3 探し人を見つけた日
ブックマークが一件付いてテンションが上がったので投稿します!
「エンデ!付いてきな!」
「母さん......何度言ったら解る?会話が成り立たないから説明をしてくれ。説明を」
とある孤児院の一室で、老婆と少年が話していた
といっても、少年の言う通り、老婆の言葉には前提となる説明が無く、会話が成立しているとは言えなかったが
「今日散歩をすると、出会いがある!アタシの"勘"がそう言っている!」
「んで、俺を連れていくのも"勘"?」
「解ってるじゃないか!行くよ!」
「はいはい今行きますよ......」
子供の様に活力に満ちた老婆と、大人の様に落ち着いた雰囲気を纏う少年。奇妙な二人組は、出会いを探しに家を出る
★
「え~と......こんな人のいない場所に出会いなんてある?」
「あるさ。アタシは王に『〈深紅〉の"勘"は未来予知より正確だ』と言わせた女だよ?外れる筈が無いさね」
「ふーん......凄いじゃん」
(まぁ、態々そんなこと言われなくとも信じるけどさ)
「相変わらず子供らしくない......普通子供は〈深紅〉とか王様とか聞いたらテンションが上がるんだけどねぇ......もうちょっとはしゃいだって誰も文句を言ったりしないよ?」
「母さんは俺がこうなった原因知ってるだろ?」
「降霊の多用による知識と経験の獲得と、それに伴う精神年齢の増加だろう?全く......子供がそんな勢いで成長しないと生き残れない世界なんて糞喰らえだ」
「同感......なんでため息吐いてんの?」
「いや、なんでもないさね......」
(今日の出会いがエンデを変える気がしたから連れてきたが......悪手だったかもしれないねぇ......)
「明らかになんでもなくはないけどそれはさておき......変な魔力を感知した。たぶんコイツが母さんの言う出会いだ」
「意外とあっさり見つかったねぇ。んじゃ行くか」
★
二人が魔力の感知元に到着すると、不自然に生えている壁に刺さったナイフを見つめ、思考に耽っている少女に出会った
そしてエリザがしゃがんで目の高さを少女に合わせ、問いかける
「アンタ、こんなところで何してるんだい?」
「え?えっと......それは......その......」
しかし少女は視線を泳がせ、口籠るだけだったので、エリザは質問を変える
「見ない顔だねぇ......親はどこだい?」
アルビノは、80年生きたエリザベートでも、見たことがなければ聞いたこともない程珍しい存在だった
「親......?そんなの何処にも居ない」
少女の返答には、僅かに憎悪が乗っていた
「居ない?孤児ってことかい......?じゃあアンタ、家に来な。アタシは孤児院で働いて「来ないで!!」っ!?」
孤児院という単語に少女は目を見開き、拒絶の言葉を叫んだ
すると地面から、ナイフが刺さっていた物と同じ、しかしサイズが圧倒的に大きい壁が現れ、道を塞いだ
「母さん、追いかけた方が良いよな?」
「そうだねぇ。エンデ、頼んだ」
「あぁ。行ってくる」
だが壁は、元〈深紅〉の弟子によって難なく斬られ、大して時間を稼ぐことなく役割を終えた
しかし
(......速いな)
短時間で少女は視界から消えていた
騎士ならば、簡単に追い付けるだろう
ーー 見えていれば
魔術師ならば位置を把握出来るだろう
ーー 手は届かないだろうが
だが少女にとっては運の悪いことに、エンデは騎士の身体能力と魔術師の索敵能力を併せ持つ〈魔剣士〉だった
そして暫く追走していると、少女が急に倒れた
道を塞ぐサイズの壁を短時間で無理矢理作り、その直後に限界まで全力疾走したのだ。当然である
(ユダ以外で、これ程の魔術と身体能力を持つ同年代がいたのかと少し感動していたんだがな......単に無理をしていただけだったか)
(とりあえずこういう場面では警戒心を解くことが大事......だよな?)
