プロローグ。 第1巻
プロローグ第一部。
霊界は煌めく霧と煌くエネルギーの閃光に包まれていた。物質界と並行するこの場所において、エネルギーの流れに浮かぶ一つの遠い島で、二つの存在の密会が行われていた。壁が光る結晶の細線が走る黒いオブシディアンで覆われた、放棄されたパンテオンの玉座の間には、二人が立っていた――神モル(Mor)と、その名は地下宮殿よりも古く、恐れのあまり神々さえもが震えて囁く死の女神エレシュキガルである。
モル(Mor)は死の女神の隣に立ち、約三メートルの巨躯で彼女の小さな背丈を圧倒していた。彼の肌は、古代の塵の層で覆われ、金色の炎の閃光が走る刺青の文様が施されたかのように、鈍い銀色に輝いていた。夜のように黒い髪と銀の煌めく糸で編まれた長い顎髯は、腰まで伸びていた。神の眼は内部から冷たい青い炎のように輝き、まばたきもせず女神を見据えていた。その眼差しには疑念と慎重さが読み取れた。神は黒い金属の鎧を身に纏い、宝石がはめ込まれ、息づかいに合わせて微かに脈打つ銀のルーンが刻まれていた。肩には、真夜中の空の色の羽と月の色の眼を持つカラスが座り、神の取引の黙祷者となっていた。
「君は多くを求めている、妹よ」――低く鳴るような声でモル(Mor)は言った。影のマントを纏ったその姿が、わずかに揺れた。 「英雄の流れから魂を盗むとは……これは単なる均衡の乱れではない。我々の世界を定める神の法に対する挑戦だ」
エレシュキガルは彼の言葉に顔を傾げ、思案した。思案の過程で、女神の姿は絶えず変化した。彼女は空洞の眼窠を持つ老いた老婆にも、蒼白な肌と五尺に及ぶ黒髪で琥珀色の眼を煌かせた若い乙女にもなった。姿の移行の瞬間、彼女の周りを死者の幽霊のシルエットが回っていた――死の女神の黙祷者である。
「私に選択肢はない」――彼女は答えた。「ラ(Ra)とセト(Set)は多年前に私のパンテオンを滅ぼした。エーテルの源を奪い、地下宮殿を奪われた。私は自身が死を免れ、今は吸血鬼が与えてくれる僅かな欠片にすがって生きている。あと百年もすれば、私は忘却の中に溶け、物質界に影響を及ぼすこともできなくなる。我々神にとっては事実上の死に等しい。永遠の流れに溶け込み、理性を失い、無へと消えていくというのに、霊界に閉じ込められてゆっくりと衰えることに何の価値がある?」
答えとしてモル(Mor)はただ嗤い、ガラスが岩に擦れるような音を立てた。 「それで吸血鬼たちか? 君になんの得があるというんだ、どんな利益だ?」 「彼らも、私と同じく深淵の縁に立っている。人間とエルフとの戦争の結果、彼らの神は追放され、創設者ヴィクトル(Victor)は殺され、多くの主要な一族が殺されて数に取り返しのつかない損害を被った。その末裔で最年少の息子は捕らえられ、地下牢に幽閉されている。以来、創造主なしで吸血鬼の力はゆっくりと衰えている。真の吸血鬼は生まれにくくなり、新生児は以前の世代より弱く、契約で生まれた者は子供の一部を国境の守りや領土拡大のために勝者国家に送らねばならない。彼らはリリスという自分たちの女神を物質界に呼び戻そうとしているが、彼女は封印され、今は霊界で眠り、その眠りはどんどん深くなっている。封印を解くにはヴィクトル(Victor)の末息子しかできず、少なくとも彼らはそう信じている。他のパンテオンの神々から自分の神の守りがなければ、吸血鬼の血統は数世紀の内に堕落し、絶滅するだろう」
モル(Mor)は長い顎髯の髪を手でしみじみと撫で、煌めく液体の入った杯を見た。そこにはまるでスクリーンに映像が映し出されるかのように、過去の光景が映っていた。吸血鬼の戦争、神ラ(Ra)とセト(Set)の介入、原初の島々への撤退、平和の誓約…… 「そして君は何を提案する?」――彼は尋ねた。
「クロノスからの提供情報と私の計算によれば、英雄召喚の儀式は我々の時間から見て15年後に執り行われる。だが君もよく知っているだろう、アストラルでは時間の流れが異なり、移転が必要な全ての魂がそこを通過するのだ。私は流れてくる魂の中から一つ――私の計画に最も適した魂を捕らえたい。君の助けを借りて。そしてその他に、君は幼児の身体を蘇らせ魂を移し替えるための、使い捨てのアーティファクトと構造体を私に渡すだろう。吸血鬼と上位闇エルフの子は、その多くの前例と同じく、生まれた時に死んでいるのだから。また、誕生時から確実にエーテルを吸収し制御できるよう、その身体を改造してほしい。この子が、幽閉された長老の解放とリリスの覚醒への鍵となるだろう」
