第10話 ふたりの秘密
「ひなつのギルド登録お願いします」
昼間のギルドは人が多く騒がしい。冒険者ギルドに所属する面々は、掲示板からめぼしい依頼をプレートに取り込むような仕草をしている。
なるほど、あーやるのか……。達成した依頼は直接ギルドから報酬をもらうらしい。
「それで夜は奥の扉を抜けて依頼者に会いに行く人が多かったんだな……」
「あら三流さん。ウシガスキを倒したんですってね」
「ひなつとふたりでなんとか……って、みるるですよ、みるる」
「噂になってましたよ。ウシガスキを倒してその場で肉を食べてたやつがいるって」
「そんなことまで噂になるんですか」
「みんなは噂に飢えてますからねぇ。わざわざ酒盛りのネタを集めるためにあちこちに出向いてアンテナを張っている人もいますし、自慢話のタネを作る為だけに冒険者をやっている人もいるくらいですから」
酒場か……お約束は情報収集だよな。自慢話に華が咲き、荒くれたちがジョッキを片手に盛り上がる。可愛い店員……正体は影の執行人。なーんてアニメの見過ぎだろうか。
「三流じゃないか」
「あれ? 匠真、匠真じゃないか」
上野 匠真、6:4分けのフロントをアップバングした中学校時代からの同級生。あまり付き合いはないがDIY好きとして有名だった元クラスメート。
「みるる、こんなところで何してるんだよ」
「冒険者ギルドへ仲間の登録に来たんだ」
「はぁ? 人族はキチンと仕事が選べるはずだぞ、今更冒険者ギルドってお前を何してたんだよ!」
「どういうことだ? 仕事が選べる?」
「お前、こっちの世界に来た時にちゃんと説明を聞いてなかっただろ~」
「説明? そんなの無かったけど」
「はあぁ。この世界で生きていくために鍵集めをしてもいいが、1つだけ付与されるスキルを活用するか、好きな仕事を選んでいいって──」
「おーい、たくまー早くしろ~」
「はーい、すぐ行きまーす」声の方へ足早に向かう、振り返りざまに「俺はこの世界の方が好きだぜ、やりたいことを精一杯出来るからな。木工ギルドに用があったら声をかけてくれ、いつでも仕事を引き受けてやるよ」と扉の奥へ消えていった。
「みるるさん、ひなつさんのギルド登録は良いのですか?」
「<●><●>ジー」──こちらを見つめている。
「ひなつ待たせてごめん、ネコミさんお願いします」
つつがなくギルド登録は終わった。『(o^_^o)』な、ひなつ。
「ちょっとみるるくんいい? ひなつさんはちょっとそこで待っててもらっていいかな」
「(゜ω゜)(。_。)ウンウン」──素早く頷き見送ってくれた。
カウンターの奥にある小部屋、6畳程の広さがあり窓際にテーブルと椅子がある。テーブルの上には大量のお菓子で溢れていた。
「ネコミさん、その大量のおやつは……」
慌てて収納に押し込むネコミ、ギューギュー扉を閉めるがあまりの量に内からの押し返す力が強すぎて扉が勢いよく開き床に散らばった。
「ま、まあお菓子はいいの、それよりひなつさんよ」
「ひなつがどうかしました?」
「これは、わたしとあなただけの秘密よ。もし彼女が知っていたら絶対に誰にも言わないように伝えて欲しいの」
「そんなに慌ててどうしたんですか、らしくないですけど」
「ふん、あなたが私の何を知ってるのよ……なんて冗談はおいておいて彼女の持ってるスキルは神スキルと言われる『言霊詠唱』なのよ」
「ことだまえいしょう?」
「言霊系スキルはいくつかあるんだけど、言霊詠唱は魔法に一言でも言葉を乗せると感情の度合いで威力を何倍……いや、何十倍……、もしかしたらそれ以上の威力になるスキルなの。もし言葉を取り戻したら国々から色々な意味で狙われると思うわ。だから絶対にバレないようにしなさいね」
「タマサイのギルドがなんでそんなこと教えてくれるの?」
