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王都への道

 石肌剥き出しの通路を道なりに下っていった果て。

 そこで、ジルディエールは傍らのそれと共に3人の訪れを待っていた。

「準備が良ければ、『道』を繋ぎます」

 傍らにある白いオブジェを見上げる。

 それは、翼を広げた女神像のような形をした、天井付近まで高さのある彫刻だった。

 頭頂部や翼の先端が微妙に天井に埋もれている様が、これが通路の建設中に発掘されたものなのだというゼノヴィアの話を証明している。

 腰から下の箇所には人間の下半身はなく、代わりに発条のようなパーツが幾つも組み合わさって門のような形状を形作っている。

 門の通り道は、現在は向こう側の壁が見えているだけだが──

「やってくれ」

 ゼノヴィアが合図すると、ジルディエールは頷いて彫刻の真正面に立った。

 目を閉じ、両の掌を彫刻の顔部分に向けて翳す。

 彼女の額の宝石が淡い赤の光を抱き、同じ色の光が、掌の先に生まれ出た。

 それに反応を示し、彫刻の瞳が輝く。

 低い、羽虫の羽音のような唸り音を発して、門の内側の景色がくにゃりと歪んだ。

 絵の具を溶かして混ぜ合わせたかのように、景色が渦を巻いていき、漆黒の闇を描き出す。

 冷たい風が、吹き付ける。

 闇の向こうは、何処かに繋がっているようだ。

 掌を下ろし、ジルディエールは3人の方へ振り向いた。

「『道』ができました」

「おう」

 ゼノヴィアは頷いて、1歩を踏み出した。

 迷わず門へと進んでいき、ジルディエールとすれ違うところで一旦立ち止まり、彼女の肩にぽんと手を置く。

「……後悔してねぇんなら、おれは何も言わねぇ。おめぇはおめぇが選んだ道を進め。それだけだ」

「はい」

 ジルディエールの表情は、変わらない。

 しかしその鉄仮面のような面の内側に現れた微細な変化を、ゼノヴィアは見逃さなかった。

「私は、ゼノヴィアに会えたことを感謝しています。私に与えられたこの役目は、私にとっての誇りです」

「そうか」

 ふっと笑い、ゼノヴィアはジルディエールの肩から手を離す。

 彼はそのまま、門の中に広がる闇の空間へと足を踏み入れた。

 あっという間に見えなくなった彼の背中から視線を離し、ジルディエールはイルたちの方へと目を向ける。

「私が、最後に入ります。貴方たちはどうぞ先へ」

「…………」

 イルはこくりと小さく喉を鳴らした。

 まるで、化け物の口の中に足を踏み入れるような感覚だ。

 そのようなことを考えつつ、門の中へと進む。

 体を包む空気が一変した。それを自覚した瞬間──

 唐突に、目の前の景色が白んでいった。

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