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自殺請負人ー依頼は、命の終わらせ方ー  作者: マイライト
気乗りしない英雄

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第三十八話:祭りの声にまぎれて

【注意事項】

本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。

読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。

心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。


※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。

バザーの近くのホテルの一室にて。


「いやー疲れた。すまんな、夏目、事件の処理で少し遅れてしまって」


「いや、全然大丈夫。それよりも呼び込みありがとね。お兄ちゃんのおかげで、より沢山の方と交流できたよ」


「で、どんな感じなんだ、売れ行きは?」


一番売れたのは、竹を使ったクローバーの形や豚の形など、色んな形のキーホルダー。

意外と売れたのは、ペンを長押しすると上部が光るボールペンと、チョーカー型の変声機だった。


「中々の売れ行きだった。三日目まで持つか不安だよ……」


「そうか……なら、お客さんに住所を書かせて、後日発送することにしよう」


「了解。晴沢の兄ちゃん」


二日目


明朝4時。

俺は昨日と同じ場所に向かった。だが、そこには誰もいなかった。


その時、長澤さんが来た。

「おはよう。あれ、店長は?」


「おはようございます。まだ見えてなくて」


長澤さんは携帯を取り出し、

「電話するからちょっと待ってて……」


数分後。

呆れた顔をした長澤さんが戻ってきた。


「寝坊して今から向かうって」


「そうですか……」


こうして二日目が始まった。


しばらくして、店長がやってきた。


「ごめんな、あか」


「申し訳ないです。長澤さん、ありがとうございました」


「あ、そうだ。これ」

店長はおもむろに麦わら帽子を取り出した。


「これで少しでも暑さをしのいでくれ」


実際に被った俺の後ろ姿を見て、店長は笑った。

「なんか、人気漫画の主人公みたいだな」


あまりにも似ていたため、店長は言った。

「あか、お前三日間が終わったら、それやるよ」


「……あか、今日も頼むな。よし、じゃあ今日もやるぞ!」


「頼むって何をです?」


「その……延長とか……な?」


「考えておきます」


今日も大盛況だった。

アルバイト仲間たちも次第に集まってきて、気づけば時計は13時を指していた。


店長が訪れ、新作を差し出す。

「あか、これ新作どう?」


小さなチュロスだった。


「美味しいです! とても甘くて」


「長澤さんは?」


「私は甘いの苦手だからいらないよ」


「あ、そう。あか、食べるか?」


「はい、いただきます」


次第にバザーのお客様も増えていった。


焼きそばの香ばしい匂い。

子どもたちの笑い声。

カメラを持った雑誌記者や、ラジオ局のスタッフたち――。


やがて、地元の新聞や雑誌社も現れ、初日以上の盛り上がりを見せた。


そして、もう一人。

リポーターがこの地に降り立つ。


「はーい、名古です! 午前中に引き続き、赤林町バザー二日目を取材しています。昨日よりもさらに賑わっています!」


軽快な声と共に、ラジオリポーターの名古が《並並並》の近くに現れた。

大きなマイクを掲げ、ひときわ明るい笑顔を浮かべている。

「今度のお店はこちら。人気の喫茶《並並並》さんに来ています。店長さん、今日はどんな商品をご用意されているんですか?」

「こんにちは。今日は新作でチュロスを出してるんですよ。外はカリッと、中はふわっと。子どもさんからお年寄りまで楽しめるように工夫しました。ぜひ皆さん味わってください」


