第二十四話:あなたもわたくしも
「しょ、正気っすか!?落ちてる間も投げられ……ていうか何mあると……」
「存じておりますわ。ですから、こうしますの」
ゴンドラの縁に片足をかけたまま、花冠の花を三輪切り落とし、フォークで刺して口へ運びます。瞳が緑と赤、舌が青に染まりましたわ……まぁ、私からは見えませんが
「大丈夫ですわ。さ、お手を」
手を差し出すと、縫井様と井伊也様は恐る恐る手を取ってくださいました
「行きますわよ!!」
ゴンドラの淵を蹴って飛び出しました。宙に放たれた私達を見た人影はニヤリと笑い、さらに石を投げ始めましたわ
「ツヴァイ・クーゲル!」
「わああぁ!!水と炎の弾が石を弾いてるっす!」
「それより!!着地はどうするんだよ!」
井伊也様の言う通り、地面は驚異的な速さで私達を迎えようとしていますわ
「落ち着いてくださいませ、何のためにお花を三つ食べたと思っていますの」
「はっ!そうっすね!炎と水と……何が出るんすか?」
「風ですわ」
私が起こした風によって、私達の体は一瞬ふわりと宙に舞い上がり、そのまま緩やかに着地致しました
「い、生きてる……!!」
「すごいっす!」
「ありがとうございますわ……さて」
さっきから攻撃していた方の方を見ると、不敵に笑っていました。三対一とは思えない余裕が垣間見えますわ
パッと見は学生服を着た金髪青年ですが、よく見ると何か大きな物を背負っていますわね。布で覆われて何かは分かりませんが
「やるじゃないか、まさか降りて来るとは思わなかった……俺は引谷、お前らは?」
「戦闘中だぞ、わざわざ名乗るなんて……」
「私はエミリア=F=シュヴァルツ」
「自分は縫井っす!」
「……俺は井伊也だ」
「OK、あんがと」
引谷様は私達の名前を聞くと、ポケットからペンを取り出しました
「大事だからな、名前って物は」
「なんすかそれ……ペン?」
「なぁ、生き物を数えるときは死んだ後に残る物が単位になるって話を知ってるか?」
「無視っすか」
落胆する縫井様をよそに引谷様は話を続けました
「例えば、牛を食べたら頭蓋骨が残るから一頭、魚を食べたら尻尾が残るから一尾、鳥を食ったら羽が残るから一羽と言った具合だ」
「確かにそうっすね……」
「いや、もっと骨とか沢山残る……」
「井伊也様、無粋ですわよ」
「そこでだ」
引谷様は私達の方を指差しましたわ
「人間は一名、二名と数える、つまり人間が死んだ後は名が残るって訳だ」
「まー、つまり何が言いたいかっていうと、俺はこの話に感激した!自分の名に恥じない生き方をし、そして……」
そのタイミングで引谷様は突然、学生服と下に来ているカッターシャツを勢い良く開けました。ボタンが飛び散り、露わになったそこには無数の名前が書かれていましたわ
「ひっ……なんすかそれ……」
「今まで殺した奴らの名前だよ。こいつらは死んだが、名は残って俺と共に生きているんだ……!」
「こ、こいつ……ガチでヤバいやつじゃ……」
私達がドン引きする中、引谷様は私達の名前を体に書き始めましたわ
「ぬい……いいなり……エミリアっと、よしこれで心おきなく殺せる」
そう言うと、引谷様は背負っていた物を取り出しました。布が剝がれ、中から出て来たのは大鎌、金属製の柄の先に着いた湾曲した刃が怪しく光っていますの
「さぁ、来ないならこっちから行かせてもらうぜ!」
「させませんわ、ウィンド・クーゲル!」
こちらに向かって来る引谷様に石を風で投げつけますわ、無論この程度で倒せるとは思っていませんが……まずは実力を計る所からですわ
「へぇ、石。さっきの仕返しって訳ね……当たらないけど」
引谷様が手を前に出すと、石が宙で停止いたしました。まるで王城様が拒否した時と同じ様な挙動で
「止まったっす!?」
「これが俺のデューク、【掌招来】だ。視界にある物を好きな速度で手に引き寄せる事ができるって訳だ」
「今その石達は時速1mだ、このまま当たるまで待てるほど俺はお利口さんじゃないからなぁ」
話し終えた引谷様は再び大鎌を構え直しました、さらに
「補足だ、速度をマイナスにするとどうなると思う?」
「ま、マイナス?何言って……」
「答えは、手と逆の方向に向かう」
瞬間、宙に停止していた石が私達向かって飛び出して来ましたわ
「時速マイナス150㎞!当たれば相当だ!」
「井伊也様」
「な、なんだよ」
「貴方様なら防げますわよね?」
「っ……分かったよ」
