えない。



『君たちは選ばれたのだ』

 

 聞こえるような感じるような不思議な感覚。


『君たちには鍵を集めてもらう。数多にあるうちの5本でいい、内にある持ち主には自覚があるはずだ』


 鍵……ポケットにあった鍵か?


『そう、頭の中に鍵が浮かんだ者はそうなのだろう。鍵には神が宿る……』


 未知の出来事に心が恐怖で支配されていた……が、あまりにも長い話しに冷静さをとり戻し、しだいに辟易した。



 要約すると──


 鍵を5本集めるのが目的。鍵を集めるには相手の持つプレートから手に入れること。しかし他者のプレートを奪えば死より厳しいペナルティを負うことになるということだった。


『全ての者、即した能力を授けよう。我が名は『シンオウ』、鍵を集めし者よいつしか相見えようぞ……いついかなる時でもお前たちを見ていよう……』




 * * *



「……え」


「ぇ……え」


「ね……え」


 頬に感じる柔らかな感触。ペシペシ誰かが必死に叩いている。


「ん……んん……分かった、分かったから」


 ゆっくりと瞼を開ける。レンズ越しに見える空や木々は少しぼやけ青みがかかっている。


「あれ、さっきのは誰だろう」


 叩かれた頬に手を添えようとしたときに感じる抵抗……これは水の中!。


 (苦しくない?……水の中なのに……)


 深さは50センチ程だろうか、体が浸るくらいの大きさ。仰向けになって沈んでいた。


 ──ゴゴゴゴゴッ


 吸い込まれるような水の音、水位が下がっている。鼻が頬が耳が空気に触れていく。遂には1滴も残らず池を水が枯れ果てた。犯人は淡い瑠璃色の髪をした女の子。


 あの子は……学校帰りに見かけた女の子。明らかにあのときとは違う。肌の色つや、輝くようなキレイな服。


「き……きm──」


「「「何者だ!」」」


 かき消すような怒号。突き付けられる剣先。


 状況に理解が出来ない。横になったまま動けない……いや、動いて何かするということに頭が回らない。


 男が顎で合図をすると、とりまきの二人は僕の手首を縛って自由を奪い、首を縛ってロープで繋ぐ。


「こい!」


「いたっ」


 首に縄が食い込む。抗おうにも痛みと恐怖で従うことしか出来ない。


 (そういえば瑠璃色の女の子は……一葉は、一葉……それに天兄(てんにぃ)がなぜ……それにここは……分からないことだらけだ)


「おい、お前はどこから来たんだ」


「防彩高校です……部活中に不思議な光に連れ去られたというか、状況が良く分からないんです」


「怪しいやつだな。何を訳の分からないことを……」


 思わず歩みを止める。前を歩いていた男は引っ張られるように立ち止まった。



 油風のような温かな風、木々に茂る若葉を揺らしながらゆるやかに髪の毛を揺らす。



「そうか、お前、ミリオンに入って来ただろう」


「え!? みりおん?」


「ああ、光るアーチ状の扉のことだ。この下郎(げろう)の町に飛ばされてきたんだろう。時折お前のようなやつが迷い込んでくるんだよ」


「……げろう?」


「まあいい、あとでゆっくり教えてやろう。おい、お前たちっ」


 男が手を振り払うとふたりの男は手に首に繋がれたロープを外した。


 前にはリーダーらしき男、後ろには部下らしきふたりの男に囲まれている。逃亡しようにも敵わないだろう……。ロープを外したことを考えると敵ではない……はず。いや、そう信じるしかない。


 細い木々が立ち並び背の高い草があちらこちらに伸びている。合間を縫うように作られた獣道のような細い通りを進んでいく。



 草の陰からガサガサと歯の擦れる音、何かが潜んでいるような気配にビクビクし、空を飛ぶ鳥の声でさえ肩をビクッと震わせる。




「着いたぞ」  


 森を開墾してつくられたような拓かれた場所。畑が広がり合間合間には木が剥き出しになった木造住宅が建っている。


 舗装されていない道を黙ってついていく。村人はすれ違うと優しく笑顔で挨拶してくれた。


「いい場所ですね。みんな優しいし空気もきれいだ」


「ああ。……今はな」


 語尾は小さく含みを持たせた言い方。そのまま言葉を交わすこともなく中央の家に案内された。


 後ろを歩いていた男が扉に手をかける。「アルファ様に失礼のないようにな」と一言、音もなく扉をスライドさせた。



 真っ暗な部屋。一歩足を踏み出すと扉が閉まり、ビクッと振り返る。


「こっちへきなさい」


 太い声、声のする方に歩みを進める。ゆっくり、ゆっくりと……。


 あっちを見てもこっちを見ても暗闇が広がるばかり。


 

 ぱちんと指を鳴らす音とともに部屋の明かりがついた。外観から想像した通りの内装だが、どことなく不思議なエネルギーを感じる。見た目とのギャップと著しく違う快適さがあった。



 その先にはマレットヘアーで筋肉隆々の40歳位の男が見下ろしている。


「まあ座りなさい」


 指を鳴らす音に反応して地から椅子がせり出してくる。鏡面仕上げの石。言われるがまま腰を下ろすと尻にほんのりと温かくも柔らかな感触が伝わってきた。


「うわぁ」と思わず立ち上がる。予想した硬いイメージとのギャップが気持ち悪い。座り込んで椅子を撫でてみた。


 ふわっふわの座面。見た目とは全く……。


「ん? ……なんだこれー!?」


 石なのに柔らかい、石なのに暖かい。一体どういうことなんだろう。周りを気にせず椅子を撫でまわした。



「勇者よ、そろそろその椅子に座ってもらえないだろうか……」

 


 僕のいる土間のような場所をコの字型に壁が遮り、男の奥に大きな扉がある。僕と男のほかに人影は見えない。


「ゆ……勇者? 僕のことですか……」


 無意識に出る指は自分を指している。温かくも柔らかい椅子に腰を下ろす。


「そうだ、この下郎(げろう)の村を救う勇者様だ」

 


 本当に僕は勇者なのか? この村は……ここは一体どこなんだ。こんな村から僕の鍵集めの旅が始まったのだ。



《登場人物紹介》

  速水はやみ 三流みるる ※三流主人公

   高2から剣道を始めた陰キャ。いつのまにかスリムになっている。

   勇者かもしれない。

・下郎の村の住人

  マレットヘアーの男。村を治める人物らしい……


・不明

  透明感のある瑠璃色の髪をした女の子


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