ランド男爵領
次の日、先生は朝からお城に出かけて、私とシャーラン君が先に里に行く事になった。
私はシャーラン君の家で先生達が来るのを待つ事になったのだが、明るい所で見る[空の民]の民家は、地震でいたる所が壊れて、生活にも支障が出ている事が一目でわかった。
この里の民家は全て平屋で石や木でできているのだが、シャーラン君の家も使える部屋は1つだけで、他の台所や浴室など全て崩れてしまっていた。
お母さんは近所と共同で作ったかまどで料理をして、川で水浴びや洗濯をしているのだと言う。
この間泊めてもらった族長の家だけ修理が完了していると聞いて、冬が来る前に急いで修理しなければ大変な事になりそうだと思った。
昼過ぎに先生達が赤飛竜に乗ってやってきた。
族長の家に集まったのは、[空の民]が族長と叔父さん、王都からが先生と出版社のスローンさんと販売のメイカーさん、それにお城の文官2人だった。
「これはこれは皆さん王都からお越し下さりありがとうございます。さて、今日はこのような所にお集まり頂いて何かありましたかな?」
突然王都から来た私達に族長は戸惑っているようだった。
「ええ、突然参りましたのは理由がございます。
このままだと脱税の疑いで族長が収監される事態になりますので、それを防ぐために参りましたの」
「何と!我々が脱税でございますか?」
先生の言葉に族長も叔父さんもビックリして腰を浮かした。
「ええ、ここ[空の民]の里は、どこの国にも属さない自治州になっておりましたよね?ですから、どの国からも干渉を受けない代わりに税金を払う必要が無かったわけです。
それがあなた方は、飛竜で運送業を始めたいとベルーガ王国の運送ギルドに所属して業務を始められた」
「はい、さようでございます」
「ベルーガ王国の運送ギルドで収益を上げたのですから、その分は税金をベルーガ王国に納めなければなりません。しかし、ベルーガ王国に税金が1ゴールドも支払われておりませんでした。これはどういう事でしょう?」
「おい、運送ギルドとの契約はお前がやっていたな?どうなっておるのだ?」
族長は息子であるテムランに聞いた。
「えーと、それは運送ギルドの方から支払われているはずです」
「失礼、私、王国会計士をしております、スーザン・マクレガンと申します。王国の会計によりますと、運送ギルドからは全く支払われておりません。
今までの滞納金が500万ゴールドになっていますが、いつ払っていただけますか?」
「500万だとっ!ちょっと待ってくれ!俺は読み書きができないから、城に届ける書類は全部運送ギルドがやってくれるって話だったんだ!その分こっちの利益を減らすからって7:3で手を打ったんだぞ!
取るなら運送ギルドから支払わせるのが筋だろっ!」
「その契約書はどちらにありますか?」
「だからそんな書類は無いって言ってるだろうが!」
「困りましたね。それではやはり族長とテムラン氏は裁判を受けて頂かないといけません。
良くて国外追放、悪くてムチウチ刑の後に強制労働でしょうが?」
「ひっ、強制労働!」族長とテムランは驚いて椅子から飛び上がった。
「困りましたね。誰か代わりに支払っていただけそうな方はいらっしゃいませんか?
