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神様蒐集帳  作者: 鈴神楽
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荒廃した世界の老婆

荒廃した世界に住む八百刃の分身は、全てを知っていた

『ここまで荒廃している世界も珍しいな』

 白牙の言葉にヤオンが苦笑する。

「でも、無いわけじゃない」

 戦いだけの全ての資源を使いきり、何も無い砂漠と無意味の瓦礫だけがそこにあった。

「こんな世界でも人は、生き続ける」

 ヤオンは、瓦礫に隠れる小さな男の子を見つける。

 顔を向けるだけで逃げ出す男の子。

『末期だな。知らない人間は、お前みたいな小娘でも恐怖する』

 ヤオンが悲しそうに言う。

「この世界を復旧するのは、難しいかもしれないね」

 そんな事を言いながら、進むヤオンと僅かな湯気が出る場所に行き着く。

 そこには、小さな子供達が寄り添っていた。

 その中心には、一人の老婆が居た。

 ヤオンは、直ぐに解った。

「八百刃の分身の一つですね」

 その老婆が頷く。

「そう。貴女と同じよ。私の名前は、ヤマン」

「あちきの名前は、ヤオン。あちきがここに来た理由は、解るよね?」

 ヤオンの言葉にヤマンは、首を横に振る。

「私は、この世界の終りまで付き合うつもりです」

 それを聞いて白牙が何か言おうとしたのをヤオンが止める。

「その覚悟は、変りませんか?」

 ヤマンが強く頷くとヤオンは、あっさりその場を後にした。



『どうするつもりだ?』

 白牙の質問にヤオンは、困って居た。

「本人の意思は、無視したくない」

 白牙が悩んだ末に言う。

『あの分身は、どんな一生を送っていたのだ?』

 ヤオンは、遠い目をして言う。

「最低だよ」

 白牙が辛そうに言う。

『なるほどな、絶望しているのだな。俺達の力不足の所為だな』

 ヤオンが肩をすくめる。

「だったら、無理やりでも一つに成ってたよ。ヤマンは、決して絶望に囚われていない。だから、何も出来ないの」

 ヤマンとヤマンが世話をする子供達を見下ろす事が出来る瓦礫の上でヤオンが複雑な表情をする。

「もしかしたら、八百刃は、あんな生き方をしたかったのかも」



 翌日、武装集団がヤマン達を襲った。

「食べ物を出しやがれ」

 その言葉に、ヤマンは、あっさり応じた。

「解りました。食べ物は、全て出します。ですから、子供には、手を出さないで下さい」

 あまりにもあっさりとしたやりとりに男達の方が戸惑うが、ヤマンは、子供たちに指示をだして、食料を渡す。

 そんな中、男が子供達の中でも一番年上の少女の腕を掴み言う。

「ついでだ、この娘も貰っていくぜ」

 男達は、弱腰のヤマンに素直に従うだろうと思った。

 しかし、ヤマンは、近くにあった一本の棒を手に取ると、そのまま少女を捕らえていた男の腕を叩き折る。

「何しやがる婆!」

 それに対してヤマンが答える。

「先に言った筈です子供たちには、手を出さないで下さいと」

「殺してやる!」

 男達が一斉にヤマンに襲い掛かる。

 しかし、ヤマンは、一本の棒切れで男達を叩きのめしてしまう。

「食料は、お渡ししますから、お帰り下さい」

「覚えてやがれ!」

 逃げていく男達。

 その時、男達の所に一本の赤い矢が射られた。

 次の瞬間、極炎が男達を骨すら残さず焼き尽くす。

 そして、エーゼットが現れる。

「甘いわね。こんな奴等は、直ぐに大勢の仲間を連れて戻ってくるわよ」

 それに対してヤマンが言う。

「解っています。ですから、私達は、別の所に移り住みます」

 淡々と答えるヤマンにエーゼットが怒鳴る。

「こんな腐った奴等なんて殺せば良かったのよ!」

 ヤマンは、淡々と言う。

「死んで良い命は、一つもありません」

 エーゼットが睨む。

「ふざけないで、あんたも地獄を知らない甘ちゃんな訳ね!」

 強引に取り込もうと手を伸ばすが、その手をヤオンが掴む。

