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黒き獣と黒の誓約  作者: 夢未多
第1章 殺し屋
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6、お前らでどう分けるかは知らん

 ねぐら賞金稼ぎ(ハンター)という話を聞いて、自分が怪しまれているのかを考える。レイヴンの名前を出したのが本当なら何か知っていると見るのが妥当だ。今回の事件、懸賞金の金貨100枚の件で彼を探しに来たのか、全然関係ない話で来たのか……いや、彼に用事のある賞金稼ぎなんて全く思い付かない。


 とりあえず夜には戻るから、それまでは様子を見といてと話す。


 レイヴンよりも背は高く、線は細いその少年が戻っていくのを見つめる。少年の足取りは重い。


 少年が角を曲がるのを確認してから後を追う。彼が小走りで戻っていく姿を見ながら、レイヴンはかなり自信を持つ。彼が塒で一緒に暮らしているのは事実だが、レイヴンの為にわざわざ報せを伝えに来るほどの仲ではない。


 レイヴンの家族はただ一人、アルキュオネーだけ。


 まだ日は高く、澄んだ空だ。彼女の髪は、瞳はもっと深い色をしている。たまに意識を持って行かれそうになるあの瞳、優しい言葉を紡ぐあの唇、彼女以外に大事なものはない。


 塒の近くから別の道に入る。少年が塒に直行しているのがわかったからだ。路地から塒の裏手に回り込む。もちろん人気ひとけがないことは確認しながらだ。ただあまり心配もしていない。今来たばかりの余所者が塒の周りまで把握できている訳がない。


 少年が塒に入った所で、三人の男に取り囲まれている。一人はどこかで見たことがある。一緒に仕事をしたことはないが、賞金稼ぎ(ハンター)だったはず。鎖帷子(くさりかたびら)を身に付け、剣を下げている。


 残りの二人は、多分、この男の連れだろう。()()()は確かにいいが、鉈を持つ男に、もう一人は槍だ。鉈は使い込まれているが、賞金稼ぎの武器としては見たことがないし、槍の方は見るからに使い込まれたというより手入れがされていないものだった。


「おい、その金回りが急に良くなったチビってのはどこだ? 連れてくるんじゃなかったのか? 」


 鉈を持つ男がかなり大きい声で、脅すように話す。


「声がデカイんだよ、お前は。なあ、坊や、怯えなくていいんだ。そのレイヴンってのは見つけたのか? 」


 優しい声に向かって話すのは自然だ。


「レイ、レイヴンは夜に、戻る……そうです」


 少年が、それでも怯えながら話す。だが、怯えて当然だった。優しい声で話した賞金稼ぎは、少年を蹴り飛ばす。


「いたなら連れて来いよ。待つ時間が無駄じゃねえか」


 犯人と噂になっているのは剣の達人で、小柄な男。剣の達人を捕らえるのは難しい。剣の達人なんて、すぐ目星が着く。そいつらの中で怪しいのはいくらでもいるだろうが、競争率は高いし、有名であればあるほど返り討ちの可能性もあがる。


 なら、小柄で金回りの良くなった奴を探して捕まえた方が楽なのだ。剣の達人というのはあくまでも噂。小柄で弱い奴が犯人かも知れないのだから。


 さてレイヴンを売って、金儲けか、命を買おうとしたのかわからないが、あの少年を助けてやる義理はない。新しい塒を見つけるのは面倒だが仕方ない。賞金稼ぎと死闘を繰り広げ、負けたらあの世行き、勝っても他の賞金稼ぎに目を付けられるなんて最悪だ。


 どちらにしろ、3対1でどうにか出来ると思ってない。


「こんにちは~」


 あぁ、素敵な響きだ。そして、最悪なタイミングだ。どうするかを考える。そう、考えないといけない。アルキュオネーが素敵だと言ったのだから……。


「レイヴンって人いる? 」


 レイヴンはここ数日で有名人にでもなったのかと思う。何で居場所も名前もばれている?


「この間のお礼に来たんだけど……」


 現れたのは、あの赤髪の少女だった。薄汚れた廃墟がいきなり明るくなったりはしないが、雰囲気を変えるのには十分だった。


「お嬢ちゃ……いや、アータル人か……知り合いか? 」


 侮蔑の響きを隠さない鎖帷子の男の質問に、蹴り飛ばされて、うずくまっていた少年は首を振る。当然だ。レイヴンも一度しか会った事がない。そもそもあれくらいの事でわざわざ探してまで会いに来ると思うか?


「レイヴンの知り合いじゃないなら、いいです。サヨナラ」


 破落戸の一人が槍を横に降ろして、出口を塞ぐ。そして、鉈を持っていた男が口を開く。


「可愛い女の子の方が人質には丁度良くないか? 」


 舌打ちだけは何とか堪えて、廃墟の板の割れた所からレイヴンは室内に入る。


「取引をしないか? 金貨100枚の内の10枚でいい」


 三人組は突然の侵入者に身構える。槍を持った男は、赤髪の少女に手を伸ばす。


 少女は前転をして男の手を避け、レイヴンを見て口を開く。


「この間は本当にありがとう。もしかして、凄くタイミング悪かった? 」


 レイヴンは無表情で答える。


「俺も丁度そこの兄さんに話があってな。いつ話しかけようかタイミングを見計らってたんだ」


 レイヴンは少女から、鎖帷子くさりかたびらの男に顔を向ける。


「犯人を見た。俺じゃ捕まえられない。教えるから金貨10枚」


「舐めてんのか? お前になんで金を渡さなきゃいけねえ」


 レイヴンは口を出してきた鉈の男は無視して、鎖帷子の男に対して続ける。


「お前らでどう分けるかは知らん。俺はあんたと取引してる」


 鎖帷子の男は、一生懸命計算をしている。三人組の中ではこいつがボス。どうすれば一番儲かるか……そして、彼の出した結論は……。


「俺はビルだ。とりあえず、レイヴンだったか? お前、こっちに来て、教えろ」


 槍の男に、鉈の男が、何か言おうとする前に、ビルに近付く。左手を口に添えて、彼の耳元に呟く。


「サヨナラ」

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