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因縁の相手

 最初に仕掛けたのは──ヴェゼヴィーユだ。剣を構えたまま、もう一方の手で青白く輝く氷の塊を生み出し、それを2人めがけて放った。

 氷の塊は宙を飛びながら細かな欠片に砕け、数多の氷の刃となって2人に降り注ぐ。

 それを、イルは右に、ラルヴァンダードは左にそれぞれ身を引いて回避した。

 大剣を構え、イルは地を駆ける。

 ヴェゼヴィーユとの距離を詰め、剣を一閃する。巨大な刃はヴェゼヴィーユが繰り出した細剣の刃に阻まれて、固い音を響かせた。

 グリモワールで生み出された武器同士の激突は、得物自体の強度の差を問題にしない。見た目に違いがあったとしても、強度自体は変わらないからである。相手を翻弄したければ、自らの腕前を持ってするしかないのだ。

 単純な剣術の腕前だけで比較するならば、イルの腕前はヴェゼヴィーユの足下には及ばない。長く組み合えばそうなっただけ、イルの方が不利となる。

 イルは組み合うのを諦めて、ヴェゼヴィーユから距離を置いた。

 そこに入れ替わるようにして前に出たのはラルヴァンダード。胸の前で構えた掌中に生んだ炎の玉を、ヴェゼヴィーユに向けて叩きつける。

 ヴェゼヴィーユは迫り来る炎を、冷気を纏わせた右の掌で払い除けた。

 炎が弾け、火の粉が散る。

 熱気に頬を炙られながらも、彼は余裕の態度を崩さなかった。

「エルシャダイの剣を、舐めないでもらおう」

「てめぇの方こそ、賢者マグスの力を甘く見ねぇでもらおうか!」

 ラルヴァンダードは掌から立て続けに光弾を放った。

 光弾は全て、ヴェゼヴィーユに直撃する寸でのところで彼の剣に払われた。空気が破裂したような音が響き、生じた煙に彼の姿が2人の視界内から一瞬消える。

「ふん……ただの1度も私の足下に及ばなかった貴様が、私を翻弄すると? 笑わせてくれる」

「今のてめぇは万全じゃねぇ。それでもおれが足下に及ばねぇ存在だと言えるかね!?」

 馬鹿馬鹿しい──嘲笑してラルヴァンダードに対する構えを取ったヴェゼヴィーユの横手から、

 大剣を振りかぶったイルが、力一杯得物を振り下ろしてヴェゼヴィーユに斬り付けた。

「!?」

 唐突の出来事だったので、ヴェゼヴィーユは反応に遅れた。

 何とか身を引いてかわそうとするが間に合わず、イルの剣は、ヴェゼヴィーユの左腕を肩から深く袈裟斬りにした。

 辺りに飛び散る鮮血。ヴェゼヴィーユの上体がくらりとよろめく。

「なん……」

「それに、おれは1人じゃねぇ。おれの挑発に乗っておれ以外の存在に目を向けなくなったおめぇがおれらを翻弄するなんざ、100年早ぇんだよ」

「く……!」

 身を捩りながら、イルに向けてグリモワールの一撃を放つヴェゼヴィーユ。

 しかしそれは、イルが盾代わりに構えた大剣の腹に阻まれて、イルまで届くことはなかった。

「こんな……ことが、あってなるものか。私は、エルシャダイの使徒として……」

「終わりだな。今のてめぇにゃ使徒どころか一般兵にすら劣る力しかねぇんだよ。それに気付かずにてめぇの力を過信したことが、てめぇの敗因だ」

 ラルヴァンダードは印を組み、眼前に巨大な鎌のような形状をした魔力の塊を召喚した。

「大人しく寝てな」

 真横に一閃した鎌の刃が、ヴェゼヴィーユの胴を切り裂く。

 腹を朱に染め、ヴェゼヴィーユはその場に崩れ落ちた。

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