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魔法で荷物お運びします!  作者: 耳折れ猫
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配達人の矜持

 その日は久しぶりに雪が降らない晴れた日だった。

私はお休みの日に先生のお誕生プレゼントを買いに、王都の貴族街の近くにある商店に出かけた。


 先生は字を書くお仕事だからペン軸とかいくらあっても大丈夫よね。

 私は文房具店に行ってキレイなペン軸を買おうと歩道を歩いていた。


 ふと反対側を見ると、馬車が止まって人が降りてくるのが見えた。


「あれっ、シャーラン君?」


 馬車から降りて来たのはシャーラン君だった。

 シャーラン君と一緒に女性が降りてきたが、女性が何か言うとシャーラン君が女性に手を伸ばして女性をエスコートして馬車から歩いて行った。


 あの女性は、たしかウェナの領主のミドルノン伯爵のお嬢様よね?アイルーシャ様だったかしら?


 シャーラン君にエスコートされたアイルーシャ様は、チラッと私の方を見たと思ったけど、そのまま2人は店の中に入って行った。


 そういえば、王立学園の寮に入ったシャーラン君とはしばらく会っていない。

 

 収納空間の温度を変えれるようになったんだよ。

 クゥとお料理の宅配をしているんだよ。

 売り上げがトップになったんだよ。


 話したい事はたくさんあるのに、シャーラン君がなぜか遠い所に行ったような気がして、私は呼びかける事ができなかった。


 しばらくしたある日、飛行運送ギルドの事務員さんからミドルノン伯爵の王都のお屋敷に赤銀亭の冬ランチを3人前配達してくれと注文が入ってると聞いた。


「えっ、王都のお屋敷の方へですか?領地ではなく?」


「そうなのよ。王都のお屋敷なら、わざわざ飛行運送ギルドに依頼しなくても使用人に買いに行かせれば良いじゃない?

 配達料は規定の料金をいただきますよ?って聞いたんだけど、それで良いって言うのよ。どうする?」


「先方が了承しておられるなら配達しに行きますけど」


 私は赤銀亭の冬ランチを3人前買うと乗り合い馬車に乗ってミドルノン伯爵邸に行った。

裏口に回って、「飛行運送ギルドの者ですが」と声を掛けたら、いきなり腕を引っ張られて中に連れ込まれた。


「ちょ…何を?」


 急に腕を引っ張られた意味がわからず相手を見ると

アイルーシャお嬢様だった。


「何なんですか?急に引っ張って」


 私は腕を引っ張られた所が痛かったので多少不機嫌な声でも許して欲しい。こんな失礼な対応をされる貴族家は他に無いのだ。


「本当に空間収納に料理を入れているのね。教会で授かった貴族しか得られないスキルでお料理を運ぶなんて信じられないわ。それも裏口からコソコソと」


「お料理を注文されたんじゃないんですか?いらないなら持って帰りますよ?代金は頂きますけど」


「あっ、頂くわよ。応接室にシャーラン様がいらっしゃるからお出ししてちょうだい」


はは〜ん、そういう事か…


「私の仕事は料理をお屋敷に運ぶ事です。お客様に出すのは私の仕事ではありません。それから配達人は裏口から入るのが常識で、コソコソと言われる筋合いはございません」


「まあ、生意気な…」


「彼女の言う通りですよ」


 屋敷の裏口に応接室にいたと言っていたシャーラン君が現れた。


「シャーランさま…ねぇ、彼女は配達人のくせに生意気でございませんこと?」アイルーシャ様は私の方を睨みながらそう言った。


「配達人が表の玄関から入る方がおかしいですよ。

彼女の方が正解です。それに料理を配膳するのはメイドの仕事でしょう?なぜ彼女が断ったら生意気と言われなければならないのですか?」


 まさかシャーラン君が否定するとは思わなかったのだろう。アイルーシャ様は慌てて言い募った。


「だってだって…、そうよ、貴族は空間収納に荷物を入れないのが美徳とされているのよ!それなのに、この人は空間収納にお料理を入れるなんて非常識よ!美しくないわ!」


「何を騒いでいるのです!」


「お母様!」


 大勢で騒いでいたので、屋敷にいたミドルノン伯爵夫人までいらっしゃったようだ。


「飛行運送ギルドの者が空間収納に料理を入れて配達しているのです!貴族が神授の儀式で頂く神聖なスキルなのに!

貴族が小物を少ししか入れない空間収納にお料理を入れてるんですよ!お下品ですわ!」


「あなたは…」ミドルノン伯爵夫人は私の顔を見て言った。


「アイルーシャ、貴女は勘違いをしています。貴族が空間収納に少ししか入れないのではありません。

年を取ったり魔力が減ると、空間収納に入れる事ができなくなるのです」


「えっ、そんな話聞いた事がありません!」


「神授の儀式でいただいたスキルが使えないのですもの、皆さん恥ずかしくて言わないだけです。

女性が扇を出して持っている方は大概、魔力が無くなって空間収納が使えなくなった方よ。

皆さん薄々わかっているから言わないのです」


 夫人は私の顔を見て言った。


「副町長のクレーバーから聞きました。貴女がウェナの地震の時に空間収納に全員の住民台帳を入れて避難してくださった事を。

住民台帳には国から援助を受ける時に必要な事柄や、税金の納付額のような重要な情報が記入されていて、失っていたら大変な事になっていたと。

貴女の空間収納は素晴らしい能力です。蔑まれるような物では無いわ」


 私は夫人の言葉に誇らしい気持ちになった。


「アイルーシャ、私は貴女の育て方を間違えていたようです。人を陥れて辱めようなんて、そんな娘に育ってしまったなんて母は恥ずかしいわ!

今から教育的指導をしますから私の部屋にいらっしゃい!

あっ、シャーラン様、ダンスの練習はまた後日お願いしますね。ジェンナさんを送っていただけたら嬉しいわ」


 そして夫人は執事に私に料理の配達料を払うように言ってアイルーシャお嬢様を連れて行った。

 残されたシャーラン君に私は聞いてみた。


「シャーラン君の空間収納って何が入ってるの?」


「俺の収納の中はクゥのおやつが入ってるぞ!虫入りのどんぐりがバケツに3杯くらい」


「ぷっ!それはクゥが大喜びするわね」


 そしてミドルノン伯爵邸を出た私達は、離発着場の廐舎に行って、クゥにおやつの虫入りどんぐりを食べさせた。

 シャーラン君は王立学園の卒業を早める為に必修科目のダンスをコンクールで良い成績を取る事で免除してもらおうとしたそうだ。

自分のパートナーになってくれたら自邸にダンス教師を呼んでいるから特訓してもらえるとアイルーシャ様に言われ、パートナーになったと言っていた。

 先日の買い物はダンスコンクールで履くシューズを買いに行っていたとか。


 アイルーシャ様は、なぜあれほど私を敵視されるのだろう?

そんなに敵視されるような事を私はしていないと思うのだけど…。

 またあれか?先生の小説に出てくるマウント合戦?

 私は貴族でもありませんし関わる事が無いので見逃してください!

 


 私はその日、シャーラン君に収納空間の温度を変えられるようになった話をしていっぱい褒めてもらった。


 明日からも料理を運んでたくさんの人に喜んでもらうぞ!



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