墓石の世界の幼女
紫縛鎖の使徒の襲撃。力が少ないヤオンに勝ち目は、あるのか?
『どういうことだ?』
白牙の不機嫌そうな顔に最上級神会議の結果を通知しに来た白牙を少し小さくした感じの姿をとる八百刃獣、百爪が答える。
『えーと、蒼貫槍様や金海波様は、もしもエーゼットが真の八百刃様になったとしたら、その意向に従うとおっしゃっています』
『冗談も休み休み言え! そんな独裁が許されると思っているのか!』
白牙の怒気に百爪が怯えるのを見ながらヤオンが確認する。
「天包布や新名は、どうなの?」
おずおずと百爪が答える。
『新名様は、蒼貫槍様達と違って積極的では、ありませんが、もしもそうなったら従うのもやぶさかでないと答えています。天包布様も苦々しそうな顔で逆らえないだろうとおっしゃっていました』
「ほぼ総意って事だね。それにしても、どうしてそこまで?」
首を傾げるヤオンに百爪が告げる。
『それほどに八百刃様の戦闘力は、絶対的で、神格の高さも評価されているのです』
ヤオンが実感を持てない様子でいると白牙が舌打ちする。
『お前も実績を考えれば、十分に考えられた事だが、余計にエーゼットの暴走を止める必要が出てきたぞ』
ヤオンが頷く。
「その為にも、早く分身をみつけないと」
ヤオンは、大きな岩山に囲まれた町を見下ろす。
「ここに次の分身が居る筈」
町に入ったヤオンに一人の幼女がぶつかる。
「ごめんね」
誤るヤオンにその幼女が不思議そうな顔をして言う。
「お姉ちゃん、どうやってここに来たの?」
唇に指を当ててヤオンが答える。
「それは、秘密」
そんな時、大きな物音と共に人の叫び声が聞こえてくる。
『ヤオン、この気配は!』
白牙の言葉にヤオンが頷く。
「紫縛鎖の使徒だね、どこから情報が漏れたんだろうね」
『情報が漏れたってどういうことだ?』
白牙の質問にヤオンが頭をかく。
「紫縛鎖達は、新名達と戦っているのに、こんな所に余分な力を割く余裕なんてないの。詰り、あちきの分身の事がどうやってか漏れたとしか思えないでしょう。それで漏れたら紫縛鎖がどうするか解るでしょう?」
白牙が舌打ちする。
『逆恨み野郎は、全力をもって分身を滅ぼしにかかるな』
「そういうこと、あちき達も油断出来ないよ」
ヤオンは、そう言いながら、気配を探る。
『見つかりそうか?』
白牙の言葉に困った顔をするヤオン。
「戦いの気配に反応するかもって思ったけど、駄目みたい」
そんな中、幼女が言う。
「もしかして、神様石を狙った悪い奴らが来たのかも」
そういって、幼女は、駆け出す。
「神様石?」
ヤオンは、首を傾げながら、幼女の後を追う。
そして幼女とヤオン達が辿り着いたのは、大きな狼が刻まれた岩山だった。
「これは、昔、災害からその身を使って防いだ神様の遣いを彫った奴だって。何でか知らないけど、都会の人達は、これを壊そうと躍起になってるの!」
不満そうに言う幼女。
『おい、これは、まさかと思うが……』
言葉を濁らす白牙にヤオンが言う。
「闘威狼だよ。力の残滓が残っている。でも残滓。この岩山を防ぐのに最後の力を使い果たして滅びたみたいだよ」
辛そうに言うヤオン。
幼女は、その岩山の前に立ち言う。
「神様石だけは、ヤリンが護るんだから!」
幼女、ヤリンの言葉にヤオンが言う。
「その気持ちは、凄いけど、危ないから逃げて」
ヤリンは、首を横に振る。
「嫌!」
困った顔をしていると、紫の腕を持った紫縛鎖の使徒達が現れる。
『お前が八百刃の分身だな。お前は、我ら、紫腕が滅ぼす!』
一斉に襲い掛かる紫腕達。
『八百刃の名の下に、白牙よ、刀と化せ』
ヤオンが白牙を刀に変化させて、交戦を開始する。
先頭の紫腕が、両手をクロスさせてヤオンの一撃を受けるとその後ろに居た奴らが隙をついて両側から攻めて来る。
ヤオンは、ギリギリまで目の前の敵に圧力をかける。
攻撃を受け止めていた紫腕も全力で押し返そうとしていた。
