第14話 ベオカの恐怖
「しばらくこの村に滞在するから好きにしてくれ」
狸のようなポンポ商人、その部下であるフォス商人は切れ長でつり上がった目をしている。この村で薬草を大量に仕入れる交渉でしばらく滞在するらしい。
フォス商人は、プレートから僕に向かって指を振り払うと、『金貨10枚が支払われました』と脳内に響いた。
「これは?」
「ああ、新しい護衛をポンポ様にお願いしたから約束の報酬、金貨10枚だよ。町に帰るときに一緒に馬車に乗って行ってもいいし、直ぐに帰ってしまってもいい。好きなようにしなさい」
「どういうことですか?」
「ポンポ様に言われていたんだよ。もしトラブルがあったら報酬を渡して自由にさせなさいとな」
* * *
これからのことを考えていた。
──ぐぎゅるるる。腹の音、聞こえてきたのはあんこから。
「拙者、仲間とはぐれてから野生の動植物を食べて生活していたでござる。後で狩りをしてくるから気にしないでいいでござる」
「待ってよ、仲間になったんだから……」って、聞こえないんだ。青水を介して骨伝導で伝え直す。「待ってよ、仲間なんだから一緒に食べよう。お店はまだ開いてないし……売店で適当に買ってくるね」と広場に走った。
青水を使った骨伝導システムのおかげで村民から怪しまれず会話が出来るので便利のものだ。
小さい村だけあって品ぞろえは少なく農産物が中心、気軽に食べられる果物とパン類を幾つか選び、予備用に干肉をいくつか購入して大銅貨1枚。プレートを介して支払った。
これって、プレートを使って支払う意味って……確かに現物が手元になくていいのは楽だけど……貨幣ごとに価値を決めて電子マネーのように単位を揃えた方が良いような……。
無意識に干肉の袋を赤茶色のポケットにつっこんだぁぁぁぁぁ「ぁれ?」。ポケットに吸い込まれるように干し肉は消えた。
試しに果物も突っ込んでみる。リンゴ、バナナ、みかん……。どんどん入るし出すのも簡単。イメージするだけで手に吸い付き取り出せる。
不思議なポケットに興奮するあまり「その剣、1本下さい」と西洋風の剣を銀貨1枚で衝動買いしてポケットにしまうとそのまま消えていった。
…………
「ごめんごめん、遅くなっちゃった」
彼女たちに食べ物を渡すと、ふたりは一瞬で平らげてしまう。
果物じゃあ腹は膨れるけど満腹感は満たされないだろう。保存食で買っておいた干し肉をポケットから取り出そうとしたとき、
森林側から一人の男が血相を変えて叫びながら走ってきた。恐怖に怯え死にそうな程に呼吸を乱しながら。
人々が集まってくる。男は「は、はーふ…… (ごくり)……半亜人がで、出たぞー」
村民の顔色が一気に変わる。村人は鍬や鎌、石を片手に続々と集まってくる。
その目は血走り浮き上がる血管は悪魔でも評したようだ。
「Σ(v_vlll)」──顔面蒼白のひなつ
「ひなつ、どうしたんだ」
「((-ω-。)(。-ω-))フルフル」──首をふるばかり。
「あんこ、半亜人ってなに」
「半亜人でござるか、それであの者は慌てているのでござるな」
「転移してきた者が人形、魔人との混血に亜人が生まれることがある。これは知っているでござるか」
「うん、前に聞いたことがある」
「時折、混血に人形と亜人の中間的存在が生まれることがあるでござるよ。例えば人形だが耳はウサギとかでござるな」
「可愛いじゃない」
「拙者もそう思うでござる。でもこの世界ではどちらにもなれなかった不完全体として忌み嫌われているのでござる」
「生まれだけで?」
「そうでござる。ほとんどの半亜人は人里を離れて暮らしているでござる」
「((-ω-。)(。-ω-))フルフル」──頭を抱えて首を振っている。
ひなつは袖を掴んで上目遣いで『(இдஇ; )』。恐怖というより助けて欲しいと訴えているようにも見えた。
西門に人が歩いていく。その姿はゾンビ、獲物を狙うようなただごとではない雰囲気に恐怖すら感じる。
武器を持つ手に力が入る村民、薬草を取りに来ていた冒険者らしき者も集まり、徐々に大きな塊となって門に迫っていく。
群集心理が働いているのか止めるのは難しい。集まる者たちの視線の先、ボロボロの服を着た犬耳をつけた子供が尻もちをついたまま逃げるように肩を前後にずって下がっていく。
「あれは拙者の刀!」
半亜人の腹には一本の刀、一目散にあんこが走る。にじりよる村民の横を駆け抜けると、ビクッとした村民のひとりが石を投げつけた。
半亜人前に立つあんこ、村民を背に半亜人に一生懸命に何かを訴えている。
ガツン! ──あんこの後頭部に石が直撃、半亜人に倒れこんだ。
慌てて村民たちの前に立ち塞がり大の字になって攻撃を止めるように訴えかける。
「やめてくれ、あの子は僕の仲間の刀を持ってきてくれただけなんだ。僕があの子を奥に連れていくから助けてあげてくれないか」
必死に説得を試みるが怒号が飛び交うばかり。ついてきたひなつにあんこたちを森の奥へと連れていくように促す。真剣な表情で大きく頷くと彼女たちの元へ走っていった。
一体何なんだこの操られているような表情……。いくら忌み嫌われてるからと言って犬耳の子供ひとりをここまで追い詰めるなんて。
ひなつたちの様子を横目にうかがい村民たちの説得を試みるが全く収まる様子がない。「お前は半亜人の味方をするのか」など野次や怒号が石と共に矢のように打ち込まれ必死に耐えた。
大量の石が雨のように一方的に投げられる。その中のひとつが頬に直撃した。体全体を青水で覆っているのでダメージはないが、バレないように大げさに怯むふりをする。
にじり、にじり……僕と村民の距離は僅か10メートル。数十人いる村民や冒険者相手に戦う訳にもいかないし勝てる見込みもない。
「あれ!?」 ──村民ひとりの吊り上がった目が戻る。ドミノのように広がり、いつのまにかいつもの村民たちになっていた。
「半亜人を追い払ったか」──ワイワイしながら村に戻っていく。拳を振り上げ良いことをしたという雰囲気。武勇伝を語るような表情に僕は耐えられなかった。
僕はひなつとあんこを追って森に入った。
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《登場人物紹介》
・速水 三流 所持金:金1,008枚大銅4枚
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:1 スキル:絶対パリィ
初めての依頼が大変なことに。仲間の護衛を失った。
・日向夏
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:8 スキル:言霊詠唱
猫耳ヘアーの女の子。喋れない。みるるをサポートする女の子。
・餡子
ランク:3流 ギルド:冒険者(黄)
レベル:16 スキル:武器長短
ひなつの希望により一時的に仲間になってくれた。耳が聞こえない。
商人
・フォス・アツア:ポンポの部下。ベオカで薬草の買い付けを任されている。
ベオカ
・宿の主人:ベオカの所有物、交代で担当。




