七章 第五話
時は少しさかのぼる。
「イムニ様!偵察に出ていた兵が見つかりました!」
イムニは約二十騎ほどの騎兵を引き連れ、主要街道を進んでいた。途中馬を入れ替え強行して進んだため、時間当たりの進む速度は、イセリとキリクよりも多いものとなっていた。
「見つかった?どっちの方角だ」
「それが、馬が戻ってきたというか、兵士は死んで馬に引きずられたようで、死体が誰なのか判別できていません」
「ええい、俺が見る」
いらだったイムニが馬の前に行き、引きずられた死体にかがみ込む。手伝おうとする兵士を手で制し、鐙に引っかかった死体の足を外し、体をまっすぐ横たえる。すると、右手に光る指輪が目にはいる。
(イムニ様、俺婚約したんですよ)
そう言ってうれしそうに指輪を見せる兵士の顔が浮かぶ。
「カランだ」
「はっ!?」
「カランはどこに偵察しに行っていた。剣の息子はそっちにいるはずだ」立ち上がり、騎乗する。
「はっ、しかし、ただ単に落馬しただけの可能性もありますが」
「首に折れた矢が刺さっている。この帝国の領地でそんな事をするのは奴ぐらいだ」
イムニがいらだったように言う。
「カランの死体は帝都に送れ。遺族には敵を見つけた報奨金を渡すことも覚えていてくれ」
隣のダストンに手短に伝えると、馬の腹を蹴り先頭にたって前に進む。
ダストンはイムニのこの行動力を好ましく思っていた。実際このまま成長すれば、良き将になると期待してもいた。だが、急かされて焦っているかのような性急さも、危惧していた。
実際イムニはいらだっていた。当初予想していた逃走経路が外れ、後手に回っているのを感じていた。そのため、睡眠を削り、馬を徴用し、兵に相当の無理をさせていたし、自分自身もかなり消耗していた。
「イムニ様、カランの向かった方向から考えますと、明日には尻尾を捕まえることができると思います。ですが、一つ問題があります」
ダストンがイムニに併走して話しかける。
「なんだ」
イムニがいらだった口調のまま返事をする。ダストンの諭すような口調がかんに障る。
「このままのペースで進んだ場合、捕まえることが出来たとして、おそらく国境付近。場合によっては越えることがあるかもしれません」
「それがどうした。捕まえてすぐ戻ればいい。最初のようにな」
問題などなくこの話は終わりだというように、イムニは前にむきなおり馬を急かす。
ダストンはやれやれと言った風にため息を付きつつ、イムニに必要なのは正しい道へと導いてやる大人が必要だと、帰り次第ムロギアに注進せねばと思ったものの「なんだ、お前がやればいい」と、想像の中のムロギアに言われ顔をしかめる。
「私だってそれぐらい考えている」
ため息を付いてしかめっ面のダストンを見て、イムニが言う。
「国境の前に捕まえる。そのために今無理をしているのだ」
そう言ってイムニはまた自分の馬を急かすようにけりを入れる。
「どうしたダストン、早く行くぞ」
イムニの反応に一瞬遅れて馬を進めるダストン。
ふむ、思ったより帝国の未来は明るいかもしれない、そう思うダストンだった。