 店長がにこやかに答えると、取材スタッフが商品を映し、ラジオの収録機材が忙しなく動いた。

 長澤さんも横で笑顔を見せ、俺も一緒に「こんにちは」と声をそろえた。


 名古はチュロスを受け取り、マイクにかざしながら実況する。

「わあ、見てください! 細長い生地に砂糖がたっぷりまぶされて……まだ湯気が出ています! それでは、いただきます!」

 ひと口かじった瞬間、サクッという音がマイクに響いた。


「おいしい! 外はカリカリ、中はもちっとして……ほんのりシナモンの香り! これは止まらない味ですね!」


 周りで見ていた子どもたちが「いいなー!」と声を上げ、母親たちが財布を手に列を作る。店の前には一気に活気が広がった。


「長澤さんもスタッフなんですか?」

 名古が隣で手際よく惣菜を詰めるおばあさんに声をかける。


「ええ、ちょっと手伝ってるだけですよ」

 長澤さんは恥ずかしそうに笑ったが、その手は止まらない。数秒で唐揚げやたこ焼き、焼きそばを詰め終え、次の客に差し出す姿に、名古は感嘆の声を上げた。


「すごい! まるで職人技ですね! 皆さんの力でこのお店は支えられているんですね」


昼時。会場は人で埋め尽くされ、熱気と香りでむせかえるようだった。

 唐揚げを揚げる油の音、たこ焼きを返す鉄串のカチカチという響き、焼きそばの鉄板から上がる湯気とソースの甘辛い匂い。それらがごちゃまぜになって、まるでお祭りの一幕のように広がっていた。


「はーい! 本日は赤林町のバザーから生中継です!」

 リポーターの名古が声を張り上げると、客たちは自然と笑顔で耳を傾けた。


「こちらは喫茶《並並並》さん! すごい賑わいですね! まずはこの香り、唐揚げからご紹介しましょう!」


 名古は揚げ物コーナーへ向かい、80歳の長澤さんが黙々と唐揚げをタッパーに詰める姿を映し出した。

 小柄な体で、一秒もかからずに5個を整然と詰めてしまう。その手際に、名古は思わず声を上げた。


「いやー! まるで魔法のような速さ! これは“唐揚げの達人”ですね!」

「いえいえ、慣れてるだけですよ」

 長澤さんは照れ笑いしながらも、すぐに次の注文へ。


「続いては……おっと、こちらはたこ焼きコーナー! お兄さん、お名前は?」

「山本です、大学生で、バイトで手伝ってます」


「見てください! まんまるでふわふわ、外はカリッと中はトロッと! 今ちょうど焼きたてですよ!」

 山本が笑ってひとつ差し出すと、名古は口に運んだ。

「熱っ……でも旨い! 中からタコがプリッと出てきますね!」


 客の子どもたちが「僕も食べたい!」と声を上げ、母親たちが財布を取り出す。


「そしてこちらが焼きそばコーナー! 留学生のリャンさんが担当されています!」

 異国訛りの日本語でリャンは笑い、「ソースはたっぷり、でも塩味も人気デス」と説明しながら鉄板を操る。

 湯気とソースの香りに引き寄せられ、人だかりはますます膨れ上がっていく。


 名古はマイクを掲げながらまとめた。

「唐揚げ、たこ焼き、焼きそば、そして新作チュロス! それぞれのスタッフさんが汗を流しながら心を込めて作っているからこそ、この活気が生まれているんですね!」


 拍手と笑い声が広がる中、あかしは唐揚げを詰める手を止め、一瞬だけ会場を見渡した。

 人々の笑顔、商品を手に取って喜ぶ姿。そこに、ほんのわずかだが、自分も関わっているという実感が胸に残った。




やがて少し客足が落ち着いたタイミングで、俺は店長に声をかけた。


「じゃあ、店長。あがります。お疲れさまでした」


「あか、色々ごめんな」


茶封筒と唐揚げ、焼きそば、そしてペットボトルを6本渡される。


「今更いいですよ。全然気にしないでください!」


その輪の少し外側で、やっさんが煙草を手に持ちながら静かに様子を見ていた。


「やっさん、いつの間に……」


「おう、あか。お前、板についてきたじゃねぇか」


軽口を叩きながら近づいてきたやっさんは、俺の肩を軽く叩いた。

その仕草に懐かしささえ覚え、思わず少し笑った。


「皆さんのおかげです」


「へっ、謙虚でいいこった……」


「え、もう帰っちゃうんですか?」


「そうそう。顔だけ見に来たんだ。邪魔しちゃ悪いと思ってな。……お前ら、えらい頑張ってるな。じゃあ、またあとで」


やっさんは短く笑った。


「……悪くねえな。人に必要とされるのって、こんな感じだったんだな」

いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。


重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。


彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。


一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。


次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。


次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

次回更新日:10月05日 14時,18時,22時(社会情勢によって変動。)

次回予告:給料で購入したものは・・・

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