nostalgia
雨の音で目を覚ました。
白い天井がぼんやりとした青白い光に照らされている。
夜明け前といったところだろうか。
ミネが初めてぼくの写真を撮ってくれた日にも雨が降っていた。
後日、写真を見せてもらった時に雨がまるで注射針の様な形をしていて驚いた。
数百本の注射針がぼくの体めがけて降り注いでいる様だった。
ミネは、シャッター速度を落としただけだよ、と言い笑ったが、ぼくは写真というものはなんて奥深いんだろうと思って感心した。
体を起こし、窓の外にに目をやった。
遠くの方に見える高層ビル群の屋上で航空障害灯が赤く点滅している。
風が強いようで、電線がゆらゆらと揺れている。
空には鈍い鉛色の雲が佇んでいて、銀色の針を街に落としている。
昔、児童養護施設で、シスターは、ぼくにこんなことを言った。
雨は私たちの世界の悲しみや苦しみを洗い流して浄化するために降っているのですよ。丸くて柔らかい雨は、私たちの世界に噴き出した様々な汚物に当たってその内部に浸透して、汚れを吸い取ってまた出ていくんですよ。出ていった雨は、もう一度集まって、大きな虹色の鳥に姿を変えて天に昇っていくんですよ。
でも、中学生や高校生の時に、シスターが言っていたことが嘘だったことがわかった。
銀色の針は私たちの世界を覆っている重い空気を突き破って、地上の様々な物体、例えば偉い人の銅像や、木、魚、人の身体に突き刺さり、毒を注入している。
毒は毒のまま、永遠に残り続ける。
横を見ると、下着のままのミネが背中をこちらに向けて眠っている。
暖房をつけっぱなしで寝てしまったため、肩甲骨の部分に汗が溜まっている。
ぼくはその汗に舌で触れた後、そのまま首筋に向かってすーっと舌を滑らせた。
ミネは小さく呻いた後、こちらに顔を向けるように寝返りをうった。