「ふふふ、ギルドは国の持ち物じゃなくてギルドという集まりだからね。全てのギルドは繋がってるの。言わば領地をもたないひとつの国だと思ってもらっていいわ」
* * *
『言霊詠唱』……良く分からないうちに物凄い子を助けてしまったのかもしれない。ちなみに僕の『絶対パリィ』はハズレスキルらしい。どんな攻撃でも受け流せる優れものだがタイミングが非常にシビアで使いこなせる者は極わずか、生産系ギルドに逃げてしまう人が多いようだ。
宿に戻ったら思い切って聞いてみよう。それが原因でひなつがあそこにいたのだとしたら……、知ったことでショックを受けてしまわないか……あれこれ考えてしまう。
「ひなつ、もし嫌じゃなかったらステータス見せてもらってもいいかな」
「(-ω-;)……((-ω-。)(。-ω-))」──迷っている。
「い、嫌だったらいいんだ」
ゆっくりとプレートを取り出して手の平に乗せる。うつむいているせいか表情が読み取れない。ポタリと涙が床を濡らした。
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:8 スキル:言霊詠唱
確かにスキル欄には言霊詠唱の文字、小さく発した僕の「言霊詠唱」という言葉に反応するようにひどくうなだれて怯えだす。
この反応は……このスキルのおかげで酷い目にあったのだろう。ひなつは「言霊詠唱」という言葉を聞いてから小刻みに体が震え距離をとりだした。ちょっと動くだけでもビクッと体を震わせる。
「ひな──」
「((((;´・ω・`)))ガクガクブルブル」
「──つ。ネコミさんから聞いたよ。『言霊詠唱』、とても凄いスキルであることと人から狙われかねないスキルであることを」
「((((;´・ω・`)))ガクガクブルブル」
「でもね、僕はそんなのどうでもいいんだ。ひとりで心細かった僕と一緒にいてくれるひなつは、もう家族だと思っているんだ」
「(((;´・ω・`))ガクブル」
「だから、このことはふたりの秘密にしてこれからも一緒にいてもらえないだろうか」
「(゜д゜lll)……(;´・ω・`)……」
「…………」──彼女の答えをひたすら待った。
「(ღ✪v✪)」──抱き着くひなつ「(゜ω゜)(。_。)ウンウン」見つめながら素早く頷いた。
「ありがとう……ひなつ。それと僕からもひとつ……」
「(o゜-゜o)?」
「もしかしたらなんだけど、僕は『属性の理というものを使えるそうなんだ』
右腕から青水を表出させる。蛇のようにうねらせ、雨のように降らせ、硬化させてぶつけ合う。その表情は『ΣΣ(゜Д゜;)』、目を見開き口が開いていた。
「((((((((((っ・ωΣ[壁]ガコッ!」──逃げるように後ずさりし壁に頭をぶつける。
「まあ、これでふたりは秘密を知り合った運命共同体だね」
投げかける笑顔に満面の笑みで返してくれた。手を差し伸べるとガッシリ握り返してくれる。柔らかいひなつの手から伝わる心を受け止め、絶対に彼女を守るんだと心に誓うのであった。
明けましておめでとうございます。
ひなつと本当の意味で仲間となったみるる。冒険者ギルドに登録したふたりが待ち受ける運命とは。駆け出し冒険者のぼくたちに何ができるのか……次回『第11話 初めての依頼』お楽しみに
《登場人物紹介》
・速水 三流 所持金:金貨999枚
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:1 スキル:絶対パリィ
ひなつと運命共同体になった。
・日向夏
ランク:3流 ギルド:冒険者(茶)
レベル:8 スキル:言霊詠唱
キクの街
・ギルド受付:ネコミ・バルキ
?:?:?:?
ギルドの受付嬢、サーバルキャットの亜人
・木工ギルド 上野 匠真
?:?:?:?
中学時代の同級生。趣味はDIY