女神の計画を聞き終えたモル(Mor)は目を細めた。 「身体の改造にエーテル吸収能力か……。対価は何だ?」
エレシュキガルは手を差し伸べ、掌を開いた。そこには、内部で銀の糸が脈打つ、暗紫色の夜空のような三つの大きな結晶が現れた。その出現に、女神の幽霊の僕たちは震えてホールの奥へと退いた。 「エーテル結晶だ。吸血鬼の長老たちが保証として私にくれた。一つにつき、最弱の神の十年分の力が宿っている」
モル(Mor)は考え込んで眉をひそめ、皮膚の刺青がより鮮やかに燃え上がり、眼は欲望に燃えた。 「三つの結晶? 笑止だ。これだけの仕事に対し、私は三十個を要求する」 「そんなに渡された覚えはない」――エレシュキガルは固く答えた。 「信じられんな」――モル(Mor)は冷たく言った。「使い捨ての改造と魂移転のアーティファクト一つ作るだけでも、最低五つは要求される。私がエネルギー操作と魔術具作成の達人であり、沈黙を含めた仕事として、十五個を要求する。そして覚えておけ、私が君と話すのはモラナという女神の依頼だけだ。君のパンテオンの神々の死後、君は忌み嫌われ者だ。誰も君と取引をしたがらない」
この言葉を聞いてエレシュキガルは拳を握りしめ、一瞬その姿は歪み、牙を剥いた恐ろしい仮面を顕した。 「呪われた狡猾者め! 私の立場を知ってて……お前は……」――彼女は嘶いた。「滅びの縁で私を強奪するとは!」 彼女は明らかに渋々ながら腰の袋からさらに十二の同じ結晶を取り出し、神の手に渡した。 「ほら! 取れ! 私にはもうほとんど何も残っていないのだ! ならば私は要求する、改造に完全な精神ブロックを加えろと! 神々からでも遮断し、光の魔法と全ての呪文知識を即座に使用できるようにするのだ!!!」
モル(Mor)は大声で笑い、結晶を集めた。彼の掌で光り輝き、一部のエネルギーを放出すると、肩のカラスがかすれた勝ち誇った鳴き声を上げ、取引の成立を確認したかのようだった。 「君はいつも求めた以上のものを歯で引きちぎってくる。まあいい、喜んで手を貸そう、妹よ。一週間後にまた会おう」――彼は自惚れた口調で言った。 「二度とお前とは関わりたくないわ」――エレシュキガルは歯を食いしばって言った。「――再び必然的な滅びの縁に立たされることがない限りは」
モル(Mor)は再び感染的に哄笑した。 「おお、心配するな。君が私に助けを求めるのは、これが最後ではないのだからな……。だが、今回の君の侮辱的な言葉のせいで、他の者に対するよりも、君の暗黒の悪事への助力の値段は相当に跳ね上がるぞ」
言うが早いか、彼は踵を返し、その姿は徐々に霊界のエネルギーの霧の中に溶けていった。エレシュキガルは神を憎々しげな視線で見送った。彼が完全に消えると、彼女は空虚に向かって怒号した。 「呪われよ、モル(Mor)よ! そして二重に呪われよ、私のパンテオンを破壊したセト(Set)とラ(Ra)よ! 彼らに忘却の罰が下らんことを……」
エネルギーの霧が彼女の周りを濃密にし、渦巻く影の中にその姿を隠した。どこか遠く、物質界では既に召喚の儀式の準備が着々と進められていた。そしてカルオスの地下深くでは、エルフの魔法で封印された吸血鬼の長老が眠っていた。
プロローグ第二部。
エレシュキガルは廃墟となったパンテオンの玉座の間を後にし、渦巻く霊界の霧の中をすり抜けた。彼女の道は、現在生きている神々の誰もが知らぬ秘密の隠れ家へと続いていた。
それは、アストラルの主要なエネルギー流から離れた場所に浮かぶ小さな島に位置していた。島は、幹が金属の光沢を放つ樹木が生い茂る密林と、その間に切り立つ岩肌の鋭い岩山と入り組んだ裂け目に覆われていた。建造物の痕跡はどこにも見られず、すべてがまるで理性ある存在の足がかつて踏み入れたことのないかのように、完全に自然な様相を呈していた。熟練の目だけが、岩の岩角の間にある目立たぬ洞窟を見つけることができた。そこは月の銀色の葉を持つ煌めくツタの帷幕に隠されていた。入口は風景にあまりにも自然に溶け込んでおり、周囲の自然と同化していたため、不規則な岩の壁、垂れ下がるつる、足元の光るキノコの散在が、野生の地域の幻想を作り出していた。
