第24話 美波の事情(前編)
「みるるくん、ちょっと付き合ってくれない?」
扉の前に立っていたのは美波先輩だった。僕の手を掴むと宿屋の外に引っ張られた。その顔は楽しそうだが少し悲しげだった。
激しく扉の鈴を響かせ宿屋の裏へと続く道へ駆けていく。頭の中ではひなつとの出会いを思い出していた。こんなことあったなぁ……立場は逆だけど。
「美波先輩、いったいどこに行くんですか?」
人気がまばらな静まり返った場所を走っていく。ひとりふたり擦れ違う人々は暗闇のせいか怪しく見える。
「もうちょっとよ、黙ってついてきて」
いやいやいや……確かに先輩は可愛いけど人気のない場所に連れ込むって……あらぬ妄想が膨らんでしまう。
「あ、あの……」と声をかけると同時に美波先輩は立ち止まった。
「ここよ」
掘っ立て小屋と言うのだろうか。気づかなかったけど同じ建物がズラッと並んでいる。その中のひとつ、この建物だけ隙間から光が漏れ出している。
「いらっしゃーい」
美波先輩が扉を開けたと同時に女性の声が響いた。僕の顔を見ると一瞬焦ったようにも見えた。
「マスター、みるると知り合い?」
「いや、美波が人を連れてくるなんて珍しいなぁと思ってビックリしたんだよ」
「ふふふ、この子はね私の元世界の後輩なの。鍵を探す旅をしてるんだって。私の宿に来たから一緒に愚痴を聞いてもらおうと思って連れてきちゃった」
背の高いセミロングの40歳位の女性、頼りがいのある逞しさを彼女に感じた。……中学校時代の先生に瓜二つ、まさか先生がこんな所にいるはずないよな。
「みるるといいます。美波先輩とは元の世界で先輩後輩の間柄でした」
「結奈です。このフリーショップで夜だけ飲み屋をやらせてもらってます」
「結奈さんビックリしました。僕の中学校の先生にあまりにも似ているから」
「そ、そうなんですか。凄い偶然ですね。私と似ているなんてどんな人だか一度会ってみたいですね」
「へぇ、私も会ってみたいわ。みるるくんと同じ中学校だったら楽しめたのにぃ……そういえば優斗とみるるくんと同じ学校だったのよねぇ」
「まぁまぁ積もる話は座ってからにしましょう」と結奈から席に座るように促された。店内にはカウンター4席と、4人掛けテーブルが2つというこじんまりとした店。
椅子に座ると懐かしい感覚を尻に覚えた。
「この感触……」
「でしょう! この椅子がいいのよ」
満面の笑み。そう、この椅子には魔法が付与されていない座面の硬い木椅子。学校の教室を思い出してなんだか懐かしい。
「ははは、このフリーショップじゃ魔法を付与した椅子なんて買えないからね」
「フリーショップってなんですか?」
「そっか、みるるくんはこの国に来た時に説明を受けなかったって言ってたものね。フリーショップは国に所属しない人が自由に商売が出来る場所よ」
お酒もあったが僕たちは未成年。お茶やジュースが中心。この世界に飲酒の年齢制限はないとのことだが、お酒を飲む気にはなれない。
この国のこと美波先輩の日常を中心に華が咲いた。楽しい時間は飲み物や食べ物を異次元に吸い込ませる。く、くるしい……もう入らない……。
「みるるくんもそろそろその敬語を止めなさいよー」
「い、いや……でも先輩にタメ口は……」
「みるるさん、タメ口にしてあげてください。わたしも崩した方が仲間みたいで嬉しいです」
友飲みってこんな雰囲気なのだろうか。初めての経験はとても楽しい時間だった。
* * *
ひなつとあんこには金貨1枚づつを渡してしばらく自由に過ごしてもらった。ミミは村に出るのが怖いようで部屋に籠っていると断られてしまった。
本当はある程度のまとまったお金を渡しておこうと思ったのだが……
○。○。○。○。
「何かのためにお金を渡しておきたいんだけど受け取ってもらえるかな」
「…………」
返事がない……。あんこは無表情、ひなつは『ΣΣ(゜Д゜;)』、ミミも驚きの表情を見せる。
ひなつはすぐさま大きく手を前に出して『|((-ω-。)(。-ω-))フルフル《手と首を素早く振って》』、激しく拒否した。
「とりあえず金貨100枚くらいずつ渡しておこうかと思うんだけど、足りるかな?」
「みるる殿! 何を考えているでござる。金銭感覚がおかしいでござる。大銅貨1枚もあれば十分でござる」
この国の通貨について、こんこんとあんこに仕込まれた。ギルド手伝いが1日大銅貨1枚ほど、ギルドで働く職人でも大銅貨3枚ほどであるという。
○。○。○。○。
そしてなんとか金貨1枚づつ受け取ってもらえたというわけだ。食材は日持ちするものを買い揃え、行商をすると言った手前、商材となりそうなものを商人に教えてもらいながら買い揃えた。
「ちょっと時間に余裕があるなぁ……そうだ、マスターの所に行ってみよう」
美味しい料理を想像してしまう。抑えようとしても頬が勝手に緩んでしまう。勢いよく扉を開くとテーブル席にカップルが2組デートをしていた。時折聞こえてくる甘い声にドキドキしてしまう。
「いいお店ですね。料理は美味しいし雰囲気も最高です」
「ありがとうね。私もまさかこんな場所でお店をやるなんて思わなかったわ」
「結奈さん、なんでこんなところでお店をやってるんですか? 料理も美味しいから大都市の方がお客さんも来るんじゃないの」
「たしかにそうかもね。でもね、私には目的があるの……いつかきっと……」
結奈の顔は悲しそうだった。きっと大人の事情があるのだろう。
僕は、陰のある大人の女性ってカッコイイなぁと思う程度であった。まさか深い事情があったなんてこの時は知る由もなかったのだ。
《登場人物紹介》 IN タカノス
・速水 三流 所持金:金1000:大銅3
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:15 スキル:衝撃波
ミミをデミハーフの村に送り届けるのが今の使命
・日向夏
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:18 スキル:猫耳髪作成
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。
・餡子
ランク:3流 ギルド:冒険者(黄)
レベル:16 スキル:武器長短
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。
・ミミ スキル:拈華微笑《ねんげみしょう:心に直接話しかけられる》
ロンリとの交渉人。馬車をひくのがうまい。
タカノス
・高島美波 スキル:選別眼
女子剣道部の先輩。NO4の実力者だった。
・結奈
フリーショップでお店を営む40歳位の女性。影がある。
・木嶋 優斗
美波の彼氏。Aランクのスキルを持つが戦闘が嫌で行方不明