「安心して。俺は君の味方だ。君を助けてあげる。どこがどう苦しいか言えるかい?」
エンデは少女に追い付くと、出来るだけ優しい口調を意識し声を掛けるが、少女は警戒心を剥き出しにして、エンデを睨み付けた
「......あなた、誰?......私はっ大丈......夫、だから、あなたのっ助け、なんて......いらないっ!」
(口調は逆効果か......?ならば)
「......悪いが俺は、自力で立ち上がることも出来ない相手を大丈夫と診断した場合、父に針を百本飲まされる。だから助けさせてくれないと俺が困るんだ」
ーー ちなみに本当に飲まされる。3cm程の、消化はできるが腹を下す特製針だ
(まぁ、あの針無駄に美味いし、腹が治った後は飲む前以上に健康になるから、罰になってるか微妙なんだがな)
「え......?それ、本当?そんな......そんなことが」
「あるんだよ。なんでも極東の島国にある、約束を破った相手の指を全て切り落とし、何万回も殴った後に針を千本飲ませる文化を参考にしているらしい」
少女はエンデの話を聞いて、言葉を失っていた
「まぁ、それはさておきだ。まだ苦しいか?一応話しながら、簡単な治癒魔法を一通り掛けておいたが」
「......え?あれ?本当だ......苦しくない」
「そうか。良かった」
そしてエンデが笑いかけると、腹の鳴る音が聞こえた
「......食うか?」
「..................どうして?」
「何がだ?」
「どうして助けてくれるの?」
エンデが背中の鞄から取り出した物は、パンと水筒
そしてそれ等を渡された少女は、いつかと同じ質問をする
「さっき言ったろ?助けないと針を」
「ごまかさないで。そんなの黙ってればバレないでしょ?」
「............荒唐無稽な話だ。信じてくれるとは到底思えない」
「それでもいい。教えて」
「............知らない誰かの声が聞こえるんだ。『見つけねば』『助けねば』って......誰を探しているのか、なぜ助けなければいけないのかは解らない。でも心の中で騒ぐその声を、俺は無視できないんだ。だから俺は、君を助ける」
「な?意味が解らないだろ?」
「......ううん。あなたは、〈共感〉したんだね。その声に」
「......あぁ。そうだな」
「そっか......返せるものは無いけど、お礼をさせて。治癒魔法のことも、このパンと水のことも、話してくれたことも含めて、ありがとう......何か返せるものがあれば良いんだけどね......」
「じゃあ、君の話を聞かせてくれ。お礼はそれで良い」
「そんなので良いの............?聞いてもあまり気分の良い話じゃないけど......それでも良い?」
「あぁ。どんな内容でも構わないよ」
「分かった............はっきりと覚えてる最初のことは......」
少女は語る。地獄が始まった日から、今日までの出来事を
「そして蹲っていた私に、あなたが声を掛けた」
「............」
「うん......やっぱりこんな話を聞かされても、反応に困るよね......ごめんね。さよなら」
「待って!......君、家の孤児院に来ないか?」
「っ!?」
去ろうとした少女をエンデが引き留め、少女が振り返ると同時、地面から生えた槍がエンデを襲った
(そんな!?なんで......なんでこんなタイミングで加護が!?この人も敵?いやそんな筈っ!?)
「うん。予想通りだ」
しかしエンデは無傷だった。彼が特別何かしたのではない
エンデは腕を広げて無抵抗に槍を受けた。その結果、槍が折れたのである
「え......?なんで避けなかったの?」
「話を聞いてて思ったんだ。この白い槍と壁は、君の無意識ではないかって。だから『これ以上誰かを殺したくない』と言った君に、人を殺せる威力の攻撃が撃てるとは思えなかった」
目を丸くして言葉を溢す少女に、エンデは笑顔で応える
「そんなっ!バカじゃないの!?予想が外れてたら死んでたんだよ!?」
「いや、俺は腹を貫かれた程度では死なないよ。実際一度貫かれたが、まだ生きているから間違いない」
真顔のエンデに冗談を言っている雰囲気はない
「............だ、だとしても危険過ぎよ!」
「だからこそだよ。他人が孤児院という単語を出しただけで、拒絶反応が出てしまう君の信用を得るためには、俺が君を信用していることを解ってもらう必用があった」
「そんなことのためにそこまで......」
「あぁそうだ。俺は根に持つタイプなんだよ。だからもう一度言うぞ?『安心して。俺は君の味方だ。君を助けてあげる。どこがどう苦しいか言えるかい?』」
すると少女はエンデを睨み付け、問い掛けた
「『......あなた、誰?』」
「あぁ、クソッそうか......名前言ってなかったか......」
悔しげに頭を掻くエンデを見て、少女はクスリと笑って宣言する
「私の勝ち」
「あぁ。俺の負けだ」
「じゃあ勝ったから、一つ言うことを聞いてくれる?」
「おう。良いぞ」
「助けてください。心に大きな穴が空いてて苦しいんです」
「承りました。私の名はエンデュミオン・クロッカス。大英雄クロッカスの名に懸け、貴方を必ずお救いします」
少年は騎士の礼をとり、少女を救うと誓った
ーーーー その誓いが果たされる日は遠くないだろう
☆ ■■■視点
ずっと誰かを探している少年がいた
その少年は探し人について何も知らない
性別不明
種族不詳
顔も知らない
名前すらも判らない
それでも少年は人を探し続けた
探しているのは魔族であると知っていた
探し出して救わなければいけないと知っていた
何より会えば判ると確信していた
少年にとってはそれで十分だった
だが本来少年はそんなことをする必要が無かった
その人を探し出し、救うことは、私の役割だった
何も知らないのは当然だ
その強迫観念は他人の感情なのだから
だから少年は感情に振り回されて誰かを探し続けても、その人に気付ける筈が無い
なのに少年は見つけた
少女を見つけてしまった
だから私は後悔する
また一人、無辜の民を呪ってしまったことを
あの日私が手を出さなければ、少年はこんな辛い道を歩むことはなかったかもしれない
最悪少年の記憶を無理矢理消し飛ばすくらいはするべきだったのではないか
そう思わずにはいられないのだ
☆
これは、世界を消し去る少女の物語
それは、少女を護る少年の物語
だが本来はーーーーーーとある影雄の物語