エレシュキガルはこの偶然の裂け目に近づいた。彼女が一歩前へ踏み出すやいなや、ツタが分かれて狭い通路を開け、キノコがより明るく輝き、柔らかな青白い光で道を照らした。神は岩の上にある見えぬルーンに触れると、入口を塞ぐ岩の塊が無音で横へと滑り開いた。
壮麗なパンテオンとは異なり、この隠れ家は規模で圧倒するものではなく、むしろ小規模ながらも豪華で、絶対的に安全なものだった。岩の厚みの中に計画的に掘られた十五の部屋の広さである。磨き上げられた石のモザイク床のある応接室は、気取らない寝室と隣り合っていた。そこではベッドが、宵闇のあらゆる色彩に煌めく柔らかな蜘蛛の絹の掛け布団で覆われていた。隣には温泉水が満たされた浴室があり、山の草の軽い香りが立ち上り、そして冷たい青い炎が絶えず燃え続ける台所があった。
壁は光る水晶の細線が複雑な防御ルーンを形作る、磨き上げられた黒い石で覆われていた。通路の両側には、内部から温かく柔らかな光を放つ水晶の球体の灯りが浮かび、周囲の空間を均等に照らしていた。空気は新鮮で軽く、ほのかにネズの香りがした。
隠れ家のあらゆる隅々は安全性を漂わせていた:魔法のバリアがあらゆる侵入から守り、幻影が悪意ある神々の視界からこれを隠し、警報システムが侵入者の接近を瞬時に女主人に知らせていた。
エレシュキガルは曲がりくねる廊下を進み、応接室の中心で立ち止まった。ここで、自らの秘密の隠れ家の真心において、彼女はようやく緊張を解くことができ、満足げに微笑むと、誰かにではなくむしろ自分自身に語りかけた。
「愚か者め、このモル(Mor)が……私が最初に提示したよりも多くの結晶を駆け引きで得たと思い込んでいる。だが、彼は私が見せた以上に、はるかに多くの結晶を自分の手元に残しておいたことなど微塵も疑っていない。追い詰められた犠牲者を演じるのは難しくなかった――彼の欲が私の手助けをしてくれたのだ。彼は報酬を受け取り、取引の条件を果たすだろう……そして、私がすでに全てを先読みして計算していたことなど露知らずに。
彼女は壁の一つに近づき、ほとんど見えぬルーンに触れると、岩の壁の一部が無音で横へと滑り開き、隠し部屋を露わにした。そこでは、深い紫色のバーベルの枕の上に、内部で銀の糸が脈打つ暗紫色の夜空の色をした大きな結晶が百三個、横たわっていた。エレシュキガルは愉快そうにそれらを数えた。そして軽い微笑みとともに、腰袋から五つの結晶を取り出して再び隠し部屋に戻し、確実に隠した。
袋に残った十の結晶を、両の掌に取り強く握りしめた。一瞬神は凍りつき、結晶から放たれる力の感覚に耳を澄ませ、そして楽しげに一つずつそれらを吸収した。結晶は彼女の本質の中で溶け、体をエネルギーで満たし、心地よい波のような快楽をもたらした。
磨かれたオブシディアンの高い鏡に近づき、エレシュキガルは自らの映し身を見た。そこにいたのは、十七歳ほどの少女で、中背、蒼白な肌と五尺に及ぶ黒髪、そして内部から光り輝く琥珀色の眼を持っていた。神は自らの映し身に微笑んだが、すぐに唇を噛み、思案した。
「若いというのは良いものだ……」――彼女は静かに呟いた。「――たとえ十もの大きなエーテル結晶を全て吸収したとしても、私は元の力の百分の一しか回復していない。悲しいが、予想通りだ。それでも今のところはこれで十分。私は力よりも策略で戦ってきたのだから。残りの結晶は取っておくべきだろう、我がパンテオンの死せる友を蘇らせるのに必要になるのだから」
彼女は一瞬目を閉じ、自らのパンテオンが栄え、地下宮殿が尽きることのないエーテルの源をもたらしていた遠い昔を思い出した。そして、目を鋭く見開き、決然と付け加えた。
「さて、そろそろヴィクトル(Victor)の年長の子供たちを訪ねるとしよう。彼らは私の答えを待っている。全ての詳細を最終的に話し合う時が来た。取引は必ず結ばねばならない。なぜならそれは私の生存だけでなく、倒れた友の未来にも関わるのだから」
言葉とともにエレシュキガルは手を振ると、空中に物質界へと続く入口が煌めき始めた。神は一歩前へ踏み出し、魔法のエネルギーのきらめきの中にその姿を溶かし、壁に残された軽いルーンの煌きと、敬意の礼を示すかのように屈みたたずむ影の囁きだけを残して去った。
プロローグ 第三部
