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神様蒐集帳  作者: 鈴神楽
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世紀末の世界の生贄の巫女

覚醒した八百刃の分身は、ヤオンだけじゃない

 そこは、神の世界でも一番暗き場所。

 元六極神から構成されるホーリースクエアに敵対する、三柱の邪悪なる神、デビルトライアングルがそこに居た。

 デビルトライアングルの中でももっとも精力的に動く者、ホープワールドから八百刃を恨み続ける存在、復讐邪神、紫縛鎖シバクサが怒鳴る。

「まだ、八百刃獣を狩れないのか!」

 その言葉に、紫縛鎖の部下達は、頭を下げる。

「すいません、奴等は、表立った行動が少なく……」

「言い訳は、いらん!」

 怒り狂う紫縛鎖に、知的だが、何処か退廃的な外見をした神、知略戦神チリャクセンシン金色覇コンジキハが言う。

「ところで、あの噂を聞きましたか?」

「知らん!」

 紫縛鎖が怒りの為に怒鳴り返すと金色覇が苦笑しながら答える。

「その八百刃獣が、極無神との戦いで、滅びたと思われていた八百刃の分身を探しているらしいですよ」

 紫縛鎖が目を見開く。

「まさか、八百刃が本当に滅びていなかったのか!」

 金色覇がクールに答える。

「まあ、八百刃獣が健在な事を考えれば十分に考えられることでした。でも、一つ言えるのは、最強と言われた八百刃も、極無神との戦いで、その力の大半を失い、分身を生み出して、なんとか生き延びたという事です」

 紫縛鎖が拳を握り締めて言う。

「滅ぼしてやる。全ての世界をしらみつぶしにしてでも八百刃の分身など、一欠けらも残さず滅ぼしてやる!」

 感情のままに行動を開始する紫縛鎖。

 その後姿に肩を竦める金色覇。

「あれは、所詮、復讐しかない、未来無き存在だな。私の邪魔には、ならないでしょ」

 そういいながら、無言でその場に居たデビルトライアングルの最後の一柱、無法神ムホウシン無色器ムショキを見る。

 無色器は、間違いなく美女だが、そこには、色気は、無い。

 それどころか、その姿から何かを感じる事は、誰にも出来ない。

 しかし、強大な力を持ち、そこにいることだけは、間違いない。

「はっきりいって、目的がはっきりしている紫縛鎖と違い、貴女は、どうして、デビルトライアングルに居るのか解りませんね」

 答えが返ってくるなど思ってない、反応を探るための金色覇の言葉。

 だが、無色器は、何の反応も見せない。

 軽く舌打ちして金色覇が言う。

「良いでしょ。しかし、最後に笑うのは、私ですよ」

 デビルトライアングル、それは、利害関係だけで結ばれた結束。

 それは、何時壊れてもおかしくない物だったが、今は、まだその結束は、保たれているのであった。



『末期状態だな』

 白牙の言葉にヤオンが辛そうに頷く。

「この世界の人類は、滅びるかもね」

 ヤオン達の目の前には、相次ぐ戦いで荒廃しきった世界が広がる。

 ヤオンは、そんな世界の夢も希望も失った人々が肩を寄せ合って生きる町を歩く。

 そこに在ったのは、絶望だけ。

 そんな町の中、人混みが出来ていたので、向かうと、その中央に、一人の少女らしきものがあった。

『……最悪だ』

 白牙がそういうのも仕方なかった。

 その少女は、四肢が無く、無残に男達に陵辱されていた。

 ヤオンは、大きく溜息を吐いて、男達を排除しようとした時、高らかなラッパの音と同時に、男達が逃げ行く。

『何だ?』

 白牙が音のする方を向くとそこには、一人の巫女とそれに従う、神官達が居た。

 全員が武装し、進んでくる。

 巫女は、四肢を失った少女に近づき、慈悲を籠めて言う。

「可哀想に、誰か」

 巫女の言葉に答えて、神官達が少女を保護する。

 そして、ヤオンが言う。

「あちきは、流れ者のヤオン。貴女達は、何者?」

 それに対して神官が答える。

「この御方は、神が使わされた聖女ジャンア様だ。無礼は、許さないぞ!」

 そんな神官を押しとめ、ジャンアが答える。

「私は、ただ、神の声を聞こえるだけの者です。そこの少女の救えと声を聞いたため、ここに来ました。この世界には、大きすぎる悲しみがあります。しかし、神の愛が失われた訳では、ありません」

