道化の遊戯
双子の道化師、ローシュとアッタ。
エルシャダイの使徒ほどではないが、王の力を継いだ、グリモワールの使い手である。
グリモワールを扱う技術に関しては、使徒のそれに匹敵する。
自在に宙を舞い、双子ならではのコンビネーションを発揮した戦法を得意とする。
連携を取られれば、今のゼノヴィアに勝ち目はない。
だが、逆にそこが双子の弱点でもある。
連携さえ取らせなければ、双子の力は半人前以下なのだ。
ゼノヴィアが勝機を見出すとしたら、そこしかない。
何とか片方に肉薄して、連携を取られる前に行動不能にするより他にない。
ゼノヴィアが、胸中でそのように自身の行動方針を固めたと、同時に。
双子たちは、無邪気に笑いながらゼノヴィアに向けて飛来した。
「ひゅーん♪」
距離を詰めながら、手中に渦巻く風の玉を生む。
右からローシュが。左からアッタが。時間差で、掌中のそれをゼノヴィアに向けて叩きつけてきた。
ばひゅっ!
咄嗟に顔の前で十字に固めた腕に、風の玉が当たって弾ける。
生じた暴風に足を取られそうになりながらも、ゼノヴィアは懸命に左腕を伸ばす。
一撃を仕掛けて離脱しかけたアッタの襟首を、鷲掴みにした。
「わっ……」
唐突に動きを妨げられて手をばたつかせるアッタの喉元に、金属の輪を握り締めた右の拳を打ち込む。
金属の輪が、少年の小さな喉を深く貫く。見た目が小さな子供なので一瞬罪悪感のような感情が生まれるが、相手は神の眷属なのだ。躊躇などしている場合ではない。
「やぁッ!」
「アッタ!」
悲鳴を上げるアッタの様子に、ローシュの表情が驚愕の色に染まる。
慌ててアッタの傍に近寄ろうとするが、それはゼノヴィアが繰り出した裏拳に顔面を強打されて叶わなかった。
地面に叩きつけられるように転がるローシュを一瞥し、ゼノヴィアは言い放つ。
「こいつを仕留めたら相手をしてやる。今はそこで寝てろ」
「……ロー……シュ」
口唇を真紅に染めながら、アッタが小さな声で呻く。
流れ出る鮮血が彼が纏う道化師の衣を赤く染めていき、必死に引き剥がそうとゼノヴィアの手に爪を立てていた小さな掌が、力を失ってだらりと垂れ下がった。
「……悪ィな。おめぇたちに恨みがあるわけじゃねぇんだが……邪魔する奴は排除しなきゃなんねぇんだ」
アッタの襟首を掴んでいた手を離す。
黒の道化師は、気を失った小鳥のようにその場から落ちて、地面に叩きつけられて力なく転がった。