エレシュキガルはポータルから薄暗い隠し部屋へと足を踏み入れた。壁に固定された唯一の松明のかすかな灯りが、不揃いな石積みに揺らめく影を投げかけた。部屋の隅では、若い衛兵が不動のまま立っていていた。二十歳前後の痩せた青年で、蒼白な肌と短く刈り込まれた銀灰色の髪をしていた。氷のように鮮烈な青色の瞳が、神の女王の様子を注意深く見つめていた。彼は、レザーの装飾が施されたフィット感のある黒い鎧を身に纏い、腰には二本の湾曲した短剣が彫刻が施された鞘に収められていた。肩には、翼を広げた鴉を模した刺青が輝いていた。
衛兵は敬意を込めて頭を下げた。 「偉大なるエレシュキガル、お待ちしておりました」と、低く安定した声で言った。「どうぞ、私に続いてください」
彼は踵を返し、松明で道を照らしながら狭い石の回廊を歩き出した。エレシュキガルは彼に続いた。数分後、二人は広い部屋に出た。床は編み藁の畳で覆われ、壁沿いには引き戸の低い木製の棚が並び、簡素な彫刻で竹や鶴が描かれていた。床の間の壁龕には、山と霧の谷の風景が描かれた絹の掛け軸が掛かり、その横には枝垂れ桜の枝が生けられた花瓶が置かれていた。その花弁は、見えない風に吹かれるかのように微かに震えていた。鹿狩りの光景が描かれた軽い襖が、部屋を外界から隔てていた。半透明の紙越しに柔らかな光が差し込み、床に奇妙な影を作り出していた。部屋の隅では、囲炉裏の火がかすかに揺らめき、その上に鋳鉄の鍋が吊るされていた。そこからは、サンダルウッドと緑茶の薫りが漂っていた。
秋の葉の色をした布を掛けた低いテーブルの向こう側に、二人の人物が座っていた。ヴィクトルの子供たちである。
カイトと呼ばれる男性は、背が高く痩身だった。黒い髪はきちんと低い位置で結わえられていたが、いくつかの房が額にこぼれ落ちていた。顔立ちは鋭利ながらも貴族的で、高い頬骨と直線的な鼻、そして内部から赤い光を放つ大きな斑点がある暗灰色の鋭い瞳をしていた。彼は、銀色の波が刺繍された濃紺の着物を身に着け、その上に背中に家紋をつけた黒い羽織を羽織っていた。その家紋は、自分の尾を咬む交差した蛇の紋様だった。
妹のユミは、目に宿る知恵が年若さとは相容れないものだったが、外見はより若く見えた。長く流れるような栗色の髪は赤味が混じっており、翡翠の簪で飾られた複雑な三つ編みに結わえられていた。薄緑色の着物には、銀杏の葉の模様が描かれ、その華奢な体つきを際立たせていた。蜂蜜のような色合いの大きなアーモンド形の瞳にも、内部から光る赤い斑点があり、その視線は柔らかながらもエレシュキガルの一言一句、一挙手一投足を評価するかのように鋭かった。
襖のドアの向こう、引き戸のすぐ傍では、信頼できる使いの老人が不動のまま立っていた。彼は質素な灰色の着物を着ており、姿勢はまっすぐで手は前で組み、視線は遠くを見ているが、耳は部屋の中の一音一音を捉えようとしているかのようだった。
エレシュキガルは畳に足を組んで彼らの向かいに座った。その声は平坦で確固たるものだった。 「あなた方の要望通り、すべての準備を整えました。私は子供を救い、通常ヴァンパイアの子孫には備わらない追加の力を与えることができます。その代償として、以前合意した報酬を要求します。――500個の大型エーテル結晶です」
カイトは軽く頭を垂れ、袖の下に隠した短剣の柄に指が不随意に絡みついたが、声は平静のままだった。 「感謝いたします、偉大なるエレシュキガル」と彼は言った。「あなたの助力は計り知れません。子供を救った後、約束された全てをお渡しすることを、ここにお約束いたします」
ユミは柔らかく言葉を添え、その声は秋の葉のさざめきのようだった。 「待ち望んでも待ち望んでも得られなかった希望を、あなたは私たちに与えてくれます。我が家はあなたに借りを作りました」
エレシュキガルはわずかに緊張を解き、唇に微かな笑みを浮かべた。彼女が答えようとしたその時、襖のドアの向こうから、恐怖に満ちた哀れな声が聞こえてきた。それはカイトに向けられていた。 「カイト様…お邪魔をお許しくださいが、…大変な事態です!」
カイトは頭を素早く上げた。 「言ってみろ、簡潔に」と彼は命じた。 「長男の妻が、予定より二週間早く生きた双子を産みました」と使いの者はまくしたてた。
ユミは眉を驚きに上げた。 「それがどうしたというの? それは喜ばしいことではないの?」