 感動する人々を見ながら小さく溜息を吐いてその場を去る。



『あの者がお前の分身じゃないのか?』

 少し離れた後、白牙が質問してくるからヤオンが怖い顔をして言う。

「冗談は、やめてよね。あちきの分身が、神の声なんて動くと思う?」

『まあ、神のお前が、神の声で動く訳がないな』

 白牙の言葉にヤオンが怒鳴る。

「違う! 上位者の意思なんて、関係ないの! 自分が正しいと思うことを自分の責任でするのがあちきよ!」

 白牙が素直に頭を下げる。

『すまなかった。確かにそうだ。しかし、この周囲にお前の分身がいるのは、確かな筈だぞ?』

 ヤオンは、難しそうな顔をする。

「だとしたらおかしいよ。ヤオンみたいに平和な世界に居たわけじゃ無いのに、何もしないなんてあちきらしくないもん」

 白牙が周りを見回して言う。

『そこだな。八百刃が居れば、こんな絶望に満ちた世界になる訳がないな』

 強く頷くヤオン。

 そして、その時、紫の気配がヤオンを襲う。

「見つけたぞ、白牙!」

 そこには、紫の気配を纏った武装した神の使徒達が居た。

『紫縛鎖の手先か!』

 幾度となく戦った敵に白牙が構え、紫縛鎖の使徒が言う。

「これは、チャンスだ、また一人、新たな八百刃の分身をみつけたぞ!」

 興奮する紫縛鎖の使徒の言葉にヤオンの目が鋭くなる。

『八百刃の名の下に、白牙よ、刀と化せ』

 白牙が刀と変化する。

 紫縛鎖の使徒達が、紫の気配を纏った武器で攻めてくる。

 その一撃一撃が、実は、後ろの町を消滅させられるだけの意思力が籠められていた。

 ヤオンは、白牙で武器を受け流しながら別の武器の方に近づく。

 逸らした武器が別の武器とぶつかり、意思力の相殺が起こる。

 呆然とする紫縛鎖の使徒の首が二つ、地面に落ちた。

 残った紫縛鎖の使徒が戸惑う。

「馬鹿な、いくら八百刃の分身でも、意志力では、こちらが上回っている筈だぞ! 白牙とも互角以上に……」

 ヤオンは、苦笑する。

「八百刃獣の力は、あちきの指示で高まるの。単純な意思力の総量で図らないでくれる?」

 その後の戦いは、あっさりしたものであった。



「言いなさい、貴方達は、この世界であちきの分身を滅ぼしたの?」

 生き残った紫縛鎖の使徒に八百刃が問いただす。

「滅ぼしては、居ない。四肢を奪い、無力化し、放置した。紫縛鎖様には、その苦しむ姿をお見せする予定だった」

 抵抗が無駄な事を知り答える使徒にヤオンは、溜息を吐いて言う。

「馬鹿。紫縛鎖は、そんな事を望まない。紫縛鎖が望むのは、自分が愛した桃暖風トウダンフウを滅ぼしたあちきを否定する事。あちきが苦しんで様が、存在している事実など、紫縛鎖にとっては、絶対に許せないんだよ」

