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再誕世界のルカ  作者: 葦原 綾真
第九章 旅立ちの陰で
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第四十三話 女子会の後に

 お互いのことは「さん」付けで呼ぶこと。

 敬語の使用は強制しないこと。

 嫌な事はちゃんと嫌だと言うこと。

 楽しいことはできるだけ共有すること。

 そして、四人の間であったことは、四人の秘密として、他の誰にもバラさないこと。

 四人はそんなルールを決めて、取り留めのない会話に興じていた。

 噛み合わないフィリスと平民二人の常識に驚いてみたり、笑ってみたり。

 ミリアがフィリスの可愛い黒歴史を暴露するなどという一幕もあったりで、女子が四人集まっていると話題は尽きない。

「そういえば、エリナさんってルカさんとは知り合って長いんですか?」

 先ほどまでは「同じ部隊のユージンとライナスはデリカシーが無い!」と怒っていたリネットが、突然思い出したかのようにルカの話をしだした。

 人差し指を唇に添えるようにしてルカと行動していた期間を思い出す。

「うーん、知り合ってからだと一ヶ月とちょっとかなぁ。一ヶ月半はいってないと思う。」

「そうなんですか? 村で一緒に歩かれてるのを見かけた時は長い付き合いのように見えましたが……」

 ミリアは少し不思議そうだ。何かの折に連れ立って歩いているのを見ていたらしい。

「まぁ、その一ヶ月の間、かなりいろいろあったんですよー。知り合った翌週くらいからは、ほぼ毎日一緒に行動してましたんで……」

 思い返してみればかなり濃密な一ヶ月だ。森に入る準備の頃から、ほぼ毎日一緒に行動しているのだから。

「エリナさんって、もしかしてルカさんと……」

「おや、なるほどそうなのですか?」

 なんとも言えない表情のリネットと、したり顔のミリア。どうやら二人には男女の仲を疑われているようだが、フィリスはというと、そういう話に疎いのか、まったく意味が分かっていないようで、頭の上に疑問符が浮かんでいる。

「あ! 全然そういうのじゃないですよ! たまたま私が村を出るまでにやりたいと思ってたことと、ルカが村に来た目的が近かったんで、無理を言って手伝ってもらったんです。その準備の段階から一緒に行動してたので、それで一緒にいるのをよく見かけたんだと思いますよ。」

