第15話 蜘蛛の糸
陽の光が遮られ隙間から僅かに漏れる光が当たりを照らす。歩くたびに絡みつく根や葉は虫が潜んでいそうで嫌な感じだ。
どこからともなく襲ってきそうなクモや蛇、上から落ちてきそうなヒル。見えない恐怖と戦いながらも奥へと進む。
青水で全身を薄く包み不測の事態に備えているが怖いものは怖い。いくら走ってもひなつたちには会わないし、こんなに遠くまで行っているわけがない。
「通り過ぎたか…………あっ……」
どこだここ……四方八方に広がる植物。どこを見まわしても同じ。
僅かに隙間から見える太陽を頼りに歩みを進めるが、時間が経てば太陽は動くし探し廻れば僕も動く。方角が狂って深みにはまるばかり。
そんな時、『こっちよ~』と間延びした声。
声に引き寄せられるように歩みを進めぇぁぁ「あーーーー」。
急な傾斜、滑り落ちる綺麗な断面はまるで滑り台。少しでも突起があったら……おろし金がふっと頭に浮かび……背筋が凍りつく。
青水青水……コーティングしないと。慌てて体を覆うが摩擦が少なくなった分スピードが上がるぅぅぅ「ギャーーーー!」「グゥエーーーー!」絶叫が辺りに響き渡る。
そして当然訪れる終点──
「岩だぁぁぁぁ」
──ドガーン。
強い衝撃、「ウギャーーー」と絶叫を響かせ激突、岩は破片を舞い上げクレーターを作る。
「ふう……。青水のおかげで助かった」
上に見える地上。遥か上空に飛ぶ鳥はゴマ粒程度にしか見えない。
「登るのは……無理だな」
直径30メートルほどの広場。僕のぶつかった岩が中央に一つあるだけで草しか生えていない。
「さっきの声は何だったのだろう……ここに呼ばれた? それとも命を?」
属性の理を狙うものは命を狙われる……まさか……。それより今はここから脱出しないと。
外周を囲う壁には何もない。なにか仕掛けでも隠されているのか。
──「あれは!」
10メートル上にある岩棚に一本の木、奥にあるのは洞。道はそこしか見当たらない。
「この絶壁……登れるのか……」
登る方法、登る方法……僕の力を使って……青水に絶対パリィ、そして|不思議なポケット《異次元ポケットと名付けた》。
うーん。……気分を変えようと異次元ポケットから干肉をひとつ取り出す。
とても硬いこの肉は噛めば噛むほど肉のうまみが唾液と混ざり合って口の中に広がる。牛とも豚とも鶏とも違う……一体何の肉なんだろ……いや、きっと知らない方が良い気がする。
砕けた岩の丸みを背もたれに、木を見上げながら嚙み切れない干肉を一生懸命に噛み続けていた。
「あっ! 青水!」
一生懸命噛んだことで脳が活性化したのかもしれない。右手を差し出しロープのように青水を伸ばすと太い幹にクルクルと巻き付けた。
「これで青水を戻せば……ぁぁぁぁぁ」──ひっこめる速度をまちがったぁぁぁ。ロケットのようなスピードで迫ってくる木。
破壊。木は粉砕された。辛うじて青水バリアで衝撃を吸収できたが、変な体制のまま壁に激突した。しかし心はニヤニヤ、使いこなせればかなりの武器になる!
そして目の前に立ち塞がる洞窟。入口はそれほど大きくないがパックリと口を広げ真っ暗で奥が見えない。
「この洞窟は一体……まさか落ちたりはしないよなぁ」
恐る恐る一歩を踏み出す。
「良かった……」
上り坂だった。今まで落ちてばっかりだったことを考えると少し嬉しい。
人の気配に察して、お約束のように蝙蝠がバッサバッサ羽音を立てて何匹も飛び出してくる。で、でかい……人の頭ほどあるだろうか。
背中を流れる汗、手や脇にかいた汗を冷やすように涼しい風が吹き抜ける。手汗を擦り付けるように壁を伝って進んで行く。
ぴちゃり、ぴちゃり。水の垂れる音がドキドキを膨らませる。徐々に慣れてきた目は洞窟の輪郭がうっす映し出した。
「あれ?」
うっすらと光る場所。
蓄光顔料のような緑色のぼやけた光り、気になる心が歩く足を速くさせる。
池? それほど大きくはないが優しく緑に光る水で満たされていた。
『属性の理で吸収して』 ──またあの間延びした声だ。
言われるがまま青水を使って緑の水を掬い取り体の中に吸収する。
『癒付与スキルを手に入れました』、脳内に響く。
『次は上よ~』、間延びした声。
上? 見上げると吹き抜けがある。闇に繋がっているように真っ暗で先が見えない。
「なんだあれ?」
杭のように突出した岩がぼやっと光っている。等間隔左右均等に……明らかに作られたような場所に猜疑心が生まれる。
行くしかない、か……。導かれているのか誘い込まれているのか。まさしく鬼が出るか蛇が出るかって感じだな。天使でも出てくれればいいんだけど。
冗談を言う余裕が出来たのは心が少し成長したのかもしれない。なんてことを思いながら蜘蛛男のように突出した岩に青水を絡めて上っていく。
映画の主人公になったようで面白い。青水をひっかけて階段のように1つづつ登っていくとあることに気づいた。縮みきる前に次の岩に巻き付ければ流れるように上へ上へと進んでいけるんじゃないか。蜘蛛男になれるんじゃないかか。
「なんだここ」
上り切った先にあったのは巨大ドーム、有名な野球場ほどの広さはある広々とした場所。
──ズゴゴゴゴ。巨大な岩が動く音……「後ろか!」
吹き抜けが岩によって塞がれていく。重い音、大きく揺れる地面。一体なんだんだ。明らかに作為的だ。一体何者が……何のために……。
──ドゴーン! 完全に逃げ道を塞がれた。戻ることはできない。出来ることは前に進むことだけ。
ぐっと力を入れて一歩を踏み出した。
「なんだ!」
視界に入った不自然、無意識に視線が天井に向かった何かを追いかける。打ちあがったのは光、宙に留まると、天井が強い光に覆われていく。
屋内とは思えない明るさ。天井に描かれた不思議な模様。
……その先に見たのは……
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《登場人物紹介》
・速水 三流 所持金:金1,008枚大銅4枚
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:1 スキル:絶対パリィ
初めての依頼が大変なことに。仲間の護衛を失った。
・日向夏
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:8 スキル:言霊詠唱
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。あんことともに行方不明。
・餡子
ランク:3流 ギルド:冒険者(黄)
レベル:16 スキル:武器長短
巫女のような服を着た女の子。聞こえない。ひなつとともに行方不明。