そして、両側からの紫腕が攻撃を放った瞬間、ヤオンは、相手の力を利用して、そのまま神様石まで飛びのく。
完全に意表を疲れた紫腕達が味方の攻撃をもろに食らっている間に、ヤオンが石面を蹴りつけて一気に後方に回り込み、最後尾に居た紫腕を斬り滅ぼす。
大勢を完全に崩された紫腕達は、舌打ちと共に散っていく。
『覚えておくが良い。次は、強大な力でお前を滅ぼす!』
去っていく紫腕を見て白牙が怒鳴る。
『逃げるな!』
しかし、ヤオンは、あっさり追撃を諦めて、ヤリンの所に行く。
ヤリンは、この戦いの間中、目を瞑りながらも神様石の前に立っていた。
「奴らは、ヤリンに恐れて逃げ出したよ」
その言葉を聞いて、ヤリンが嬉しそうに微笑む。
「やった!」
そして、ヤオン達は、ヤリンの家に行くことになる。
「娘の危ないところをどうもありがとうございました」
ヤリンの父親が頭を下げてくる。
「いえいえ、気にしないでください。それよりもヤリンちゃんから聞いたのですが、神様石を狙っている人達が居るという話ですが?」
それを聞いて苦々しい顔をするヤリンの父親。
「都会にあるパープルチェーンという宗教の関係者が、何故か執拗に神様石を破壊しようとしているのです。村の者達にとっては、村を護ってくれた守り神ですから、絶対に認めないのですが、この頃は、その圧力も強くなっていて」
「なるほど」
ヤオン達は、ヤリンの家に泊まることになった。
『紫縛鎖は、元々、闘威狼の墓石を狙っていた。そこで、お前の分身の存在を感知して、紫腕を送ってきたって事だな』
白牙の言葉にヤオンが頷く。
「まず間違いないね。問題は、分身の居所だけど、どう思う?」
『記憶が無くても闘威狼の墓石の近くに住んでいると思うがな』
白牙の答えにヤオンが大きな溜息を吐いて、隣からの幸せそうな父と娘の会話を聞きながら言う。
「ヤリンちゃんの行動を考えるともしかするともしかするよ」
白牙もその可能性に気付いて苦々しそうに言う。
『……幸せそうだな』
ヤオンは、少し考えてから呟く。
「一応、裏づけ調査もするけど、百爪に頼んで、父親が死ぬまでの間だけでも護衛をつけて引き伸ばす事も考えないとね」
白牙も反論は、しなかった。
町で聞き込みをして白牙が言う。
『何か不自然じゃないか?』
ヤオンも頷く。
「あの父親が記憶喪失で、あの神様石の事故の現場でヤリンと一緒に見つかったって事実は、おかしい。もしかしたら、分身が分裂した可能性もあるよ」
『あの父親も分身だって事か?』
白牙の質問にヤオンが考えながら答える。
「可能性から言えば、あの事故に巻き込まれた男を助けるために、力の大半をあの男に注ぎ込んだ。それが原因で記憶喪失になったって線も考えられるよ」
『余計に無理やり覚醒させるわけに行かなくなったな。もしも無理にでも覚醒させた場合、あの父親が死ぬ可能性がある』
白牙の言葉に頷くヤオン。
「本格的に護衛を呼ぶのを検討しないと」
そんな時、再び紫縛鎖の使徒の気配を感じるヤオン。
『諦めが悪い奴らだ!』
苛立つ白牙にヤオンが真剣な顔で言う。
「あっちもかなり本気。世界管理クラスの奴を投入してきた」
『本気で後先を考えていない奴らだ。敗戦がそういった無駄な戦力の投入から始まるって事を知らないみたいだな』
嫌味を言う白牙を拾いながら、周りに被害が及ばない場所に向って駆け出すヤオン。
そして昨日と同じ神様石の前で紫腕達に追いつかれる。
『今日こそ、お前を滅ぼす。この紫岩王でな!』
全身を紫の岩で覆われた巨人の上で高らかに宣言する紫腕。
白牙が呆れた顔をする。
『世界破壊の巨人を持ってくるなんて、本気で後先の事を考えてないな』
ヤオンが頷きながら言う。
「だけど、正直、いまのあちきだと力の総量差が下手な小細工で補えるレベルじゃない。その上、直接攻撃タイプだから、相手の攻撃を利用するって手も使い辛いね」
珍しくピンチそうなヤオンだったが、白牙は、ヤオンの心配の原因を突く。
