勇者の想い
雑然とした机の上に載っていた巻物を引っ張り出して眺めながら、イルは部屋の隅で靴を履いているゼノヴィアに尋ねた。
「あんたは……グリモワール、使えるのか?」
「ん?」
腿の辺りまである真紅の金属靴を履いて、何かを抱えて部屋の中央に戻ってきたゼノヴィアが怪訝そうにイルを見た。
「唐突な話だな。そりゃまた何でだ?」
「オレ……ドミヌスの使い方をちゃんと理解してない」
巻物を机に戻して、イルは言う。
「ちゃんと使えるようになりたいんだ。何かあった時に、オレが皆のことを護ってやれるように……グリモワールもドミヌスも、基本は同じなんだろ? だったら、グリモワールのことを理解すればドミヌスも使えるようになるんじゃないかって」
「……成程な」
イルが伝えたいことはとりあえず把握したようだ。腰にベルトを巻きながら、ゼノヴィアは頷いた。
「確かに……ドミヌスはグリモワールの始祖だ。グリモワールを押さえりゃドミヌスも……って考えるおめぇの着眼点は悪くはねぇな」
ベルトの穴に金具を通し、そこに掌サイズの金属製の輪のようなものを次々と引っ掛けていく。
外周を研がれて刃のように仕立てられたそれを20個ほどぶら下げたところで、彼は唐突に左手を出した。
「マグスの星。おめぇ、あれ持ってたよな。貸しな」
「?」
訝りつつも言われた通りに懐に持っていたペンダントを差し出すイル。
ゼノヴィアはそれを受け取ると、掌中のそれを何やらかちゃかちゃといじった後に、再度それをイルへと放り投げた。
「グリモワールのことは神の眷属に訊くのが早ぇってな。そいつを首に掛けてろ」
特に、ペンダントにこれといった変化は見られないようだが──
とりあえず言われた通りに、イルはペンダントを首から下げた。
「マグスの星ってのは、マグスそのものと言っても過言じゃねぇ知識と魔力の宝庫なんだ。グリモワールに関する知識も、そいつの中に詰まってる。訊けば、大抵のことは教えてくれるはずさ」
「憶測の割に、相当自信がある言い方だね」
それまで部屋の隅にあった椅子に座っていたセーフェルが、問う。
当たり前だ、とゼノヴィアは胸を張った。
「おれは、この手の道具の扱いに慣れてるからな。ただバイクだの家だのを作ってるだけの職人だなんて思うなよ?」
学者らしいところも少しはあるんだよ、と言って、不敵に笑う。
「……あの……訊くって、どうやって?」
「感覚を繋げるというか、心で話しかけるというか……とにかく、色々やってみろ。ドミヌスをちゃんと扱いたいって言うんなら、そういうことを考えるのも大事な勉強だぜ」
「……分かった」
イルは、ペンダントに填った石を親指の腹で撫でた。
今のところ、ペンダントを身に着けたからといって何か変化が身体の方に起きたわけではない。
しかし、不安は減ったような、気がした。
「……待たせたな。準備はできた。地下でジルが待ってる──腹を括ったんなら、そろそろ行くぜ」
2人の顔を交互に見て、ゼノヴィアが真面目な面持ちで言う。
イルとセーフェルは示し合わせたかのように、同時に頷いた。