『困った奴だ。実名ミナが望んでいたのとは、全く違う道を進んでいるな』

 白牙の言葉にヤオンが少し悲しそうな顔をする。

「正直、紫縛鎖の気持ちが解っていたから、敵対してても滅ぼすのは、嫌だったんだけどな」

『無駄だ、もはやあれは、戦い、滅ぼさなければいけない存在になった。それよりも、さっきの娘がお前の分身だぞ』

 ヤオンは、頷き、急いで回収に向かった。



『どういうことだ?』

 ヤオン達が到着したジャンアの教会は、壮絶な状況になっていた。

 炎が立ち登る横では、巨大な氷の柱があり、木と金属と土が複雑に絡み合う奇妙なオブジェが乱立する、それを成した力には、ヤオンも白牙も心当たりがあった。

「分身の事を知って、九尾鳥キュウビチョウが暴走したのかも。急ぐよ!」

 駆け出すヤオン。

 そして、ヤオンが到着した先には、ジャンアがヤオンに似ているが、白髪の少女に怯えていた。

「お前が私の分身を男達が群がるところに放置しては、助けるふりを続けて居た事は、解っている」

「許して! 私は、ただ神様に命じられていただけなの!」

 必死に謝罪するジャンア。

 白髪の少女の手には、一つのおかしな形をした弓があった。

『おい、あれは……』

 白牙の言葉にヤオンが頷く。

「間違いない、九尾鳥が変化した弓だね。あの子もあちきと同じ、覚醒した八百刃の分身で、分身を集めているのかも」

 そんな中、白髪の少女が、ジャンアの無駄に豪華な首飾りをひっぱり言う。

「その代償で手に入れた力で贅沢を続けた。もう満足でしょ?」

「助けてください。何でもしますから!」

 懇願するジャンアに白髪の少女が手を伸ばす。

 その手を掴むヤオン。

「はい、そこまで。殺しても意味が無いでしょうが」

「殺せば、その分、悪意が消える」

 白髪の少女の言葉に、ヤオンが苦々しい顔をする。

「貴女は、そういうあちきだって言うの?」

「お前は、無駄な事を続ける私だという事だな?」

 白髪の少女の言葉に白牙が言う。

『どういうことだ?』

 白髪の少女が答える。

「簡単よ、私は、全ての悪意、敵対者を滅ぼし、私の元、神も人も支配する」

 驚いた顔をする白牙。

『冗談は、よせ! お前がそんな事を考える訳が無い!』

 白髪の少女は、苦笑する。

「それは、貴方も私を知らないだけ。そっちは、私の存在を認知していた。そうでしょ?」

 ヤオンは、頷くと白牙が言う。

『そんな馬鹿な! 八百刃がそんな考えをする訳が無い!』

「蒼貫槍は、今は、立派に戦神の長をやっている。そんな蒼貫槍もホープワールド時代は、邪神だった。それは、あちきもそうなる可能性があるって意味だよ」

 ヤオンの言葉に白髪の少女が言う。

「私に言わせれば、今までの私が間違っていたのよ。私には、誰も勝てない。だったら私が全ての上に立ち、支配する。そうする事で、こんな屑を全て滅ぼす!」

 そういいながら放った矢は、仲間も見捨て逃げようとしていたジャンアを消滅させた。

「九尾鳥、自分の意思でそのあちきに従っているの?」

 ヤオンの問い掛けに弓と化した九尾鳥は答えない。

「八百刃獣は、私達に絶対服従するだけ。忘れたの?」

 白牙が牙を剥く。

『お前、絶対命令権を使ったのか!』

 白髪の少女が当然の様な顔で言う。

「当然でしょ。八百刃獣は、私達の命令に従うだけの存在。それ以上でもそれ以下でもないわ」

 ヤオンは、白牙の方に手を向けて言う。

「貴女だけは、止めないといけないわね」

 詠唱と共に再び刀になった白牙。

「邪魔をするなら、打ち倒して取り込んであげる!」

 白髪の少女が白い光の矢を射る。

 ヤオンは、それを正面から断ち切る。

「力は、互角。今のまま戦ってもどちらが勝つかは、解らない。それならば、ここは、引こう」

 言葉通りに後退する白髪の少女。

『追撃するか?』

 刀の白牙からの問いにヤオンは、首を横に振る。

「あっちの言うとおり、決着は、つかないから無駄だよ」

 白髪の少女は、この世界から消えて行く。

『私は、始まりであり、終わりの者。お前を取り込み、真の八百刃になるまでは、エーゼットと名乗ろう』

 大きな溜息を吐いてヤオンが言う。

「まさか自分が敵に回るなんてね」

『本当に、お前の分身なのか?』

 子猫の姿になった白牙の問いにヤオンが頷く。

「間違いない。覚醒した者同士がここまで近づいたら相手の事が解る。地獄は、魂の浄化場所。本当の最悪は、現世にあるって事を体験したみたい。人と神に絶望している」

『絶望か、お前にもそんな気持ちがあったのか?』

 白牙が軽口を叩くとヤオンも苦笑する。

「分身だからね。でも、あちきには、無いよ。だってあちきには、大切に思える人が居るから。エーゼットに居たのにそれを塗りつぶす悪意があったんだよ」

 白牙が悔しそうな顔をする。

『俺が分身の存在に気付いていれば……』

 ヤオンは、微笑み言う。

「白牙は、あちきを救ってくれた。感謝してるよ」

 白牙がヤオンを見る。

『俺は、全てをかけてお前を真の八百刃に戻してみせる』

「あの子は、エーゼットと一つになったみたいだし、次に行くよ」

 ヤオンの言葉に白牙も頷き、次の分身探索に向かうのであった。

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