仮設の世界の諦めない女探求者
仮設世界からの移住を企む分身
「これでどうだ!」
その女性の言葉と共に放たれた魔法の光が空間を歪め、別の世界との道を強引に開けようとした。
しかし、安定する前に元に戻っていくのであった。
「道は、出来た! 次は、安定させるだけ!」
諦めた様子を見せずに研究を再開するその女性、この世界の女探求者、ヤバを見送ってからヤオンが言う。
「やっぱり上手く行かなかったか」
傍に居た白牙が肩をすくめる。
『当然だろう。世界の壁を構築には、多くの神々がかかわっているのだ、例えお前の分身といえ、単独でどうにかなるわけないだろうが』
ヤオンが頬を掻きながら言う。
「それは、解っているんだけどね。ところで、大地蛇、ヤバは、完全に八百刃として目覚めているんだね?」
その質問に大地から答えが返ってくる。
『間違いありせん。私は、その命令でこの世界の大地をしているのですから』
『あの馬鹿が……』
苦虫を噛み潰した顔をする白牙。
ヤオンが困った顔をして言う。
「問題は、そこなんだよね。この世界が大地蛇の力で維持されている仮設の世界で、この世界に住む人々を何処かの世界に移住させる必要があるけど、現在、移住に関しては、全面禁止のお達しが出てるんだよね?」
白牙が頷く。
『そうだ。移住には、複雑な手続きが必要だ。お前が健在の時ならともかく、デビルトライアングルとの戦いも続いている今、とうてい移住を実行するのは、難しい』
「あちきが力を貸せば無理やり移住させる事は、出来ると思うんだけどな」
「駄目に決まっているでしょうが」
その声に振り返ると、金髪のゴージャスな女性が居た。
「お久しぶり、元気してた金海波」
それに対してホーリースクエアの一柱、大海神金海波は、溜め息をついて言う。
「元気してたじゃないわよ。大地蛇も、こんな世界維持に余計な力を使ってない。この世界の住人は、かわいそうだけど、一刻も早い八百刃の復活の為に、犠牲になってもらいましょう」
完全に切捨てる気の金海波の言葉にヤオンが言う。
「どうにかして、助ける方法を探すくらいは、良いと思うけど」
しかし、金海波は、即否定する。
「時間の無駄。それにもし出来るとして、この世界の住人が救えたとしましょう。ここと同じ、いやもっと悪い世界なんて山ほどあるの。それくらい解っているでしょ?」
ヤオンもそれは、知っている。
実際に目の前で無残に消えていった世界も見た事もある。
「それでもあちき、ヤオンは、見捨てるのを容認できないし、ヤバに至っては、絶対に諦めないと思う」
金海波が言う。
「あたしが直接行って、説得する」
ヤバの研究所に向かっていく金海波。
『金海波も決して暇じゃないのを、お前が躊躇するのがわかったから、悪役をやるために分身を送って来たんだぞ』
白牙の言葉にヤオンが頷く。
「それは、解っているけどね」
そんな時、金海波がヤバの家から弾き飛ばされてヤオンの元に戻ってきた。
「どんな説得しようとしたの?」
ヤオンの質問に金海波が言う。
「エッチな事をして、あたしに逆らえない体に調教しようかと」
大地蛇が本気で悩みながら言う。
『どうして、金海波様は、邪神じゃないのですか?』
白牙が大きく溜め息を吐いて言う。
『本業は、有能で真面目なんだ』
「とにかく、あたし達としては、この世界の為にこれ以上、八百刃の復活を遅れさせるのは、認められない。いざとなったら、強制的にこの世界を維持できなくする」
金海波の言葉にヤオンが頬を掻く。
「常識を構築する力が遮断されたら、大地蛇の力だけじゃ維持できないね」
そこにイルカの八百刃獣の一刃、元金海波の使徒、船翼海豚が現れる。
『交渉は、無事終了しました。受け入れてくれるそうです』
それを聞いて、ヤオンが安堵の息を吐く。
「良かった。ヤバにもそれを伝えてきて」
船翼海豚が頷き、ヤバの研究所に向かう。
「この時期に移住を受け入れる余裕がある世界なんてあるの?」
金海波の言葉にヤオンが苦笑する。
「色々と恩を売ってありまして」
ヤオンとヤバは、力を合わせて空間に小さな穴を開ける。
するとその穴が自然と広がっていく。
「あれ、これって大地蛇の力が感じられるけど?」
その様子を見ていた金海波の言葉に大地蛇が答える。
『はい。向こうには、遠い昔、私が力を授けて者の子孫が居て、こちらの世界との道を固定しています』
それで金海波が相手の世界を察知する。
「セーイちゃんが行った世界ね。あの世界も、異界壁崩落した時には、終わりかもと言われていたのに、踏ん張ったわね」
懐かしむその言葉にヤバが言う。
「諦めない限り、方法は、あるんだ!」
そして、大地蛇の上に住んでいた人々の移住を終わらせて、ヤバが言う。
「ありがとう、助かった」
ヤオンが頷き言う。
「諦めないのもいいかもしれないけど、力を合わせてやればもっと多くの事が出来るはずだよ」
ヤバが頷き。
「解ったよ。だから一つになろう」
こうしてヤバもヤオンと一つになる。
そして、金海波が言う。
「貴女は、変わらないわね。ホープワールドの時も古き神々は、あの世界の人々を助ける事なんて出来ないと断言していた。それなのに見事に救ってみせた」
それに対してヤオンは、遠い目をして言う。
「独りじゃ何も出来ません。助けてくれる多くの人が、諦めない人達が居るから可能なんですよ」
しかし、金海波が言う。
「それでももう時間が無いのも確かよ。失われた最上級神達の穴を埋め切れていない今のままでは、多くの世界が不幸な結末を辿る事になる」
ヤオンが頷く。
「解っています。そうならない為に頑張ります。少しでも理想に近い結末を迎える為に」
それを聞いて金海波が笑顔で言う。
「色々言ったけど、あたしも新名も、そして蒼貫槍や天包布だって貴女を信じている。貴女だったら何とかしてくれると。だからこそ一刻も早い完全復活を望んでいるの。それだけは、忘れないでね」
そのまま消えていく金海波。
『お前への期待は、何時も重いな』
白牙の言葉にヤオンは、揺るがない顔で答える。
「それがあちきが選んだ道だよ」
そしてヤオン達は、次の分身を探しに行くのであった。