プロローグ
2つの影が明け方の駅へ歩いていく。月は真上に輝き、太陽は重い腰を上げたようにようやく顔を見せていた。いつも歩いていた道だ。だが、今日が最後だと思うと何か違って見えた。線路沿いの上り坂をやっとの思いで登りきった時、まるで門出を祝うかのように迎えてくれた朝焼けがあまりにも綺麗で、僕の隣を歩いていた君は嬉しそうに笑っていた。僕は少し冷たい風が痛くてマフラーに顔を埋めていた。これだけの付き合いだ。顔なんて見なくても声を聞くだけで君の表情なんてすぐにわかる。僕は汗をかいて擦ったせいで赤くなった目元を君には見られたくなくてマフラーから顔を出せなかったけれど。
券売機で一番端の一番高い切符が君を連れて行く街を僕はまだよく知らない。数多ある券の中で一番安い入場券をすぐに使うのに大事にしまった。いつもは切符が出てくるのがじれったいと思っているのに、今日に限って素直に出てくるのが腹立たしかった。この前一緒に買いに行った大きな鞄を改札に引っ掛けてうまく通れなかった君は僕をニコッと笑って見つめた。見つめられた僕は鞄の紐をそっと手をかけた。あんなに頑なに引っかかっていた鞄の紐は驚くほど素直に外れ、僕の手から抜けていった。
向こうでお母さんが待ってるんだ。とか君は楽しそうに僕に話しかけてくる。いつもあったこの充実した時間。これで最後になるのだろう。そう思うと考えないようにしていた後悔がどっと押し寄せた。いつも通り。その時間はあっという間に過ぎる。ホームベルが君との最後を告げる。君はたった一歩を踏み出す。何万歩、何億歩よりも遠い一歩。そして君は僕のほうを振り返り「いつの日か必ず、必ずまた会おうね。約束だよ!」と言う。僕は少し俯いたまま見送った。だが、その約束は永遠に果たされることはなかった。




