とっても オッティモ
「パスタうめェ……パスタうめェ……」
剣衛学校の2年目を迎えた世成はカルボナーラを頬張っていた。鎮護府へ来た際に食べて以来、暇があれば絶対に来ていたカフェー・オッティモ。そのマスターの力作をモリモリ食べている。
同室の三階菱三蔵や小乃字小三治も深々と味わって食べていた。世成に連れられて初めて来た時とか三階菱 三蔵はガチ泣きしながら食ってたし小乃字 小三治は呆然としてた。
出自故に美味いものを食べ慣れてる笹竜胆黎明さえ驚いていたのだからマスターの腕は確かである。
「世成君達は美味しそうに食べてくれますね。進級おめでとうございます。此方はサービスですよ」
「有り難う御座いますマスター! ケーキとコーヒーうひょーー!」
砂糖は貴重でコーヒーは苦い。故に泡立てたミルクを入れているカプチーノだ。コレが甘いケーキとよく合う。
尚、当然だがケーキとコーヒーのサービスなど暗黙の了解と言うやつである。例えそれがマスターの人脈などを用いたものとは言えどグレー。戦況による多少の緩和はあるが外食券の範疇にある代物なのだから。
それらを平らげ各々が飲み物を頼み少し駄弁る。飲食店に居座るのは余り良い事では無いが此処は曲がりなりにも高級な店。食後の重い腹を休ませるくらいは許される。
「黎明。そういやお前は座学どうなった? 剣刀士は戦えりゃ良いっつっても限度があんだろ。大丈夫なのか?
小三治が頑張ってるのは知ってるがある程度は出来ないと拙いだろ」
世成は熟思う。笹竜胆黎明は戦闘技術において天才だと。しかし同時に剣術に反比例する様に学業はビックリするくらいダメだった。最初に確認した時はマジで小学生以下。頭は良いが勉強が出来ない。
そもそも8+5を真顔で「いっぱい」とか言っちゃうタイプである。それを小乃字 小三治がバチクソ頑張って何とかして来たのだ。
厳密に言うと13×22を13人の分隊が22集まったら刀は何本? って言えば286本と直ぐ出てくる事を発見した。四大貴族笹竜胆家にガチ感謝された偉業である。
「フッ……」
笹竜胆黎明は眼鏡クイってしてドヤ顔を浮かべる。
「飛鶴。いつの事を言っているんだい? 先生のおかげで四則演算は余裕さ」
「いやソッチは知ってるけど。ほら訓練兵になったらバイクとか車の運転もするじゃん? アレちょっと不安でよ」
サイダーを飲みながら「先生って呼ぶのやめてくんねぇかな」って顔してる小乃字 小三治が片眉を上げた。
「世成よお。大丈夫だと思うぜ?感覚で覚えられるだろ。コイツなら」
「いや、故障した時だよ。俺が不安に思ってんのは」
「……あー、っべーな」
故障したバイクを前に「分からん!! 切れば直る!!」とか言って刀を抜く笹竜胆黎明の姿が浮かぶ三人。一番酷いイメージは三階菱 三蔵の既にバイクが真っ二つになってるヤツだろう。ただ普通にやりかねないってっか、やる。
いや、やった。前に剣豪が出演したラジオが故障してキレた挙句に真っ二つにした事がある。前科ありだ。
「……確かに。僕は機械は苦手だ」
因みにもっと酷いイメージを抱いてるのは笹竜胆黎明本人だったりする。自分家で家電を幾つか叩き斬ってバチボコにキレられた事があるのだ。それらを思い返していた。
「あとバイクもヤベェけど通信機とかさ。アレ使えねぇのは洒落にならんだろ。なんか遠征の時にチラッと見たけどゴチャついてたぞ」
世成が特に心配してるのはコレだ。特に周波数とか何か忘れそうだなっていう確信が結構ある。何せ情報伝達はガチクソに大事な事だった。
どれくらいの大事かと言えば通信無しの戦闘は目隠ししてトライアスロンをする様な物。そんくらい難しい。よしんば陸は進めても海で沈んで普通に死ねる。まぁその危機感は元の世界の漫画とかの知識だけど大分正しい認識だ。
だから笹竜胆黎明も眼鏡クイってしてから頷く。
「取り敢えずさ解からねぇって時に刀を抜く癖をなんとかしようぜって話。人には刀を向けないんだからそれを応用できねーかなって」
「成る程……。先生の言っていた発想の天下というヤツだね」
「うん? うん。まぁたぶん、そう」
話がひと段落して全員の飲み物が空になったのを確認し世成は立ち上がる。
「じゃあマスター。ご馳走様でした。また来ます」
そう言って立ち上がれば三人もそれぞれ立ち上がり「御馳走様でした」だの「美味かったです」だの「有り難う御座いました」だのと言って立ち上がりお代を置いていく。
「皆さん。また来てくださいね」
そんな声に手を振りながら学校へ戻る。そして数日後、二年目の授業が始まった。