「止めなよ。貴女も直ぐに解るよ。このヤマンの人生は、貴女より酷いよ」

「邪魔しないで! あたしより酷い人生なんてある訳が……」

 ヤオンを向いて話しかけたエーゼットの言葉が途中で止まり、ヤマンの方を向いて信じられ無そうに言う。

「どうして絶望しないの!」

 ヤマンが過去の過ちを懺悔するように告げる。

「絶望なんて、もうしつくしました。それでも、この子達が生きる事を望んでいる。だったら、私に出来るのは、この子達を生かすそれだけなのです」

 言葉を無くすエーゼットにヤオンが言う。

「戦争で、大切な家族は、皆失い。その復讐の為に戦争に加わり、多くの人間を殺した。その途中、心も体も信じられないほど傷つけられたのが解るよね? それでも、ヤマンは、そこの子供達の為に生きる事を望んだ。あちき達にそれをどうこういう資格は、無いよ」

 エーゼットが叫ぶ。

「そんなの偽善よ! こんな事をしても何も変らない! 世界を変えなければいけないんだから!」

 ヤマンは、はっきり答える。

「私は、世界よりこの子達をとります」

 悔しそうにするエーゼット。

「勝手にすれば!」

 そのまま消えていく。

 その後、ヤオンは、ヤマンと二人、子供達の為に食料を作っていた。

 瓦礫を切り崩して、食べられ物に変換する、意志力を使った技である。

「解っていると思うけど、先は、長くないよ」

 ヤオンの言葉にヤマンが頷く。

「それでも最後まで付き合うのが私が選んだ道です」

 そして、食料を渡した後、ヤオンもヤマンの前から消えた。



 ヤマンが居た世界の外、そこにヤオンと白牙が居た。

 そこに百爪がやってくる。

「ここに八百刃様の分身が居るんですね?」

 白牙が言う。

「すまないが護衛の手配を頼む」

 百爪が頷こうとした時、ヤオンが言う。

「必要ないよ」

 白牙が言う。

「エーゼットの事が無くても紫縛鎖の配下に襲われる可能性があるだろうが」

「もう終るよ」

 ヤオンの言葉と合わせる様に、世界の形が崩れ始める。

「……世界の自壊」

 百爪が戸惑い白牙が苦々しい顔で言う。

「まさか、ここまで切羽詰っていたとは……」

 ヤオンが言う。

「世界は、神の意思があって成り立つ。しかしそれを固定するのは、その世界に住む人々の生きる意志。それが維持限界以下になった時、世界は、自壊を開始する」



 ヤマンは、それ感じていた。

 それでも子供たちに言う。

「さあ、食事の時間ですよ」

 そして、子供達は、何も知らないまま、食事をしながら世界の自壊に巻き込まれ、消滅するのであった。

 世界が消えた後、ヤマンの傍には、小さな光があった。

「子供達の生きる意志ですね」

 ヤオンの言葉に、ヤマンが頷く。

「そう、あの世界で生まれ、あの世界で育った子供達。最後まであの世界で明日を信じた思い。新しい世界に行ってもこの思いが正しく育まれる様にしたいものです」

 ヤオンが手を差し出す。

「願いは、一つだと思う」

 ヤマンも頷く。

「全ては、自ら生きようと思う者の明日の為に」

 そして、ヤマンは、ヤオンと一つになる。

 ヤオンは、周りの小さな光を百爪に渡す。

「この子達をお願い」

 百爪が受け取り頷く。

「解りました。平和な世界に送り届けます」

 白牙が言う。

「これで本当に良かったのか? お前が全力を投じれば、この世界の延命も可能だった筈だ」

 ヤオンの中のヤマンが答える。

「それにどれだけの意味があるのですか? 私の神としての力で延命した所で、それは、まがい物でしかない。あんなに綺麗な意思には、ならない。あの意思達は、きっと新しい世界でも強く明日に向って生きていけます。私達神がするのは、その手助けでしかないのですから」

 しかし、ヤオンの目から涙がいくつも零れていく。

 白牙が何も言わず、ただ傍に居た。

「さあ、次の分身を探しに行くよ」

 ヤオンの言葉に白牙は、無言で頷くのであった。

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