5.地下墳墓 第一層 魔力の秘密
週末は大変な豪雨に見舞われました。私は幸い大事には至りませんでしたが、被害を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。
辺りを見回すと、十数匹の狼の死骸が転がっている。ちょっと焦げ臭い匂いを漂わせながら・・・
トンネルを抜けた場所は、天井から眩い光りがあちらこちらから差し込み、その明かりで育ったのか一面草原が広がっていた。まずは目の前の小径を進みつつ、下の階への道を探すこととした。
歩き始めて、数十分経った頃だったろうか、辺りに気配を感じた瞬間二匹の狼が襲いかかってきた。
咄嗟に横に跳び間一髪で躱すと、そのまま太刀を抜き、横一線に薙ぎ払った。
草とともに、狼が炎の刃で真っ二つになる。直ぐにもう一匹を気配を探ると、既に取り囲まれていた状態であることに気づいた。
集団で襲いかかってきた狼を一匹ずつ一太刀で斬り捨て、気づいた時には、この惨状だった。
「翔、すごいなぁ。 いやぁバッサバッサってヤツだな」
「見てないで、手伝ってくれても良かったんじゃないですか?」
そう言うと、ナベは「下手に近づいて火傷でもしたら大変だから」と笑って高みの見物を決め込んだ理由を説明した。
「だったら、ナベさんも火蜥蜴の防具にすれば良かったんじゃ?」
「そんなもん着たら動き辛ぇし、この籠手買うだけで一杯一杯だ。」
「えっ、その籠手100万もするんですか?」
「いや、コイツはそんなに掛かっちゃいねぇ。半分は別のもんだ。」
ナベはそう話しながら狼の死骸に向かうと、狼を捌き始めた。
「狼からは特にこれと言った素材は取れないんだが・・・コイツは別だ。」
ナベは翔が始めに仕留めた狼から、牙を折ると翔に投げ渡した。
「コイツは只の狼じゃない。ワーグだ。ワーグは魔力を持った狼で、牙は売ればそこそこの値がつくし、薬や武器の素材にもなる。本来、知能も高く仕留めるのは狼の比じゃない。最初の一太刀で仕留められたのはラッキーだ」
二本目の牙を折ると、ナベは自分の鞄へとしまった。
「取り分は半分ってことで。 ちなみに、100万の半分はこの道具の費用に掛かったんだ」
言いながら、ナベはハンマーを見せ、鞄に仕舞った。
「ただのハンマーじゃねぇぞ、魔鍛冶師が作った一品だ。他にもあるぞ」
ナベは、鞄から様々な道具を取出して見せてくれた。その中には太い針なども見当たった。
「実は、俺の持ち物はポーションともう一つあったんだ。このモンスター全集だ。これには、モンスターの生息場所や弱点、取れる素材の情報が載っている。」
ナベは、現実世界で革製品を扱う職人である事を教えてくれた。それ故、モンスター全集を見つけた時、この世界での自分の役割を決めたらしい。悪魔を退治するための防具や武器を造る事で人類に貢献しようと。
「ところで、その太刀だが・・・最初は凄まじい炎だったがが、徐々に弱くなってなかったか?」
確かに、初めのワーグを斬った時は、直接刃は当たっておらず、伸びた炎で斬り倒すことができた。だが、最後の狼の時には刀身こそ赤く熱を帯びていたが、炎の刃は現れていなかった。
その疑問に答えたのは、《焔の太刀》の中のイフリートであった。
『翔、それはお主の魔力が枯渇したからじゃ。炎の具現化には魔力が消費される。今日見たところ、炎の具現化は10振り迄の様じゃ』
「俺に魔力があるんですか?」
『誰にでもある。 貯蔵量は人ぞれぞれじゃがな。』
「貯蔵量って増えるんですか?」
『普通は、魔法を使う事で徐々に増えていく。体力と同じじゃ。鍛えれば徐々に底上げができる。だがお主は、この太刀を使い続けるだけで徐々に増えていくじゃろう。毎回枯渇する程に使用するじゃろうからな』
そう言うと、笑いながら声が遠くなっていった。
「そうか、俺にも魔力はあるって事か・・・」
ナベは、そう言うとニヤリと微笑んだ。
「翔、知ってるか? お前のその太刀は精霊付きだが、普通の武器にも魔法の効果を付与する事で、炎の剣とか造れるんだ。そして、それを成し得るのが魔鍛冶師って奴だ。俺も可能であれば、魔法の武器や防具を造りてぇと思っていたんだが・・・楽しみが増えたぜ」
次の階へ進む為、先を急ぐ事にした翔とナベはその場を後にした。途中、遠くに狼の姿は見かけたが、先を急ぐ事を優先した。
しばらく進むと天井まで続く壁の根元に、狼が口を開けた様な洞穴が見えてきた。中に入ると下へと続く少し広めの螺旋階段があった螺旋階段を降りると、古い教会のホールの様な場所についた。
ホールの中央には女神像が鎮座しており、その周りに数人の探求者がいた。声を掛けようかと思った時、探求者達は霧の様に消えてしまった。
「そう言えば、アランが昨日話してくれたのは、この女神像の事じゃ無いか?」
毎日日が暮れる前に冒険者が戻ってこれる理由。それが女神像のテレポーテーションの力。祈りを捧げた事のある女神像であれば、女神像から女神像へ転送してくると云う。
「そうか、それで此処まで誰とも会わなかったって事か・・・」
急に辺りが暗くなり始めた。
「しまった!」
いつのまにか日暮れにさしかかっていた様だ。洞窟の薄暗い中を進んできた為、夕暮れに気付かなかった。
俺達は急いで女神像へと向かった。