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第28話 流されるままに

 扉を抜けると薄暗い場所にでた。冷ややかな空気、重々しい雰囲気がこれから起こる不安をかき立てる。100メートル程先から四角い光が僕に向かって伸びていた。


「いらっしゃーい、試合がんばってくださいね」


 額に角があるバニーガールが立っている。あまりにも場違いな姿に、まさかジアンのドッキリ?なんて顔を覗き込んだが青髪のキレイな女性だった。


「では行きましょう」


 腕を絡まれ光に向かって歩みを進める。歩くたびに響く靴の音、光に向かって歩く自分の姿が緊張感を高め、心が幾分か高揚した。


 この状況に脳が抗う事を忘れ女性に引かれるまま光に向かう。

 光の先、暗視に順応した目が一瞬(くら)む。目の前にはバニーガール姿の女性に腕を絡まれたジアンが待っていた。


「それでは両者中央へ」


 重々しい声の主、波紋のように広がる観客席を見下ろす最上段にある王座の前に立っていた。


「あれ?」


 王らしき人物の両脇にはふたりの女性、ひとりは(おでこ)に1本の長い角、もうひとりは(おでこ)に短い2本の角が生えている。

 1段下がった部屋には兵士の姿をした男たちに護られた、ひなつたちが座っていた。


ヽ(*`Д´)ノ(ナニシテイルノヨー)


 ひなつに顔が怒っている。必死に指で(ひじ)を指している。あ、バニーガール姿の女性か……慌てて腕を引き抜く。あんことミミはじっとこちらを見つめていた。


「それでは両者握手を……」


 ふたりのバニーガールを立会人にジアンが握手を求める。その目は真剣そのもの……流されるように手を掴んで握り返す。


「「ふたりともそのままジッとしていてください」」


 ふたりのバニーガールが声を発すると僕とジアンを取り囲むように丸い光の環、中に文字が綴られていく。……体育館で広がった魔法陣がチラリと頭を(よぎ)った。


 ふわっとした感覚。ジアンの頭の上に各超現実(AR)のように文字が浮かび上がる。


   ランク:1流 ギルド:不可

   レベル:68 スキル:煙化(えんか)


 あれ? 僕の上にも……。

 

   ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)

   レベル:15 スキル:衝撃波


 

 闘技場を取り囲むように座る観客たちからブーイングが飛び交う。ジアンからは『ユニコーンめ、今回は諦めたのか』と悔しそうな声が耳に入った。



「「それでは両者とも距離をとって構えて下さい」」



 人々の視線を一手に引き受けているような重圧(プレッシャー)に襲われ、期待にそっていない観客席の雰囲気をビシビシ感じて申し訳ない気持ちに体が縮こまってしまう。


「それでは、王女奪還試合開始!」


 王座の男によって告げられた言葉、王座奪還試合? 一体──ジアンが一気に距離を詰めてきた。拳は既に僕の(ほほ)を捉えている。


 右腕を振り払って絶対パリィ、失敗した時の保険に青水で包んでおくことを忘れない。

   

 捌かれた拳は地面に突き刺さると、小さく爆発して破片をまき散らした。



 一体何の試合なんだ……なんで僕は戦っている──あぶないっ


 連続した拳が僕を襲う、絶対パリィで避け続けるが徐々に上がるスピードに体がついていかなくなってくる。


「みるると言ったな、やるじゃないか。レベル15の実力で俺のパンチをパリィし続けるなんてな」


 激しく連打するジアン、絶対パリィが追いつかない……パスッ──服に風穴が空いた。青水ガードのおかげでダメージはない。


 徐々に増える風穴。


 このままじゃやられるっ! |僕の考えた最強の攻撃《衝撃波に見せかけた青水パンチ》をジアンの腹部に放って伸ばし、距離をとる。



「「「わーーーーー」」」


 息を飲むような攻防、一息ついた瞬間、瞬間湯沸かし器のように大歓声があがった。



「みるる、やるじゃねぇか。俺の攻撃をここまで受けて立っていられるやつなんてぇそうはいねぇぞ。でもな防御だけじゃ勝てねぇし、さっきの衝撃波は撫でられた程度にしか感じなかったぞ」