「剣衛 祓滅兵学校討蛛第三期生諸君!! 私は鎮護府所属、剣衛第零軍車両整備班所属、梅鉢である!!」
そうガナリ声を上げるゴツい男。彼の横には数十台のバイクがあった。それぞれに整備士が付いている。
バイクはハーレーダビットソンのバイクをライセンス生産した日本の陸王と言う物が近しいだろうか。ただカバーが無く機構は剥き出しでエンジンは更にゴツい印象を受けた。討鵺三十八年生産の軍用二輪車たる38式二輪車黒鉄だった。
三世代前の主力車であるが未だに剣衛の足である。機動力的な観点から剣刀士は基本的にバイクでの移動が基本。
「ガソリン摘み、オイル摘み、これらを回して入にしてから始動補助桿を引いてフットクラッチを……ああ、エンジンが回ったら始動補助桿は必ず戻せ」
などと、何かクソややこしい操作方法をレクチャーされながら世成は何とかしてこなし。
「——で、回す」
言われた通りグイっとバイクのハンドルを回した。
「おお、おおおおお……おおお」
自分の足で軽く走るよりは速い程度。バカほど揺れるが。成る程、距離を稼ぎたいのなら有用性は頷ける。そう言う所感。
単純な話フルマラソンの後に戦闘をさせるバカは居ない。出来るだけ剣刀士の体力を残して妖と退治してもらう手立て。それがバイクだった。
軍事に詳しければ銀輪部隊という自転車の部隊なんて物を聞いた事があるかもしれないが要はソレ。
剣刀士レベルで適合すると身体能力が向上するので最悪背負える。加えて平地であれば車が通れない隘路も進める利点は大きい。
適正の低い者は軍人となるが、軍人は大砲を牽引したり物資を乗せた軍用トラックで移動し、ソレを中心に剣刀士が動く。それが剣衛の見廻業務であった。
特に衛戍府では重要視される技術である。
「自分で走ってないのに進むって妙な感覚だな……」
世成はそんな事を言いながら真っ直ぐ進んでUターンして帰る。他にもバイクに乗って同じ様にしている者達がいた。今回は取り敢えずの慣らしであり触らせる事が目的であった。
エンジンの止め方を聞き整備士さんに頭を下げてからバイクから離れ。
「さて」
部屋別で列を作って一人ずつと言う形だが次は小乃字小三治だった。世成のを見て自身も実際に体験した後、三階菱 三蔵が乗っている間、整備士の人の前に笹竜胆黎明へ大まかな説明をする為だ。厳密に言うと刀に例えて各機器がどう言った物か伝える。
参加者四名の笹竜胆黎明機械音痴対策会議にてだいたい十五分で考えた策だった。要は小乃字小三治に見せて、やらせて、教えさせるっていうプロセス。まぁやんないよりはマシであろうってだけだが。
「ちょ!! クソ!! 何だこれ怖!!」
小乃字小三治がバイクガクガクさせながら進んでいた。何か自転車初めて乗った子みたいになってて危なっかしい。世成は思わず。
「おーい!! 小三治!! バイクは寧ろ速度上げた方が安定するぞ!!」
「世成オメッ!! ンなッ出来るか!! 怖いわ!!」
「うーん。素直」
整備士の先生も何に対してかは不明だが頷いていた。何とか戻ってきた小乃字小三治はヘロヘロにフラフラ。
「教えられるか?」
「ちょと……ちょっと待て。世成おまえ。ハァ、教えといて」
「あー。分かった。刀振るのに絶食したら碌に振れねぇだろ? だぁ最初に摘み回して、んで確か鍛錬に真剣使ってるっつてたな。手入れで刀に油塗るじゃん? で、油も塗らずに放置すると刀って錆びて抜けなくなるだろ。ソレと同じで油を動かす前に挿すために摘み回して。
んで切る前に一呼吸入れさせる為の取っ手を引く感じだ。一先ず良いか?」
「うん、まぁ。何と——えぇ」
「あ? どした? うお」
振り返れば三階菱 三蔵が前輪を浮かせて後輪だけで走るウィリーやってた。
「アイツ、様になり過ぎだろ……」
世成の言葉が聞こえた者は皆が頷いていた。尚、笹竜胆黎明はやはりエンジンをかけるのと止めるのには梃子摺る。だが運転自体はバカ上手い。
ウィリーで進んでからその場で回転させて方向転換とかしやがった。
「ウィリーってあんな簡単に出来るもんか?」
小乃字小三治が呆れと敬意、この場合は「すげぇな」感を混ぜて言った。それは世成も同感だが問題がある。
「つっても必須技能なんだろ。アレ」
世成の言葉に小乃字小三治は諦め混じり。
「だったな……」
「まぁ慣れるしかねぇか」
「ああ、だーな」
笹竜胆黎明が凄い腹立つドヤ顔向けてきたので世成は軽いデコピンかましといた。
「痛ッ! 飛鶴! 吃驚するだろ!!」
「ウッセ! 何そのドヤ顔!」
こうして教官に拳骨と腕立て千回くらって二年目最初の授業が終わった。