使いの者は目を伏せて口籠った。カイトは眉をひそめた。 「どういうことだ、言え」 「分娩時に、子供たちを救うために帝王切開をせざるを得なかったのです」と使いの者は言葉を絞り出した。「その過程で子供たちの顔に母親の血が付着し、彼らは瞬時に二歳児の身長にまで成長し…すぐさま一人の召使いに飛びかかり、吸血しつくしました。そして、母親を除いて隠れ家にいた約100人の成人全員を――その中には覚醒したヴァンパイアが10人以上いたにもかかわらず――同じように殺すまで続けたのです。今では4、5歳の子供のような姿で、隠れ家の中におり、外に出てきません」
部屋の全員が言葉を失った。ユミは思慮深げに言った。 「母親を殺さなかっただけ、我々は幸運だった。彼女はヴァンパイア・ダークエルフですもの、失うのは惜しいわ。他の者は…別に惜しくはない。所詮は消耗品だもの」
カイトは苛立ちを込めて反論した。 「妹よ、あれは私の信頼する者たちであって、消耗品ではない! だが、もうどうしようもないな」
彼は使いの者に向き直った。 「指示を伝えよ。隠れ家の完全な隔離を実施し、直接接触を避けた観察部隊を派遣することだ。ユミと私がすぐに向かい、全てを解決する」
カイトはゆっくりとエレシュキガルに向き直り、赤い斑点の瞳が冷たい炎を放った。 「ご覧の通り、状況が変わりました」と彼は固く言った。「我がクランは取り返しのつかない被害を受け、今は約束の額を支払う状態ではありません」
エレシュキガルは眉を軽く上げ、琥珀色の瞳が金色の光を放った。 「それは私の責ではありません」と彼女は平坦な声で反論した。「私の契約は、子供を救い、追加の力を与えるための必要な準備を整えた時点で、既に部分的に履行済みです」
ユミは軽く前傾し、声は穏やかだが固かった。 「手付金は渡してあります。それで全ての費用は賄え、さらに補償として余剰が残るはずです。あなたは最初から取引の全リスクをご存じでした」
エレシュキガルは背筋を伸ばした。彼女の周囲の力のオーラが濃密となり、空気が緊張で震えた。襖のドアの向こうの使いの者は耐え切れず膝をつき、苦しそうに呼吸を整えた。神の女王は冷たい笑みを浮かべてユミを見た。 「――それがかの故き友、ヴィクトルの子孫のやり方か」
カイトは同じようにして、自らの一部の力を解き放った。部屋の圧力はほとばしるほどになり、ドアの外の使いの者は腹ばいに倒れ、空気を求めて喘ぎながらヒューヒューと音を立てた。その様子を、カイトは礼儀正しく、ほぼ友好的に微笑みながら見ていた。 「ヴィクトルとエレシュキガルの古き友情への敬意の印として、違約金として20個の結晶をお支払いしましょう」 「100個未満ではないな」と女神は固く答えた。
ユミは動揺ひとつ見せずに片手を背中に回し、指で保護呪文が刻まれた短剣の柄を強く握りしめた。投擲の構えだが、声は全く平静だった。 「50個です。これが最後の提示です」
エレシュキガルは一瞬硬直し、ヴィクトルの双子の子孫を評価するように見つめた。そして和解を示すように頷き、微笑みながら力の流れを弱めた。 「いいわ。承知した。すぐに持って来なさい」
カイトは手を伸ばし、テーブルの縁に置かれた小さな銀の鈴を鳴らした。壁に静かに隠し扉が開き、そこはエレシュキガルが先ほど入ってきた扉そのものだった。先ほど彼女を連れてきた青白い若い衛兵が、震える足でよろよろと歩み寄り、神の女王に結晶の入った袋を恭しく手渡した。
エレシュキガルは袋を手に取り重さを確かめ、満足げに頷くと、別れの挨拶もせずにポータルを開いた。最後の瞬間、彼女は振り返った。 「あなた方の孫たちが、その血統に相応しい子孫でありますように」と言って、魔法のエネルギーのきらめきの中へと足を踏み入れ、姿を消した。
ポータルが閉じ、部屋の圧力が緩んだ。ドアの外の使いの者はようやく正常に息を吸い、不安げに襖を見ながら立ち上がった。
カイトはユミに向き直り、彼女の目をじっと見つめて言った。 「我々は幸運だった。我々の中に犠牲者が出なければ、おそらくは二人がかりでも、100個以上のエーテル結晶を吸収した女神に打ち勝てなかっただろう」
ユミは肩をすくめ、髪の簪を直し、静かに答えた。 「さあ、孫たちに会いに行きましょう。彼らは我がクランの新たな武器になるか、あるいは最大の脅威になるかもしれませんわ」
