6.チーム結成早々に退散
「いらっしゃい! おっ、生きて帰ってきたか!」
《おっさん亭》の主人アランは、翔とナベが無事帰ってきた事を確認するとキンキンに冷えた麦酒を出してくれた。翔達が、装備を整え地下墳墓へ向かった事は、《鬼斬商店》から連絡が入っていた様だ。
「で、どうだった?初日は第1層で終わったか?」
「一応、第2層まではなんとか」
「そうか! 初日で第2層まで進んだのか! あそこの狼達には少々手間取ると思ってたんだがなぁ」
「アランさんは、もしかして元探求者ですか?」
「ん・・いや、実はなぁ・・・昔、少しだけな。 第2層で行き詰まっちまって・・・やめちまったよ」
地下墳墓第2層、草原だった第1層と異なり、ジャングルが広がっている。しかも、果てし無く広い。
第3層へと続く階段は、第2層の女神像から近い場所に有り、下層へ行く事は容易い。但し、行くだけであれば・・・だ。第3層以降は、モンスターも知能が高く、魔法を行使できるモノも出てくる。
そのため探求者はしばらく第2層で過ごす事になる。第2層で物足りなくなる頃には、第3層へと向かっても生き残れる確率が高くなるというのが、代々探求者に伝えられている先人の言葉だ。
「まぁ、物足りなくなるってのは、昼夜あそこで過ごせる様になるって事だ。第3層以降は、半日で地下への階段に到着する事は難しい。だから昼間だけの活動だけでなく、夜間をどう乗り切るか経験しておく必要があるんだ! だが、夜間はモンスターがうようよ出没するため休憩もままならない。だから連泊するような事は滅多にしない。まぁ、物足りないと感じるレベルに成れば別かも知れんがね」
(大半は、半年経たず諦めて去ってしまうが・・・と言うのは言わない方が良いかな)
「なるほど・・・第1層には誰も見当たらなかったのに、第2層で探求者に出会ったのはそういう理由だったんですね」
「だが、翔だったら今すぐにでも第3層でもやっていけるんじゃねぇか? コイツの太刀はすげぇからな」
「まあ、あんまり急がず第2層にいるサイクロプスを倒してから向かっちゃどうです?」
単眼の巨人族であり魔法耐性もあるサイクロプス。これ位倒せなくては第3層での死は免れない。魔法耐性があるという事は、純粋な剣技で勝負をするか、魔法耐性を超える威力の魔法で勝負するしか無い。何れにしても、この先のモンスターと戦う最低限の技量が試される事になりそうだ。
翔とナベはお腹を満たすと、明日の戦いに向けて帰路に着いた。
翌朝、聖墳墓教会の女神像前で翔はナベを待っていた、すると不意に長い黒髪が花が開くかの如くなびかせ、一人の女の子が現れた。と同時に、自分と同じく神により送られた人間であると直感した。何故なら、その格好がどう見ても《巫女さん》だったから。
辺りを見回している巫女さんに声をかけた。当然驚きは隠せなかったが、同時に安堵感も伝わってきた。
軽く自己紹介を済ませた頃、ナベが現れた。
「初めまして、カオルと言います」
二十歳になったばかりのカオルは友人と誕生パーティーを過ごした後、ウトウトしたところで此処に送られたのだという。
この世界に来る際、名前については苗字と名前どちらか一方だけを使用する事と言い渡されている。個人情報に配慮してとの事らしく、此処でのいざこざが現世に持ち込まれる事を気にしてのことなのだろう。まぁ見た目は現世そのままなので、顔見知りや有名人には可哀想だが意味はない。
「パーティーに華があるってのは良いな! そう思わねぇか 翔?」
カオルの希望もあり、翔達は三人のパーティーとして行動する事となった。早速カオルの装備を整える為《鬼斬商店》へ立ち寄った後、地下墳墓第2層へと向かう事となった。
道中、カオルが購入した扇について尋ねると、意外な答えが返ってきた。カオルが言うには、扇は武器として購入したと。但し、直接殴打する類の物としてではなく、彼女の能力を最大限に引き上げる事が可能な物としてである。彼女の能力とは何か。それは、まさに巫女として、否、神に使える者としての力の行使に他ならない。神の力とは何か・・・それはカオルの鞄の中にある。神聖魔法全集(上巻)それが、カオルの能力を示す全てであり、既に神と面識のある我々は、既に契約すら必要無い状況である事を確信した。
「実は此処へ来る時、私の能力について神様から説明を受けました。この扇は私にとって魔法の杖の様な物です。本当は笏を探していたのですが、丁度この魔法の扇が目に留まってしまって・・・、でも思った以上に使い易そうです」
翔達は情報交換しつつ、地下墳墓第2層へ到着した。
「では、早速近郊のジャングルに潜むモンスターを退治しよう! まずは、こっちだ!」
ナベはチラッと振り返り、カオルがついて来ているのを確認すると先頭切ってジャングルを進み始めた。
直ぐに獲物は現れた。ゴブリンの群れだ!
「翔!」
任せたと言わんばかりに、ナベは後方へ下り翔にその場を任せた。
俺は太刀を抜き魔力を込める・・・込めた筈だった。
「どうした翔? いつものやつは?」
ゴブリンが一斉に襲いかかって来た。翔は太刀を横一線にゴブリン2体を仕留めた。だが、出るはずの炎は|
ほ《・》の字も見えない。だが、魔力の消費による脱力感だけは以前通りだ。ナベも翔の異変に気づいたのか、ゴブリンへと向かっていった。
やがて、ゴブリン十数体程の死体が出来たところで、さらにゴブリンの群れが現れた。戦況は悪くなる事は明らかだった。
「一旦引こう」
俺とナベの二人であれば、十分戦闘は可能であったが、初めて戦闘に参加したカオルをバックアップしながらの戦闘で、数の上で圧倒的に不利な状況では厳しい。
ゴブリンの群れが合流する前に戦線を離脱することに決め、女神像前まで退却した。
ナベはゴブリンが身につけていた装備品や装飾品を収集する事が出来ず、悔しがっていた。
「しかし翔、なんでいつもの炎が出なかったんだ?」
女神像前まで戻る間ずっと考えていた事だ。
「イフリート! 聞こえるか!」
『どうした翔』
何もなかったかの様にイフリートは応えた。
「なぜ炎の刃がでないんだ?」
『・・・』
『焔の太刀を完全に使い熟せていない、それだけの事。我がサポートがあって使えていたに過ぎない。真に焔の太刀の力を欲するならば、剣技を磨き心身共に焔の太刀の主人として相応しい力を得よ』
イフリートは翔を見つめさらに続けた。
『翔よ、第4層まで剣技のみで進んでみよ、それまで暫しの別れだ』
イフリートが何かを隠している事は感じつつ、自らの力量不足にも納得した翔は、剣技を極める事を誓ったのだった。
皆さん、どうお過ごしですか?
すっかり暑くなってきましたね。
もうそろそろ展開スピードを上げないと・・・と思いつつ、マッタリしてしまいマス。
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