 勝利を確信したかのように片腕を回して僕に近づいてくる。一歩一歩……その目は自信に満ち溢れている。



「消えた!」


 ジアンがいない。その場所には煙が漂うばかり……


 ──煙化(えんか)か。さっき拡張現実(AR)でスキルに書いてあった……。


「これが俺の切り札だ。自由に体を煙化(けむりか)できるスキル。ここまで頑張ったお前に見せてやるよ。……ちなみに煙になったからと言ってダメージを受けないわけじゃない。攻撃を受ければ痛みを感じるんだ。そのへなちょこ衝撃波で攻撃が通ればな」


 生き物のように動く煙が僕を包み込む。



 ──ガンッ


 腹部に衝撃! 煙が腕に変化、あまりにも強力な一撃に体が浮いてしまう。浮き上がった体を組んだ両手で背中を叩きつけられ地面に跳ね返った。


 青水ガードが使えなかったら──背筋が凍り付く。なんとか立ち上がるも容赦なく拳が飛んでくる。あまりの速さに追いつけない。


 青水のおかげでダメージをほぼ受けないと言っても……あ、ひなつやあんこたちが飛び出そうとしているのを衛兵によって抑えられている。


「そんな顔をすんなよ」


 降参しようとも思ったが、敗戦したらひなつたちが解放される保証はない。




 1本、2本──指を立てる。『指示(しし)倍加』で自分の能力を倍加。


 2本(2倍) ──前方の攻撃であれば絶対パリィで避けられる。


 3本(3倍) ──これなら! パンチが見える煙の動きが見える!


 

 |僕の考えた最強の攻撃《衝撃波に見せかけた青水パンチ》、4倍!。

  


 衝撃波が煙にヒット。その場所を中心に煙が集約しジアンの姿へと戻っていく、その顔は勢いを残したまま拳によって頬は歪み吹き飛ばされた。


 


 ……無音



 ──ドスン。


 どこからともなく響いた音がこの場所に音を取り戻す。湧き上がる歓声、地響きのように揺れる地面が勝利を実感させた。

 

 飛ばされた先、煙幕(えんまく)のような砂ぼこりが上がっている。時間の経過と共に砂ぼこりは薄まり人影が(あら)わになった。


 ジアン……白目を()きピクリとも動かない。兵士たちが駆け寄ってジアンは担架(たんか)に乗せられて運ばれた。



 ひなつ、あんこ、ミミ……。ひなつが尻を(こす)っている。どうやら音を取り戻した正体はひなつの尻もち。みなが呆気に捉われていた隙に衛兵をかいくぐって飛び降りたようだ。


 冷静なあんこは飛び降りるミミを受け止めてひなつを立たせるとこっちに向かって駆け下りた。


「素晴らしい! ユニコーン族にジアンを撃破する戦士がいるとは……本当に素晴らしい」


 ──パチッパチッパチッ、男は拍手をしながら王座から立ち上がった。

==========

《登場人物紹介》 

 ・速水はやみ 三流みるる 所持金:金1000:大銅2

   ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)

   レベル:15 スキル:衝撃波

   ミミをデミハーフの村に送り届けるのが今の使命   

 ・日向夏ひなつ

   ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)

   レベル:18  スキル:猫耳髪作成

   猫耳ヘアーの女の子。喋れない。

 ・餡子あんこ

   ランク:3流 ギルド:冒険者(黄)

   レベル:16 スキル:武器長短

   巫女のような服を着た女の子。聞こえない。


 ・ミミ

   ランク:3流 ギルド:無所属

   レベル: 4 スキル:拈華微笑

   ハーフデミの子、馬車を牽くのが得意。意外におませさん


その他

   ジアン  2メートルを越える身長。早とちりすぎる

   王座の男 

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