彼女は立ち上がり、着物の襞を整えて出口へと向かった。カイトは彼女の言葉を胸に秘めながら、後に続いた。
プロローグ 第四部
自らの隠れ家へと戻ったエレシュキガルは、見えぬ扉を轟音を立てて閉めると、壁に刻まれた魔法のルーンが赤く激しく輝いた――それほどまでに、彼女の怒りは強大だった。神の女王は追い詰められた獣のように謁見の間を右往左往した。琥珀色の瞳は耐えがたい炎を燃やし、周囲の空気は解放された力によって震えていた。 「ヴィクトルの恩知らずな子孫め!」と、彼女は拳を握りしめて唸った。「かつてあの男は自ら忠誠を誓っていたではないか! そして今、その子孫たちが、一瞥でその血統を灰燼に帰すことができる神である私を辱めるとは!」
彼女は磨き上げた黒曜石の鏡の前で立ち止まったが、自らの姿を見ることはなかった。代わりに、平らな表面に全力で掌を打ち付けた。石は蜘蛛の巣のような亀裂に覆われた。 「運命は私に意地悪な冗談を仕掛けている」と、防御のルーンが彫られた壁に沿って歩きながら続けた。「ヴィクトルという老いた馬鹿は、自らの血統が新世界の柱となると信じていた…。そして今、その孫たちは自分の召使いを腹を空かせた狼のように喰らう怪物を生むというのか!」
怒りのあまりエレシュキガルは、受け取った結晶が入った袋を掴み出した――全てで五十個、暗紫色に輝き、脈動する銀色の糸を纏っていた。ためらうことなく、彼女はそれらを一つずつ吸収した。結晶は一つずつ彼女の本質に溶け込み、身体にエネルギーを満たしたが、安堵はもたらさなかった――むしろ、激しい復讐欲を増幅させるだけだった。
最後の結晶が消えたとき、神の女王は荒い息をつきながら謁見の間の中央に佇んだ。彼女のオーラはさらに強大となり、瞳には冷たい決意が読み取れた。 「次はどうすべきか?」と、彼女は心の中で自問しながら、モザイク敷きの床をゆっくりと謁見の間を回った。
彼女の内なる視界に、映像が走り抜けた。カイトの傲慢さ、投擲の構えの短剣を持つユミ、そしてわずか数分で百人の成人――その中には覚醒したヴァンパイアも含まれていた――を殺したあの謎の双子の姿である。 「私を出し抜いたつもりかしら」とエレシュキガルは思案した。「だが、彼らは知らない。私が何世紀にもわたって神と人間の陰謀を見てきたことを。一つの過ち、一つの誤った一歩のために帝国が崩壊する様を見てきたのだ…」
突如、彼女に閃きが走った。神の女王の唇が凶悪な笑みを刻んだ。 「――もし、別の、より強大なクランを見つけたら?」と彼女はささやいた。「ヴィクトルの子孫、王家に対抗できるほどの。この途方もない力を、双子の一方にだけ与えるのよ。両方にはやらない。その魂が十分に強く、英雄になるに足る――あるいは私の手の中で武器となるに足る者に」
彼女の精神に、明確な計画が組み上がり始めた。 「私が彼を育て、自らが知る全てを教え込むわ」と、心の中で続けた。「彼の力を導き、今は目覚めかけているだけの潜在能力を解放する手助けをする。彼は私のポーンとなる。だが、王家の権力を粉砕できるほどの、強大なポーンとしてね。陰謀、策謀、公然の衝突――全てを利用するわ。そして彼は、私の知恵に導かれ、決定打を放つ者となる」
彼女は想像した。カイトとユミの予想をはるかに超える力を持ち、自らの養子が行動を開始する様を。王家が己の傲慢に目を曇らせ、手遅れになるまで脅威に気づかない様を。不動と思われた権力が、彼女の策謀の前に崩れ去る様を。 「――そうよ」と、エレシュキガルは冷たい笑みを浮かべてささやいた。「私は単に復讐するだけではない。彼らの影響力を滅ぼし、拠点を奪い、屈辱の代価を払わせる。その代わりに、私の目的のためにその強大な力を役立てる、忠実な同盟者を得る」
この嬉しい思考と共に、神の女王は手を振った。――そして、先ほどの怒りの爆発で割れた鏡は、一片の亀裂もなく瞬時に修復され、再び彼女の姿を映し出した。彼女は自らの映像に微笑み、そして我慢できずに、喜びのあまりヒクヒクと喉を鳴らす短い笑い声を上げた。
時を無駄にせず、彼女は浴室へと向かい、歩きながら衣服を脱ぎ捨てた。数歩で温泉のプールまで距離を詰め、エレシュキガルは全裸で飛び込み、温かな水にプシュッと音を立てて沈んだ。そこからは軽い山岳草の香りが立ち上っていた。
