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四十一、爆発




 私がいつもの日課としてパンヌ屋さんに立ち寄った帰り。と、いうかパンヌ屋さんの店前にて。

「おはようございますアレシア様」

 抜けるような青空の朝、サハリアお姉ちゃんの執事をしていた口髭お爺さんと出会った。

「おはようございます。ハルクさんがどうしてここに?」

「奥様が至急お会いになりたいとの仰せでございます。そこの角に馬車を待たせておりますのでご足労願えますせぬか」

 お姉ちゃんが? どういった風の吹き回しだろうか。まあ、拒む理由はない。

「少し待ってて貰えますか。これを自宅に届けてきます」

 だが着替えも何もしていないまま外出するのも礼儀正しくないと思う。

「いえいえ、アレシア様の御手を煩わせるなど滅相もない。私がお届け致しますのでアレシア様は馬車でお待ち下さい」

「着替えてもいないんですよ。少々時間を頂けませんか?」

「それが奥様のお望みなのでございます。何でも起きたての香りが良いとか」

 何を言ってるんだお姉ちゃん……あっ、籠を奪われた。

「ではしばしお待ちを!」

 おお、ハルクさんて意外と足早いんだな。あっという間に去ってしまった。何だか強引に過ぎる気がするが、お姉ちゃんならやりかねない。執事は主人に忠実に動かねばならないのだろう。ならば、迷惑にならないよう大人しく言う事を聞いておくか。

 私は馬車の所まで歩いて行き、御者の人と挨拶を交わしてから乗車した。ああ、ベッドよりふかふかな座席……ここら辺は羨ましいものだ。

 気持ちの良い上質ソファに心を奪われている合間に、気が付くとハルクさんが戻って来た。

「さあ、では参りましょうか」

 少し息が切れているな。ご老体に無理をさせてしまったかもしれない。やはり私が行くべきだったか?

「わざわざ届けて貰ってすみません」

「いえいえ、我々の我儘を聞いて頂いたのですから感謝は私共の言葉でございます。無理を言い申し訳ございません」

「そんな。私もお姉ちゃんには常々会いたいなあと思っていたんです。渡りに船でしたよ」

「なれば幸いでした」

「それより、お姉ちゃんの結婚について教えてくれませんか?」

 これから四十分位ある移動時間。無言でいるのもつまらない事だし、興味も持っている。あのお姉ちゃんがどのような経緯で結婚に至ったのかねえ。

「奥様のご結婚についてでございますか」

「はい、恋愛結婚ですか? それとも政略結婚?」

 お姉ちゃんの属するような高位な家系だとやはり政略結婚も仕方ないのだろうけど、どうなのかな?

「そうですな、政略結婚ではありましたがお互いがお互いを愛し合っていたので恋愛結婚でもあります」

 ほう、それはどういう?

「奥様がご結婚なされたチャールズ―C-ウィンズ様のご子息クライブ様とは幼き頃から親しき間柄でございましたのでございます」


 馬車が走り始めておおよそ一時間。あれからずっとお姉ちゃんとクライブさんの馴れ初めを聞かされて正直うんざりなんだけどまだ着かないのか。おかしいな。前回はもっと早く到着していたような気がするのだが。

「何だか今日は着くのが遅くないですか?」

「申し訳ございません。最短経路が工事中であります故、少々回り道をしているのでございます」

「ああ、そうなんですか」

「おっと、話の続きでしたな。それでクライブ様が一輪の花をサハリア様に差し出したのでございますよ」

「へ、へえ」

 早く着かないか……。


 もう二時間近い時間が経過してるんだがどうなっているんだ。ハルクさんもお話も延々途切れる様子がないし何か前聞いたような話に戻って来てるしそろそろ限界だなあ。

 ん、そう言えばお姉ちゃんの婚約相手のクライブさん。誰の子供って言ってたっけ。確か……チャールズ―C-ウィンズだったか。あれ、そう言えば彼はペロポネアとの戦争で開戦をしきりに主張してたな。そして私の頭の中では現大統領でもあった。どうやら今はワイヤットさんが現大統領のようだがこの点も後々図書館行って調べたいな。