あっそうですね。こちらの里に陛下から男爵位を授けられる貴族の方がいらっしゃるはずなのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
皆が男爵になると息巻いていたテムランを見た。
「あっ、男爵位はですね、兄のページャンが受けたので、その息子のシャーランが男爵位を継ぐ事になりました。だから支払いはシャーランがします!」
叔父さんはいきなり立場を変えてシャーランに全てを押し付けようとした。
「えっ、俺?」
いきなり指名されたシャーラン君は驚いていたが、「わかりました!俺が男爵になって、一生かかっても働いて納めます。だから族長と叔父さんを捕まえないで下さい!」と答えた。
祖父である族長は、税金の滞納がテムランの過失で、ようやく全てがテムランの企みだったとわかったようだった。
「シャーラン、老眼で書類の確認が出来なかったとはいえ、テムランの言いなりになっていてすまなかった。許しておくれ」と謝った。
長男のページャンが大学の教授と飛竜で遠征しているうちに学力を付けて、大学に誘われるほど優秀だったので、二男がまさか読み書きもできなかったとは想像もしていなかったと族長は酷く悔いていた。
「そこで族長、ご相談なのですが?」
もう1人の文官のフォンレイ・カーボン氏が説明しだした。
「ベルーガ王国では、正式にこの里をランド男爵領としてベルーガ王国に編入したいのです。
ベルーガ王国になりましたら、今回の地震の被害に遭われた家屋や道はベルーガ王国で修復させて頂きます」
族長が「本当ですか!」と身を乗り出してきた。
カーボン氏は続けて話す。
「私達は、先日の飛竜による本の配送の様子を見て、これは王国にとって有用であると判断しました。
王城から各地の領地に至急連絡したい時や、配達しなければならない書類が、馬車では遅くて間に合わない物があるのです。
それを飛竜で担ってもらいたいのです。
これは地上運送を目的にする運送ギルドではカバーできませんので、新たに飛行運送ギルドを作り加入していただいて仕事を依頼するという形になりますが、いかがでしょう?」
「今の運送ギルドとの契約はどうなりますか?」
シャーラン君の質問にカーボンさんが答えた。
「調べましたところ、運送ギルドは城の方にこちらとの契約は5:5になっているという報告をしており、高額の報酬を受け取っていたにも関わらず、その分の税金を支払っておりませんでした。
今回その懲罰でギルド長は更迭され、担当者も処罰されました。
今までの契約は破棄され、運送ギルドとの契約は無くなったのですよ。
たしかシャーラン殿は15才でしたね?来年あなたが成人して男爵位を叙爵したら、この里は正式にランド男爵領になります。
ですから男爵と飛行運送ギルドが新たな契約を結ぶ事になるのです。
それからベルーガ王国が。あなたに未払い税金分の金額を貸し付ける事になります。
あなたは飛行運送ギルドであがった収益からそれを返済してください」
「えっ、ではこの里を男爵領にしてベルーガ王国に編入したら、地震の復旧は国がやってくださるうえに、未払いの税金も飛行運送ギルドに入ったら、支払いを延期してくださるのですか?族長と叔父も罪に問われる事は無いのですよね?」
「そうです。どうですか?シャーラン君…いえ、ランド男爵。ベルーガ王国に編入して飛行運送ギルドに加入しますか?」
「はい!よろしくお願いします!」
「承知しました。では明日にでも工務部から人を向かわせましょう。工事をする人員と資材を見積もって資材の発注をしなければなりません。明日王都にいらっしゃるなら赤飛竜で運んでいただけますか?もちろんその費用も国から支払いますよ」
族長とシャーラン君は、その後手続きをして里は正式にベルーガ王国ランド男爵領になる事になった、
「あんなに山積みになっていた里の問題が一挙に片付いて夢を見ているようです」
シャーラン君の言葉に先生は、「そうでも無いわよ。飛竜便が有益だと思ったから、国で抱え込もうとしたわけだし、これからは国の意向に逆らえなくなるでしょうね。飛竜便をもっと増やすよう飛竜の数を増やさなければならないし、乗り手の数も増やさなければならないわ。シャーラン君、やらなければならない事は山積みよ。あなたは飛竜とこの里の人々を、その肩に背負っていかなければならないのだけど大丈夫かしら?」
しばらく考えてシャーラン君は答えた。
「はい、飛竜もこの里も全部俺の宝物なんです!宝物を守る為なら俺頑張ります!」
力強いシャーラン君の言葉に先生は頷いた。
「そうね。その宝物を守る為にも飛竜の事をもっと知らなければならないわ。飛竜を増やさないと借金が返せないもの。王立大学のダストン教授から伝言よ。
「再来年の入学試験に合格して、我が研究室に来るように!」ですって!シャーラン君はまずお勉強頑張りましょうか」
「それからジェンナ!」
「はいっ!!」
「あなたの収入の件だけど、ギルドには10才になると入る事ができるの。正式にギルドの会員になると、そこでの収入は未成年でも自分で管理できるのよ。
つまり、あなたのお父様があなたが得た収入を横取りできなくなるのよ。だからあなたも飛行運送ギルドに入ったら良いと思うのだけど、どうする?」
「わかりました!飛行運送ギルドに入ります!」私は瞬時に返事をした。
こうして私達は話し合いを終えて王都に帰ったのだった。