プールでリラックスしながら、彼女は目を閉じ、激しい感情の後の身体を休めさせた。思考は穏やかに流れ、未来の計画の細部を組み立てていく。
すでに眠りに落ちかけながら、神の女王は満足げな笑みを浮かべて思った。『六日後、私は復讐の計画を開始する。カイトもユミも、そして彼らの全王家も、待ち受けるものに対しては何の準備もできていないだろう』
彼女の呼吸は規則正しくなり、かつて荒れ狂っていたオーラも静まり、隠れ家の防御ルーンと溶け合った。眠りがエレシュキガルを包み込んだが、その眠りの中でさえ、彼女の理性は未来のゲームの手を――自らがポーンではなく、運命を司る達人となるそのゲームの手を――算段し続けていた。
プロローグ 第五部
エレシュキガルが計画した通り、六日後、彼女は再びアストラル界に現れた。死神モルとの会合場所への道のりは容易ではなかった。神の女王は混沌としたエネルギーの渦をすり抜け、彷徨える霊魂の群れを迂回し、危険な空間の裂け目を隠すきらめく霧の帷幕をすり抜けねばならなかった。
モルの住まう島は、エレシュキガルの静かな隠れ家とはまるで異なっていた。アストラルエネルギーの流れに浮かぶ大地は、煙を上げる火山に覆われていた。そこからは溶岩ではなく、灼熱の魔法プラズマの流れが噴き出ている。空気は緊張で震え、頭上の空は嵐の予感のように紫と深紅の全ての色合いに煌めいていた。
最も高い火山の麓、その斜面が封印のルーンで覆われていた場所に、小さな洞窟があった――死神の隠れ家である。入口は冷たい青光を放つ、絡み合うエネルギーの糸の帷幕に隠されていた。エレシュキガルは見えぬ境界線に触れると――バリアは従順に割れ、彼女を内部へと通した。
洞窟の内部は、エネルギーの追跡と捕獲のための多くの奇妙な装置で満たされていた。壁は空間の呼吸に合わせて脈動する結晶の貯蔵庫で覆われていた。ホールの中央には、銀の細工が施された重厚な石の椅子があり、その前にはプロジェクター装置――台座の上に浮かぶ煙水晶の球体が聳え立っていた。そこからは数十本の細い管が伸び、他の装置へと繋がり、アストラルの流れの振動を捉えていた。
モルは既に待っていた。彼は椅子に座り、肘掛けに刻まれた複雑なルーンの上で指を滑らせ、球体に映し出される光景に視線を釘付けにしていた。エレシュキガルが入ってくると、神は視線を投影から外すことなく、頭をわずかに傾けただけだった。 「時間通りだ」と、低く鳴るような声で言った。「これを見ろ」
エレシュキガルは近づき、立ち止まった。球体の中では壮大な光景が展開されていた。流星群のように群がる巨大な魂の流れが、アストラル空間を横切っていた。各々の魂は淡い青から眩い金まで、自らの光を放っていた。彼らは見えぬ力に導かれるように秩序だって動き、後ろにきらめくエネルギーの跡を残していた。 「これほどの数の召喚された強い魂を、私はかつて見たことがない」とモルは驚きを込めて言い、投影を指さした。「光の輝きを見よ――彼らの一人一人に、すぐさま4つから7つの力の源が形成されるだろう。彼らはほとんど全員、言ってしまえば英雄だ――信じがたい! そして何より驚くべきは、召喚側が明らかに一者ではないということだ」
エレシュキガルは思慮深げに唸り、言った。 「魂の情報密度を評価してくれ」
モルは装置の制御部分の上で数回手を滑らせた。椅子の肘掛けのルーンが輝き、球体の映像は変わった。各魂の横に、エネルギーの構造と濃度を示す複雑な図表とシンボルが現れた。
死神はデータを注意深く研究し、眉を驚きで軽く上げた。 「5つから7つの源を持つ、そのような魂が4つある」と、やがて彼は言った。「だが、一つが…それほど輝いてはいない――普通の意味での英雄には届かないが、4つの完全な源は確実にある。しかし情報密度は多くの者の3倍だ。そして注目すべきは、召喚時点でその肉体はほぼ死にかけていたということだ――死体への転移には理想的だろう。ただし、その転移には彼だけが唯一の選択肢というわけではないな」
エレシュキガルは微笑んだ――彼女の琥珀色の瞳に獣のような煌めきが宿った。 「魂の密度の方が重要よ」と、確信を持って言った。「密度が高ければ高いほど、源はより大きな容量となり、増幅する可能性も高くなる。12もの源があったとしても、それが小さければ何の意味がある? それで神になったところで、弱いままだわ。発展も生存も、さらに難しくなるだけ」
