起草
「駄目だ」
色々と策を練っているがどうしても浮かばない。皆が部屋に戻った食後の居間でソファに掛けながら私は悩んでいた。
敵の戦力は未知数だし、勝手に味方と判断していたエリオットもよくよく考えれば御庭番衆の一人。私の両親への恩から私を助けてくれたらしいが、ヤギシフに仇為すものは許さないだろう。私自身かなり鍛えていると自負しているがそれでも音波を操るエリオットには勝てる見込みがない。
それに私には情報もない。己のことはよく知っていても敵を知らなければ百戦危うい。
「ハカナちゃんどうしたんだい」
頭を抱える私を見かねて大家さんが話しかけてきた。
「……私はどうしたらいいんだ?」
何故だろう。この人なら答えをくれるそんな気がした。
「屋形島へ行くつもりかい? それともヤギシフ本社?」
まず屋形島へ行っていっちゃんとアイを救い出す。それから単身ヤギシフ本社に乗り込んでいって全ての元凶をぶん殴る。ツボをついたおすすめツアーだ。
「ハカナちゃんは思ったより脳筋なんだね」
「脳筋?」
金を納めること、ではなさそうだ。というか今はその意味などどうでもいい。
「頼む。大家さん、教えてくれ。エリオットと知り合いということはその手の事情も知っているはずだ」
大家さんは答えずにちらりと部屋の隅のシュロを見た。
「やめておいたほうがいい。敵はただ強いだけでなくとてつもなく大きい。海に喧嘩をふっかけるようなもんだよ」
言い得て妙。たしかにそのとおりかもしれない。しかしだ。
「実際に島にいた私には分かる。奴らは法を超えた組織。警察も消防も役所だってあてにならない。だとしたら戦えるのは私しかいないだろう?」
いっちゃんもアイもあのくらいでくたばるようなタマではないはずだし、二人はヤギシフから見ても利用価値がある人材だ。生存している可能性はある。
「収容所の友達のことか。彼らは自らを犠牲にハカナちゃんを助けたのにそのハカナちゃんがノコノコと戻ってきたらば、それはあまりにもお粗末だとは思わないかい?」
彼らの犠牲を無駄にするなと。大家さんはそう言いたいのか。
「思わない。もともと奴らの気まぐれで生かされていた命だ。友達を助けるために使って何が悪い」
大家さんはどうせぬくぬくと育ってきたのだ。私の気持ちなど分かってたまるか。
「命を粗末にするもんじゃない。君のお父さんお母さんから受け継いだ大切な命だぞ」
「私の両親は御庭番衆だ。ヤギシフのイヌとして非合法活動にあたっていた悪人。そんな者のことなどなんとも思わない」
大家さんは一瞬悲しそうな顔をしたがすぐ真顔に戻った。
私は流そうとする大家さんに詰め寄った。世の中ことなかれ主義だけでは生きていけないのは自明の理だ。
「いいから教えろ。私は本気だ。どうしてもというなら実力行使に出るぞ」
恩人にこんなことを言うのは心苦しいが仕方ない。一刻もはやくいっちゃんとアイを助けたいのだ。
失礼なことを言ったはずなのに大家さんは笑った。
「ハカナちゃんにはかなわないな。よし、分かった。知っていることを話そう。何か役に立つだろう」
第一段階クリア。まずは情報収集だ。




