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黒き獣と黒の誓約  作者: 夢未多
第1章 殺し屋
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11、錆びた剣

 早朝の静けさも、ひんやりとした澄んだ空気も、流石に下水道では意味をなさない。だが、この下水道があるからこそ、交易都市カラハタスの美しさがある。


 この下水道をレイヴンがよく知っていたのは、仕事で掃除を何度となくしたからだ。ゴミや汚水とともに害虫・害獣が出てくるからだ。


 どんな事も経験しておくと、それは何かの役に立つもので、外に逃げ出すのにここを選んだのも必然だった。


 だから、ここに待ち伏せがいても驚かない。灯りをつけて待っているわけだが、一本道だから避けて通ることもできない。地上の関所を通るより、こちらの方がまだマシと、レイヴンは考えたて進む。もちろん隠れていてもいいが、いつまでこいつら待機してるのかがレイヴンにはわからない。


「なんで剣を渡したのかな? 」


 男達のひとりが答える。


「頼まれてるだけだ」


 人数は5名。そして、雇い主が別にいて、その雇い主は破落戸ごろつき達の事をよくわかっていないらしい。レイヴンに剣を渡すなら殺してから渡せばいい。レイヴンを殺す気でいるならそうすべきだ。何も危険性を増やす必要はない。そんなミスをこいつらがしてしまうと雇い主は把握できていない。


 レイヴンは用心しながら剣を拾う。見るからに手入れのされていない錆びた剣を手にしながら、破落戸達の立ち位置を確認する。


 こいつらは殺す事を仕事にしていない。本当にただの破落戸だ。狭い通路に五人、三人並べばギュウギュウで、一人は確実に浅い下水に入らないと並べない。通路に一人が立ち、一人が下水に入っている。残り三人はその後ろでのんびり突っ立っている。


 人数が五人なのは、レイヴンに対して確実に死を与える為なんだろうが、雇い主はきっとこの下水道の事をよくわかっていない。


「じゃあ、俺がやるから見てろ」


「金はきちんと分けろよ」


「金を渡すなら、お前に譲るぜ」


 それぞれ剣を手にしているが、放り投げて寄越した剣とそう大差のない代物に見える。レイヴンは知っている。剣を仕事で使っている賞金稼ぎ(ハンター)、例えば魔物や盗賊相手に剣を使う賞金稼ぎはあんな剣を使わない。命にかかわるからだ。


 こいつらは賞金稼ぎかも知れないが、破落戸が仕事なんだ。弱い奴を蹴って殴って脅すのが仕事なんだ。命の重さを知らない。いや、命の軽さを知っている連中だ。


「俺が凄腕の剣の使い手だって聞いてないのか? 」


 レイヴンはそう声を掛ける。少しでも情報が欲しいからだ。


「デマだって知ってるんだよ、ガキ。お前は犯人として殺される。捕まえなくていいってのは楽でいいなあ」


 こいつらの雇い主は確実にレイヴンの事を知っている。そして、犯人として彼を仕立て上げる。その為のこの剣かと、手元をもう一度確認する。彼はそもそも剣の扱いには慣れていない。だが、この空間で得物のナイフを使用するには人数差が厄介だ。


 一人を刺して、殺している時に斬られたら堪らない。距離を取ったままでいくなら、錆びた剣を使うしかない。


「人をまともに殺した事がない奴は怖くないな。犯人では確かにないが、俺は殺し屋なんで」


 五人もいるわけで、レイヴンの脅しで逃げる事はない。だが、一瞬の隙は作れるかも知れない。そして、その賭けは当たる。先頭に立っていた男が少し怯む。脅すのは慣れていても、所詮は下っ端であった。レイヴンは錆びた剣を突き刺す。


 首筋を突いたその剣が真っ直ぐ入り過ぎた。引き抜くのが上手くいかない。下水に立っていた男が横合いから振りだした剣を避ける為に、レイヴンは錆びた剣を諦めるしかなかった。


「てめえ」


 後ろに飛び下がったレイヴンはナイフを懐から取り出す。まだ慌てている下水にいる男に向かって、体当たりをかます。当然、相手の方が体格が良い。吹き飛ばす事なんて出来ないが、構えていたナイフを相手の腹部に差し込む。しっかり手応えを感じたレイヴンはナイフを引き抜きながら、後方へ転がる。


「残り三人」


 そう呟くが、腹を刺された男もすぐに絶命するわけではない。男は呻きながら、恨み声を吐いている。


「助けてやらないのか? 」


 レイヴンはこの男を助けたいのではなく、彼等が助ける為に引いてくれるのを願っている。


「お前を逃がすと、俺達全員殺されるからな」


 残りの三人は正しい選択をする。そう、甘くはいかない。それが人生だと、レイヴンも知っている。


「次に死にたいのは誰だ? 」


 呼吸を整える為の煽り文句。そうだ、顔を見合わせて考えろ。レイヴンを殺さなきゃ、殺されるだろうが、自分が怪我したり、死んだりするのは嫌だろう?


「おいおい、小僧に手玉に取られるなよ。こいつはこっから一対一を三回する形にしたいだけさ。三人まとめてかかれば問題ないだろうが」


 背後から声が飛んで来る。あぁ、知ってるよ、この声。お前がそこにいるって事は……。


「あれ? 驚いてくれないんだ。顔を会わせたことあるもんなあ」


 レイヴンは後ろを振り向かずに答える。


「あのくそったれの酒場で会った事があるからな。とりあえず俺が売られたのだけは確定だな」


「正解。残念だなあ、いい仕事出来そうなのに。ま、運がない奴は何をやっても駄目か」


 特徴のある声と話し方。殺しの仕事を受け取るリリアンのいる酒場で何度か見たことがある。こいつも俺とご同業に違いない。確か細くて長めの剣を持っていたと思う。


 五人組を雇っているのはリリアンか、今回の件をリリアンに依頼した奴か。どちらにせよ、この殺し屋がいるって事はリリアンがレイヴンの敵であるのは確定した。


 殺し屋と真正面から殺り合うか、破落戸の残り三人を突破するか、どちらかを選ばないといけない。


「さて、お前らこいつを逃がすなよ。殺すのは俺がやってやるから」

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