『最悪、町は、諦めろ。お前だったら勝てなくても、逃げるだけなら可能だろう』
苦笑するヤオン。
「まあね、でもあちきが逃げた時、ヤリン達に危険が及ぶのは、まず間違いないよ」
『一緒に逃げる算段でもしろ』
白牙がヤオンの前に立つ。
『八百刃の名の下に、白牙よ、刀と化せ』
ヤオンは、刀に変化した白牙を握り、一気に接近する。
紫岩王は、巨体に似合わない機敏な動きで拳を放ってくるが、ヤオンは、紙一重でかわして、その腕に乗って、相手の頭に接近しようとする。
『させるか!』
それを紫腕達が妨害してくる。
流石のヤオンも多人数で攻められ、離脱を余儀無くされる。
『邪魔な奴らだ、奴らを先に始末するしかないな!』
白牙がぼやいた時、ヤリンとその父親が現れた。
「駄目、こっちこないで!」
ヤオンが叫ぶが、ヤリンは、止まらない。
「神様石だけは、壊させないんだから!」
ヤリンは、神様石の前に立つはだかる。
そして、そんなヤリンを護るように立つヤリンの父親。
『丁度良い、紫岩王、あれを狙え、そうすれば八百刃の分身に隙が出来るぞ!』
紫腕のアドバイスに紫岩王が答え、神様石に向って拳を振り下ろす。
ヤオンは、駆け出し、ヤリンとその父親にタックルをする。
「駄目!」
ヤリンが叫ぶ中、神様石が砕け、ヤリンの父親が意識を失う。
それを見て、ヤオンが真相に気付いた。
「そういう事だったんだ」
ヤオンは、ヤリンだけを抱えて紫岩王達から大きく離れた。
涙ぐむヤリンにヤオンが言う。
「選んで、ヤリンとして生きるか、それとも神様石とお父さんと一緒に戦う道を選ぶか」
ヤリンが涙を拭って告げた。
「ヤリンは、戦う! だってヤリンが護りたいのは、神様石やお父さんだけじゃない。よそ者だったヤリン達を迎え入れてくれた町の人も、他の人達も護りたいもん!」
ヤオンがヤリンと手を結び、八百刃の力を流し込み、覚醒させる。
『まさか、その娘も八百刃の分身だったのか!』
驚く紫腕だったが、紫岩王を見て余裕を取り戻して言う。
『丁度良い、これで手柄が二倍になったのだから』
次の瞬間、ヤリンが父親と呼んでいた者の所に行き、力を注ぎ込む。
『八百刃の名の下に、闘威狼よ、覚醒せよ』
砕かれた神様石がヤリンの父親に集まり、砕け散ってその中より闘気を力に変える狼、闘威狼が復活する。
『ご迷惑をお掛けしました』
子猫の姿に戻った白牙が頷く。
『本当だ、八百刃様を見つけておきながら、逆に八百刃様の力を削る真似をするなど、八百刃獣の恥だな』
苦笑するヤリン。
「あちきが無理を頼んだんだから仕方ないよ。同じ状況だったら、貴女もそうしていたでしょ?」
傍に来ていたヤオンが頷く。
『今更、八百刃獣が一刃増えた所で無駄な事だ!』
紫腕が勝利を疑らず、紫岩王と共に襲ってくる。
『愚か者め! 我が力は、戦う意思なり! お前らの意思を貰い受ける!』
紫岩王と紫腕の闘志を喰らい、巨大化した闘威狼は、素早い動きで紫岩王の足を食いちぎる。
そのまま首を踏み潰して滅ぼす。
『そんな……』
恐怖する紫腕達を闘威狼が刈り終えるのにたいした時間は、必要なかった。
「それじゃあ、ヤオンさんと故郷に戻るのね?」
町の人々の質問にヤリンが頷く。
「はい、お父さんの記憶も戻ったしね」
ヤリンの父親の姿に変化した闘威狼が頷く。
そして町の人々にお別れを言って町を出る。
「それじゃあ、一つになろうよ」
ヤリンが手を出しヤオンも頷き、手を合わせるとヤオンをベースに一つになる。
『しかし、よろしいのですか?』
闘威狼が躊躇するのでヤオンが言う。
「リンクは、確立してるから、必要なら何時でも呼べるから大丈夫。だから、あんたは、この世界を紫縛鎖から取り返すために戦って」
頷く闘威狼。
『必ずや、紫縛鎖の支配から開放してみせます』
『さて、次の分身を探していくか』
白牙の言葉にヤオンは、頷き次の世界に向うのであった。




