小学生ユーリ~6年生~①
いよいよ小学生も終わりです。
最高学年として、運動会や学芸会もみんなをひっぱります。
ユーリもダンスクラブの部長、保健委員会の副委員長になって一生懸命頑張ってきました。
夏が終わったころ、ユーリは1つ気がつきました。
「ユーリちゃん、トイレ行きたいの?」
「え?」
「足踏みしてるから・・・どうしたの?お腹痛い?」
「ううん、行きたくないけど・・・なんでだろぉ・・・」
最近、喋る時に、ところどころで手や足が動いてしまうのです。
手足を動かすと少しどもらないような気がするのですが、バタバタと羽ばたくような動きや足踏みをしているように見えるので、あまり格好が良くないなとユーリは思っていました。
でも動かさなければ声が出にくいのです。
こんな悩みを抱えたまま、ユーリは修学旅行の平和学習に参加しました。
被爆者の方のお話を聞き、慰霊碑などを巡りました。
平和を祈る歌もしっかり歌います。
そして夜は恒例、同じ部屋の女の子みんなで恋バナです。
ここでもユーリは1つ気がつきました。
(こしょこしょ話だと、みんなみたいに話せる・・・)
先生に見つからないまま寝てしまいましたが、起きると話し方は普段と変わりません。
(・・・普段からこしょこしょ話なら普通に話せるのかな・・・)
修学旅行が終わった後は、卒業記念品としてみんなで巨大なタペストリーを作りました。
ダンスや音楽関係のクラブが合同で行う卒業公演もこなしました。
あとは卒業式だけです。
(お願い、今年は、今年は無くなっていて・・・!)
「さぁみんな、卒業式で宣言する将来の夢、考えてきたかな?」
ユーリの学校の卒業式では、卒業生が壇上で証書をもらい、会場内に向かって将来の夢を宣言するのです。
ユーリが六年間、お願いだからどこかで無くなってほしいとずっと思っていた恒例行事です。
今年も残念ながら・・・あるみたいです。
事前に、みんなで自分の将来の夢を考えました。
「俺は野球選手!」
「私は、お花屋さん!」
ユーリは、将来なりたいものがありました。でも言える気がしませんでした。
それは・・・看護師さん。
お父さんの仕事の関係で話によく出てきて、お母さんもパートで働いている職業です。
でもユーリにとって、“か”は、とても言いにくいのです。
「かかかかかか」となってしまうのです。
他の職業を言おうか、“か”が続いても“看護師”と言おうか、ユーリはとても悩みました。
じっと1人で考え込んでいると、先生がユーリの隣に来てくれました。
「咲野さんは、何になりたいんだったかな?」
「・・・か、かかかかかかかか看、護師、さん」
「・・・咲野さん、悲しくなっちゃったらごめんね。“か”って、言いにくいんじゃない?」
「・・・ハイ」
ユーリはうつむきながら答えました。
(なんでみんなは、普通に看護師さんって言えるんだろう・・・)
みんなスッと言えるのに自分だけ言えないの、認めたくないよね。
「看護師を英語で言うとね、ナースっていうの。ナースだったら、言えそう?」
「・・・ナース・・・」
“な”は慣れてきた人の前なら言えるのですが、会場では言えなくなってしまうでしょう。
「手、ぱたぱたしちゃうんです。“な”って、言おうとすると」
「・・・そっか。じゃあ、どうしようかなぁ」
先生も考え込んでしまいました。するとそこへ、とわちゃんとあいちゃんがやってきました。
「先生、ユーリ、どうしたの?」
ユーリは2人にも事情を話しました。自分だけができないことを話すのは恥ずかしかったけど、2人とも真剣に聞いてくれました。
「ユーリ、ぱたぱたしてたら言えるんだよね。じゃあさ、ぱたぱたしちゃえばいいんだよ!」
「え?」
とわちゃんが意外なことを言いました。
ユーリも目をまん丸くしています。
「国語の時みたいなぱたぱたじゃなくてね、両手揃えて“気をつけ”みたいに、いち・に。って、腰のあたりぽんぽんってするの」
「そっか、最後のぽん、に合わせて看護師さんって言えればぴったりだよ!」
「凄いね2人とも!よく考えたね。どう?咲野さん」
(どうしよう、言えるかな、どうしよう・・・)
ユーリは、1人だけぱたぱたするのが恥ずかしいと思いました。
・・・でも、せっかく出してくれた案なので言いだしづらい。
「それにね、ユーリ1人でぱたぱたするの嫌なら、あたしもぱたぱたするよ!」
「うん、あいも!」
「・・・え?」
「あたしね、すっごく緊張すると声震えちゃうの。だからユーリと一緒にぱたぱたしたら落ち着くかなって」
「あいは将来やりたいことが長いの。だから言い切れるように、一緒にぱたぱたする」
2人は、顔を見合わせて大きく頷きました。
「だからユーリ、一緒にぱたぱたして看護師さんって言おうよ!」
2人の勢いに勇気をもらい、ユーリも心を決めました。
「ああ、ああぁ・・・・・・・・・ああああり、がとう。あたし、が、がが頑張る!」
「決まったね、咲野さん。本番ちょっとでも緊張しないように、練習するならいつでも言ってね。体育館開けてあげるから」
先生も背中を押してくれました。
(頑張る・・・あたし、頑張る!!)
一緒に立ち向かってくれる仲間がいて、良かったね、ユーリ。