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第2話 環

 白で統一された自室には、スチールラックが横に並びテレビやディスプレイが置かれ、コードが絡まりながらもいくつかのゲーム機に繋がっている。


 そう。僕が考えた最強の配置だ!



 ニヤニヤ動画(動画投稿サイト)を観ていると、ふと一葉のことが気になり窓の外に目を落とした。




 ○。○。○。○。


 チカチカと電気が点滅する畦道にある小さなトンネル。人通りは少なく、中学生が拾った本を隠れて読むような場所。


 一葉に肩を貸して家まで送っていた。


「なあ、最後のグループって戦わないでなんとかならないのか」


「まあ無理だろうな。傷が癒えるまで暫くは襲ってこないと思うけど……こんなケガ人に勝っても自慢できないしな」


 ○。○。○。○。




 僕には良く分からない価値観だなぁ……一葉は一度倒せばもう襲ってこないって言ってたけど。


 背もたれの軋む音を耳に天井を見上げる。ふわっと青い風が吹き抜けた気がした。


「ん!?」


 床を蹴るように椅子から立ち上がると、抑えつけられていた背もたれが反動で勢いよく戻ってゲーミングチェアがゆっくりと回る音が耳に入る。


 見えるような見えないようなアーチ状の扉がうっすらと見えた気がした。


「気のせい……か?」


 特に変わった様子もなく椅子に座って窓の外に視線を移すと、道場越しにある2階建ての家、窓には下着姿の一葉。


 思わず固まったまま凝視、彼女から視線を離せない……一瞬の笑顔がみるみる変わり『あっかんべー』と共に勢いよくカーテンが閉められた。




 * * *



「ふぅ~、今日も部活かぁ」


 足取りが重い。足枷を付けられ鉄球を引きずる音でも聞こえてきそうだよ……。



 ふわりと一葉の香りを感──


 バッチーン。背に手の形に強い痛み。防衛本能が痛みの原因に視線を向けさせる。


「まったく、もっと元気よく歩けよな。そんな足取りじゃぁいつまで経っても下級生に勝てないぞ」


 一瞬呼吸が止まる。むせるようにゴホゴホする中、なんとか言葉を絞りだした。


「ゴホッ……か、一葉……もう傷は大丈夫なのか」


 さらにもう一撃手の平が背中に向けて飛んでくる。手の平の軌跡、無意識に一葉の手首を掴んだ。


「ふふ、()()()はね。動体視力が異常に良いのよ。ただそれに付いていくだけの能力が体にないだけ。だからしっかりとトレーニングするのよ」


 一葉は僕の手を振り払うと笑顔で手をフリフリ「またね」と体育館へ走って行った。

  

 

 全国大会にも出場するほどの剣道部でランクを決めるミーティングの日。男子剣道部員、女子剣道部員だけでなく立会人として数名のOBやOGまで集まっている。


 緊迫した雰囲気の中、4月からの練習風景や練習試合の状況を踏まえてA・B・Cに分けられる。


緋村(ひむら) 一葉(かずは)、A2」


 女子主将の次に呼ばれた。これは女子剣道部で2番目の強さがあると認められた瞬間でもある。


 気合の入った返事とともに総監督の元で木片プレートを受け取る。


 武道の精神を現したような緊迫した体育館の中、女子剣道部の部員名がスピーカーを介してランク順に響き渡る。


 ひとり、またひとりと木片プレートを受け取り戻っていく。その顔は悔しそうな表情をしている者が多く、泣き出す者もいた。そう、一葉が入ったことでランク落ちした者が多かったのである。




 女子部員の発表も終わりに近づいたころ、体育館の外から騒がしく激しい音がフィルターを通したように()()()って聞こえてきた。


 バイクの排気音、叫ぶ集団。徐々に大きくなる音量。近づいてくる……。



「止まった」


 ……恐怖する者、竹刀を手に握る者、あきらかに体育館に向かっているのは誰でも分かる。



 力強く体育館の重い鉄扉が勢いよく開かれ大きな音を立てた。


 ざっと数えて20名程だろうか……、手には木刀やバッドを持った者たち。


「一葉……」


 頭の中に浮かんだのは、一葉の顔と3つめのグループという言葉。



 ポケットが温かい……スマホのようなほのかな温かさを感じる。手を突っ込むとそこには鍵の形を感じた。


(……バックに入れておいたはずなのに)


 徐々に熱を帯びてくる。


 

 勢いよく校舎側の扉が開けられる……生徒会の面々と教師。



 入口からはニヤニヤしながらにじり寄ってくる者たち。野次を飛ばしながら威圧してくる。


 校舎側から入ってきた生徒会と教師は入口に向かって慌てた顔で駆けていく。



天兄(てんにぃ)さん」


 無法者の中央で木刀を担いでいるのは……一葉の長兄、緋村ひむら 天聖(てんせい)だった。


「熱い……」


 鍵の熱が徐々に強くなっていく。熱暴走したスマホのような熱さ。あまりの熱さに鍵を投げ捨てようとポケットに手を入れると体育館中がまばゆい光で包まれた。



 一瞬の光に目がくらみ目を覆う。周りの人たちも同じ姿。


「おい、なんだあれは!」


 その言葉と共に一斉に中空(ちゅうくう)に視線が集まった。



 そこには光の(たま)、中には5本の鍵。ポケットの中には鍵がない……


 ざわめく体育館。無法者も生徒会も教師も剣道部員も関係ない。ただただその環を見上げている。



 石!? 環に向かって飛んでいく。無法者の一人が投擲したのかニヤニヤしていた。



 石は一直線に環へ向かうが(すんで)で消し飛んだ。

 


 同時に大きな光が地中を這い、何かを描き始める。巨大な光、ところどころに梵字のような良く分からない文字。



 魔法陣……か。


 ゲームで見たことあるような形。この学校全体を飲み込むほどの大きさだろう。


 

 地面に描かれた紋様、優しい光、現実ではありえない光景が人々を惑わせ、混乱する者、騒ぐ者、逃げようとする者様々。


 呼応するように紋様は光を増し、大きな光とともにいくつものアーチ状の扉を生み出していく。様々な色の扉。


 何十、いや百以上あるだろう。カラフルな光景、現実とは思えないできごと。


 小さな扉がゆっくりと開いていく。既に人々は黙って中空を見上げていることだけ。


 

 その中の一つがひとりを飲み込んだ。続くように扉が襲い掛かり人を飲み込むと消失していく。



 気づいた時には青色の扉に飲まれていた。



 扉の中で瑠璃色の女の子を見た気が……した……。





 第2話いかがだったでしょうか。不思議な光と共に消え去った人々、何人が扉によって飲まれたのだろうか。しかし、この1件は事件にはならずに何事もなかったように日常が続いたそうです。そのあたりのことはまた別の機会にでも……


《登場人物紹介》

 速水はやみ 三流みるる ※三流主人公

  高2から剣道を始めた陰キャ


 緋村ひむら 一葉かずは ※みるるの幼馴染

  緋村流剣術道場の末娘。小さいころに兄を倒し破門された。

 緋村ひむら 剣聖けんせい※一葉の兄

  緋村流剣術道場の次期跡取り。剣道部主将、双子の弟は副主将

 緋村ひむら 天聖けんせい※緋村家長兄

  チーム。○のリーダー


 瑠璃色でボロボロの女の子

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