 いや、待て。私の調査によればチャールズは魔族の友人の言う事を妄信していた危険人物じゃないか。そのチャールズの息子と当時穏健派で国民の信任を失ったワイヤットさんの娘が結婚だって? しかも恋愛結婚ではなく、政略結婚らしい。うーん、どうなっているのかまるで分からない。ここをもっとつつく必要がありそうだ。


 私が物思いに耽っていると、突如私の周囲が透明の立方体に囲まれる。これは自動展開型魔法障壁だ。いきなりどうしたというんだ?

 自動展開型魔法障壁の出現から一呼吸を待たずして、足元から衝撃が伝わり馬車の床が崩壊していくのを視界がかすかに捉えた。ちらりと見える爆炎。もしや仕掛け爆弾の類か!?

 御者の人とハルクさんが危ない! すかさず二人を【魔法障壁】で囲む。

 秒速数千メートルの爆速……私が感知してから一秒の七百分の一にも満たない速度で広がる衝撃波に爆圧。自動展開型魔法障壁の外は煙に包まれ外は窺えない。術者である私には御者とハルクさんを囲んだ【魔法障壁】が破られていない事が分かるから一安心だが、第二波がないかが心配だ。こちらから打って出よう。自動展開型魔法障壁を展開したまま【身体強化】で一気に爆煙から抜け出す。敵がすぐ目の前にいるかもしれないが、銃火器を使うと他に目撃者がいると面倒だ。久し振りにハリソン魔法の出番だな。敵を行動不能にするハリソン魔法ナンバー34285【電撃】辺りを即時発射出来るようにしておこう。

 御者の人とハルクさんを助けたいが、先ず安全確認しておこう。今なお盛んに燃えている馬車をバックに周囲を見渡す。どうやらここは貧民が多く住んでいる地域らしい。元々は白かったのであろう薄汚れた画一的な四階建ての集合住宅が百メートル程ずっと立ち並び、二階からは無理矢理居住空間を捻り出すために歩道の上までせり出している。車道は今燃えている二頭立て馬車が通るのが限界ではあるがきちんと石で舗装されている。二十人近い人々が何事かとこちらを見ており、集合住宅も続々と人を吐きだして続けている。すぐさま攻撃してきそうな人は見当たらないが、こうも人が増え続けていると不意打ちを見破るのは困難だ。でも私は核をも防ぐ自動展開型魔法障壁があるし、搦め手を使われなければ大丈夫だろう。取り敢えずの安全確認は済ませ、御者とハルクさんの救助に当たるか。

 熱量操作のハリソン魔法、ナンバー563【絶対零度】で燃えている馬車からエネルギーを奪い取り、鎮火させると半透明青色の立方体に囲まれた御者の人とハルクさんの姿が見えた。私は【魔法障壁】を解除して二人に駆け寄る。

「二人とも大丈夫ですか?」

「ははは……」

 あ、御者の人が気絶しちゃった。

「おっと」

 御者の人が舗装された道路に倒れそうになる所をハルクさんがすかさず受け止める。流石執事。

「私は大丈夫です。それに彼も恐怖で気を失っただけで命に別状はないようです」

「それは良かった」

 ハルクさんが私に頭を下げて来た。

「この度は命を救って頂き誠にありがとうございます。感謝してもしきれませぬ」

「そう言って貰えると、助けた甲斐があります」

「ええい! どけっ! どかんか! 我々はウィギレスだぞ!」

 それより問題なのはこれからか。一体誰が仕掛けてきたんだろう。それに私達を囲む群衆を掻き分けながら近付いてくる警察兼消防官達の対処も面倒な事になりそうだ。やれやれ。


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