渋々、井伊也様が肉壁の様に私達の前に出ましたわ
「ちょ!流石にその扱いは酷いんじゃ……」
「大丈夫ですわ、見ててくださいまし」
「はぁ!甲冑!」
井伊也様がそう言うと、彼の体を中世の甲冑が包みましたわ
「井伊也様のデュークは【コーディネート】自身の服装を好きな物にする事ができるそうですわ」
「ほえー!そうなんすね!」
「へぇ、やるじゃん……じゃあ」
引谷様は大きく振りかぶって、大鎌の背面で勢い良く背後の看板を壊しました
「この大きさが直撃して、耐えられるかな?」
そして、無数の瓦礫が先程の石と同じ様に飛来して来ますわ
「井伊也様!大味な攻撃ですわ、避けますわよ!」
「ちょ、そんな急に──」
私と縫井様は避けれましたが、甲冑で動きが遅くなっていた井伊也様は瓦礫が直撃。後方に吹き飛ばされてしまいました
『井伊也 副 気絶確認、引谷 札にポイントが加算されます』
避けた私達と吹き飛ばされてしまった井伊也様、かなり距離が開いてしまったそこに
「気絶か、トドメを刺さなきゃな」
引谷様が気絶した井伊也様に向かって駆け出し、大鎌を構えました
「っ……井伊也様!」
「下がってろ」
守りに向かおうとした私達に向かって、どこから出したのかナイフがまたもや時速マイナス150㎞で向かって来ます
「ツヴァイ・クーゲル!」
(でもナイフを捌いてからじゃ間に合わ──)
「エミリアさん!風はまだ出せるっすか!?」
「風?風で何を……」
聞き返してる内にお刺身様が私の手に乗っていましたわ。なるほど、人は飛ばせない、駆け出しても間に合わない
「あなたなら!カタパルト・クシェルティーア!!」
お刺身は風を受け、物凄い速さで引谷様へ飛んで行きましたわ
「?、人形?こんなもの俺のデュークで止め──」
「残念だったっすね!お刺身は既に自分のダッチェスで命を受けてる物じゃなくて者っすよ!!」
懐に潜り込んだお刺身様はそのまま蹴りを一撃、引谷様の体が蹴り飛ばされ宙に舞いましたわ
「逃しませんわ!ドライ・ヴィアヴェル!!」
「ぐっ……時速1m!!」
炎と水と風の竜巻は宙に停止し、引谷様には距離を取られてしまいました
「中々やるな……そこの倒れた彼と違って、君たちは能力を使いこなしてる」
「当然すよ!自分はともかく、エミリアさんはグランダッチェスを使いこなしてるんすから!」
「……へぇ、グランね」
それを聞いた引谷様の口元が大鎌と同じくらい湾曲し、歯が怪しく光りました
「初めて会ったよ、俺以外のグラン持ち」
「え?」
そう言うと、引谷様は学生服の内側から黒い玉を取り出しました。ナイフもあそこに入っているのでしょうか
「ほーら、くれてやるよ」
そしてその黒い玉を私達に向かって放り投げましたわ
「エミリアさん!あれ多分ヤバいっすよ!」
「分かっていますわ、フラム・カノーネ!」
「あーあ、やっちまったな」
炎を浴びた弾はその場で停止しました。そして、その玉は辺りの物を吸込み始めましたわ。無論、私達の体も同様に
「わあぁ!!なんすか!なんすか!」
「くっ……体が吸い込まれ……」
「それが俺のグランデューク【命冥玉】!!初めは黒い玉を生み出すだけだと思ったが、その黒い玉は衝撃が加わると周囲の全てを吸い込もうとする!!ブラックホールの様にな!!」
説明が終わる頃には私達の脚は限界を迎えていて、黒い玉に吸い寄せられていました。黒い玉を挟んで私と縫井様が背中合わせになる形で
「その玉は吸い込むだけ。当たっても死なないし、動けなくなるだけだ……でもな」
周囲の固定されていた物も少しずつ限界を迎えようとしています。もしあの出店が吸い込まれたら、観覧車が吸い込まれたら
(圧死……!!)
「さぁ、見せてくれよ……お前たちの足搔きを!!」
第二十四話 完
譜塚
ダッチェス:回復
外傷を治癒する事ができる。欠損した部位などは戻らず、断面が塞がるだけ
綱義 連
デューク:連結
元々は離れていた物をくっつける事ができる。生物にも有効
荒波 災俄
デューク:衝撃
腕を振ると透明の衝撃波が出せる。腕や指の角度で方向を調整したり出来るが、相当な計算能力が無いとできない
鳴静 天鏡
ダッチェス:ガラスの靴
半径3mの中なら好きな大きさのガラスを生み出す事ができる。十二枚出すと全部消えて少しの間使えなくなる
周戸 羽住
デューク:ホップステップ
足で触れた物に弾力を付与できる
悪根
ダッチェス:スパイダー
腕が六本になり、粘着性の糸を出せる様になる




