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魔法で荷物お運びします!  作者: 耳折れ猫
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リジス.ブレナン 作家

 私はリジス・ベルモンド。42才。

ベルモンド前侯爵の長女として生まれた。

今は父が亡くなって、跡を長兄が継いでいる。


 この国では、普通の貴族令嬢は7才になると王立学園で学び、16才の卒業と同時に父親の決めた相手と結婚して子供を産む。

 私がそのレールから外れたのは、5才で受けた「神授の儀式」からだった。

 生まれつき魔力が多かった私は、普通は1つしか得られないスキルを2つ授かった。一つは皆が持っている「空間収納」。

もう一つが珍しい「色判別」というスキルだった。

 これは人が嬉しかったり嫌だと思ったりする感情が、その人のオーラの色で判別できるのだ。

 私は5才にして人の発する言葉と感情が違う事があるとを知って大変混乱した。

 尊敬していた父が母に嘘をついて出かけているとか、仲が良いと思っていた両親が本当は嫌いあっているとかわかるようになったのだ。

 父は仕事だと言って愛人の元に通い、母は私に「私のかわいいリジス」と言ってどす黒いオーラに包まれていた。

 

 そうやって小さな頃から人間を観察してきたので、冷めた子供らしく無い子供だった。

 でもその人間観察を重ねる事で、その人が今どうして欲しいのか、何を考えているのかだいたいわかるようになっていた。

 だから王立学園を卒業する前に父から結婚話を持ちかけられた時、断って大学に進学し王宮侍女になった。

 両親のような結婚をしたくなかったのである。


 王宮侍女は楽しかった。侯爵令嬢である私がお世話をするのは、王宮でも位の高い方ばかり。

オーラの色で、その人の感情がだいたいわかるのだ。何がやって欲しくて、何が気に入らないか口に出さなくても悟る侍女が気に入られない訳が無い。

 私はまんまと王族のお気に入り侍女という立場を得たのである。


 そして私はもう一つ楽しみを見つけた。

王宮侍女という王宮の内部からしか見えない王宮の恋愛事情だ。

 秘書官と侍女の恋。騎士とメイドの結ばれない恋。

貴族男性の道ならぬ恋。

 たくさんの人が交差する王宮は、そんな「ネタ」の宝庫だった。

 私はそんな恋物語を登場人物をいじり、ちょっと面白おかしくして小説にしたのだが、それが同僚から同僚へ。そこから王族方へとあっという間に広がっていったのは、自分でも想像していなかった。

 

 どこからどう伝わったのか、ある出版社からその小説を商業出版しませんか?と話があり、出版された本は、あれよあれよという間に大ヒットして、私は売れっ子作家になった。

 数年後、売れっ子作家になって仕事に執筆にと忙しい生活を送っていた頃、侍女長が定年退職されて、私は国王陛下の抜擢で侍女長になった。


 侍女長は管理職である。

今までの慣れた女性だけの集団と違い、侍従職や騎士団、商人、貴族など色々な人とのやり取りが始まった。

 しかしそれは私のように言葉の裏が見える者にとっては、苦痛の多い仕事でもあった。

 しかも仕事がいくらやっても次から次へとやってきて終わらないのである。

 精神がガリガリ削られて、あれだけ楽しかった小説を書くことが出来なくなってしまった。


 侍女長になってまだ1年。ここで投げ出す訳にはいかないと、もう作家を引退しようと思っていたら、王太后陛下以下、王族女性が揃って国王陛下を取り囲んで私の作家としての価値を力説してくださって、国王陛下は侍女長の退職を認めて下さった。

 私は侍女長を辞めて、専業作家リジス・ブレナンとして第二の人生を歩む事になったのだ。



  (ジェンナとの出会い)


「あの〜、目的地はそこのマーキュリー男爵邸だった屋敷ですか?」


「そうなのよ、もう少しなんだから荷台を変えるより人海戦術で運んだ方が早いと思わない?

 まったく馬の扱い方も酷かったし、もうあの運送屋は使わないわ!」


「それでしたら、私が運びましょうか?私の収納空間に今3000冊の本が入っているんですけど、それを屋敷の玄関に出させてもらえたら、この荷物を全部収納空間に入れて運びますよ!」


「あなたの収納空間ってそんなに本が入るの?信じられないわ」


「でしたら、貴女の目の前でやってみますので屋敷の鍵を開けてくださいませんか?」




 そしてあの日、私はジェンナ・マーキュリーと出会った。

 初めて見た無色透明のオーラの持ち主。

彼女は色判別しなくても、顔と感情が見事に一致していた。

 取り繕う事を常とする貴族令嬢らしくない女性。

私はすぐにこの女の子に興味を持って、屋敷に一緒に住まないかと持ちかけた。


 図書室に入れた彼女が空間収納に入れていた本を見ると、私の書いたシリーズ本は全部初版で揃っていた。最初の頃は発行部数も少なかったはずだ。

 初版を手に入れようと思ったら発売日に並んで買ってくれたのだろう。

 彼女の「大ファンです」という言葉は、くすぐったいような何とも言えない嬉しさを感じた。


 他の本を捲ると、それは王立図書館の本を写本した学術書や論文で驚いた。

 まだ15才だと言っていたが、本当に彼女がこれを全部理解して写したのだろうか?

 これだけの高度な内容を大学に通わずに理解しているとしたら彼女は天才ではないか。

 後で聞くと、父親の女性蔑視の教育論のせいで王立学園にも通わずに自力でこれだけの学力を付けたのだと言う。

 それを聞いて、彼女は王立学園で天井の決まった教育を受けなくて良かったのかもしれないと思った。

 自分の興味の向くままに限界を決めずに学んだ彼女では、学園の教育はつまらなかっただろう。

 それにジェンナの収納空間はありえない程大きい。

 私は自分で自分の限界を作る事の怖さをつくづく感じたのだった。



「え〜!また覚えるの?」


「そうよ、これを覚えたら、こっちを読んで書くの。

それが終わったらこっちの計算をしてみましょう」


 聞こえてきた少年の声に私は応接室の扉からちょっと覗いてみた。

 今日は孤児院の少年アルフと、[空の民]のシャーラン君の勉強会だったわね。

 学園に行っていないジェンナの教育法は変わっている。

「覚えて読んで書く」の繰り返しだ。

 同じ事をしているようだが、ジェンナお手製の参考書を覚えて読んで書くを繰り返す事で着実に身に着けていっているのだ。

 飽きる頃にトランプでゲームが始まったり、お菓子を食べながら雑談したりと飽きさせない工夫がされている。

 学園に通っていないジェンナだからからこその自由な教育法なのだろう。

 ほんの短期間で2人は本を読めるようになり、字を書けるようになり、計算ができるようになった。

 ジェンナは教育者としても優秀なのかもしれない。

 ジェンナ達が大学に入ったらどんな研究をするのか今から楽しみである。

 私はそっと応接室の扉を閉めて、メイドに美味しいお菓子を買いに行くよう命じた。



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