モルは頷き、同意した。彼は装置でさらにいくつかの操作を行い、投影は最も輝いているわけではないが、密度の高い複雑なエネルギー構造のオーラに囲まれた一つの魂に焦点を合わせた。 「これだ」と、神は指さした。「見えるか? 彼の情報行列は信じられないほど濃密だ。完全な英雄の力はなくとも、傑出した存在になり得る」
エレシュキガルは映像に凝視を注いだ。魂は他の者たちの中で確かに際立っていた。その光は抑制されていたが、周囲には小さな銀河を思わせるエネルギーの渦が渦巻いていた。 「そうよ」と、神の女王はささやいた。「これこそが必要なものだ。彼は囚われの長老の解放と、リリスの覚醒への鍵となる。そして同時に――私の復讐の武器となる」
モルは椅子にもたれて笑った。 「さて、選択が決まったのなら、回収の手術を始めるとしよう」と言って、作業に取り掛かった。
モルが選ばれた魂を流れから抽出し、古代のルーンが刻まれた重厚な結晶――アーティファクトの中に封じ込めている間、エレシュキガルは思いがけず集中する神に身を乗り出し、耳元でささやいた。 「それにしても、私は身体能力に『加速された意識と認識』の能力と、『マナの流れによる強化』の能力、そして身体内のマナ通路の伝導率を――ヴァンパイアの標準値の5倍に――改造してくれるアーティファクトも欲しいわ。その全てに対し、私はさらに5個の大型エーテル結晶を支払う用意がある」
甘い囁きと耳元の息遣いを聞いたモルは、驚きのあまり飛び上がり、苛立ちを露わに言い放った。 「『ババア』神は私の興味の対象ではないし、この手は私には通用せん! それに、5倍の通路強化は私の手元にはない。だが、身体改造のアーティファクトには、既に3倍の強化は組み込んである。それ以上の強化はヴァンパイアの身体には非現実的だ――死ぬぞ!」
エレシュキガルは怒りを込めて答えた。 「あなたは私より年上なのだし、無礼を働くのは止めた方がいいわ」
モルは哄笑を上げた。 「おお、君がその手の要求をしてくると分かっていたから、全て用意しておいたのだ。だが、要求するものは8個の結晶以下では手に入らんぞ。ボーナスとして、対象オブジェクトの領域で時間を遅らせる効果のある追尾アーティファクトをやろう。ただし、短時間だがね。試作品を体験するといい」
エレシュキガルは魅惑的に微笑んだ。 「私は同意するわ。でも、ボーナスとして、言語と格闘技に関する知識の図書館、そして全ての魔法と魔術付加のタイプに関する――そして『SSS』レベルに至るまでの仮想訓練場を備えた、学習用アーティファクトも『くれる』わよね?」
モルは涙を拭うほどに大笑いした。 「『DDD』ランク以上は無理だ」
エレシュキガルは甘えるように言った。 「『ババア』に対してでもせめて『CCC』位は情けをかけてちょうだい」
彼女の冗談を評価したモルは答えた。 「手元にはあるが、『C』ランクまでだ」 「それでいいわ」と喜んだエレシュキガルは、計器パネルに8個の結晶を嬉しそうに置いた。やがてモルは作業が完了したと言い、彼女に向き直って、求めたもの全て――魂の結晶と要求された性能のアーティファクトを手渡した。
続けて彼は付け加えた。 「学習用アーティファクトの分は、私に君が『借り』がある。将来、情報で返してもらいたい」
エレシュキガルは笑って同意した。 「これほど巨大な英雄召喚の後、大規模な何かが起こるわ。私が知り得る全てを、必ず分かち合うわ」
モルは満足げに頷いた。エレシュキガルは手に入れたアーティファクトを大切に抱え、自らの隠れ家へ戻るためのポータルを開き、魔法エネルギーのきらめきの中へと足を踏み入れた。
そして投影と二人きりとなったモルは、自らのきらめく顎鬚に思案深く手をやった。彼の目に宿る冷たい青い炎の中に、敬意の色がちらついた。
文字通りその翌日、エレシュキガルは長い間準備してきた全てを実行に移した。隠れ家へと戻り、彼女は思った。『さて、くじは引かれた。これからは少年を見張り、彼と接触できる機会を待つとするか』。だが、彼女自身も、その機会が非常に早く訪れるとは予想していなかった…。
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