 慌てる様子でもなく、両手を顔の前で振りながら、ルカとの関係性についての誤解を解くと、ミリアはいじりがいがないと思ったのか、少し残念そうな表情になっていた。

「そうでしたかぁ……」

 リネットはエリナの言葉に少し表情を緩め、手元のカップに注がれたお茶を口にしている。少しホッとしているような、安堵しているような、そんな表情で微笑んでいた。

「そう言えば、ルカ様は感応術の腕がいいとお聞きしました。野営の時、石壁も作ってくださったとか。」

 胸の前でぽんと手を打ち、フィリスがルカの話を続ける。セオやノアからの報告が上がっているのだろう。

 エリナとしては、彼の手の内をバラしてしまったということもあり、なんとも言えない表情をしているが、他の三人は楽しそうにしていた。

「ええ、石壁を作れるだけではなく、術の制御もお上手で、野営地内の篝火を周囲から見えづらくしたり、セオ様からもとても助かっていると伺っていますね。」

「そうなんですよ~。申し訳ないなとは思ったんですけど、私、今日思い切って感応術についてアドバイスをお願いしちゃいまして……」

 ミリアがルカについてのセオたちの評価を話すと、食いつくようにリネットが話しだした。

 声のトーンが上がり、心なしか饒舌にも見える。

「適性が違うからって控えめにお話してくださったんですけど、感応術師団の訓練とかで聞くのとは全然違う観点からアドバイスしてくださって、ほんとびっくりでしたー。」

 ぱぁっと明るい表情で、ルカがアドバイスしてくれている様子をリネットは嬉しそうに話し、エリナとフィリスもそんなリネットの様子に少し楽しそうな微笑みを浮かべている。

 ミリアは、皆のカップのお茶が少し減ってきているところに、そっとお茶を注ぎ足しながら、リネットに問いかけた。

「それはちょっと気になりますね。私もフィリスさんも、感応術については一通り勉強させられましたし……どんなお話だったのでしょうか?」

「そうね。私も感応術は得意ではないから、適性関係なく参考になるお話なら、伺いたいわ。」

 フィリスとミリアは貴族である以上、身分相応の立ち居振る舞いや、一般教養など、幼少期から様々なことを学んでいる。

 女性の場合、戦闘に関わることがあまりないとはいえ、武術も感応術も最低限の知識と扱いを修めていることから、少し気になったようだ。

「いろいろと言葉を尽くしてくださいましたけど、一言で言えば"指向性"を意識してみてはどうか、ということでした。私の場合は《音波探査(ソニック・サーチ)》を調べたい方向に絞ってみたらどうかと仰られて。確かに意識してみるといつもより遠くまで感知できるような気がしたんですよ! 感応術師団じゃとにかく"広く! 遠く! 全方向を探査だ!"って感じで教えられるので、ほんと衝撃でした~!」

「あぁ~、ルカならそんなこと言いそうー!」

 リネットは胸の前で手を合わせるようにして、上機嫌に話す。武術にしても感応術にしても、技術向上は地道な訓練を避けて通れないが、ほんの数時間、術の考え方や意識の仕方を説いただけで、うっすらとでも技術が向上したように感じられたことが嬉しかったのだろう。

 エリナもリネットの話を聞いて、ルカらしいなと同意する。

「"指向性"ですか……《音波探査ソニック・サーチ》のような方向を意識することの少ない術だと違いが如実に現れそうですね。」

 ミリアは素直に感心した。一部の感応術関連を研究している学者ならいざ知らず、感応術師団の術士や感応術を得意とする傭兵などは、術をぼんやりとしたイメージで扱うことが多く、術の考え方や意識の仕方、ましてや"指向性"などという考えは他聞にして聞かないのだ。

 女子会の中の会話とはいえ、彼の動きは少し意識しておくべきなのではないかと考えてしまう。

 そんな風に考えを巡らせてしまうのは仕事柄かしら、などと思っていると、フィリスが小さく口を開いた。

「私も今度の訓練、意識してみようかしら?」

 あまり感応術が得意ではないフィリス。水系の適性はあるのだが、小さな水球を作ったり飛ばしたりできるくらいで、あまり大したことはできないと苦手意識があるのだが、少しやる気になったらしい。

 ただ、どうにも制御が甘いので、そこは釘を刺しておく。

「それは是非とも。制御を誤って私に水が飛んでくるのはそろそろ終わりにしていただきたいなと。」

「み、ミリア!? それは今言わなくてもいいじゃないのー!」

 フィリスの失敗や黒歴史は枚挙に暇がないのか、それともミリアが常に近くにいるせいで一から十まで見られているからなのかは不明だが、いじるネタには困らないようだ。

「「あははっ!」」

 慌てるフィリスの様子を見て、声を上げて笑うエリナとリネット。

「(こんないろんな立場の人たちと話す機会があるなんてなぁ……)」

 村を出てきてすぐではあるが、それ自体は良かったとエリナは感じている。

 村の中にいたままでは出会うことなどなかったであろう人ばかりで、緊張しない訳ではない。だが、新しい価値観にふれるのは正直楽しい。

 この先ルカについて旅をすれば、もっと多くの人と出会い、もっと多くのことを見聞きして、自分の世界を広げていけるんじゃないかと、期待せずにはいられない。

 でもその前に――

 短いけれども、目的地のバルディアまでは、この四人でいろんな話をしていけたらな、と素直に思うのだった。


 ◇◇◇


 翌朝。

 最初に目を覚ましたのはミリア。

 天幕の外も静かなもので、セオやノアが起床や出発の準備について号令を出している様子もない。

 まだ早い時間なのだろう。

「ふぁ……」

 口元に手を添え、小さく欠伸をすると、ミリアは昨夜のことを思い出していた。

 ルカの話題の後、エリナとリネットの出身地の話に話題が移ったところで、時間が遅くなってきていたこともあり、お開きということになっている。

 フィリスはまだ若いことから公務も少なく、今回のように王都以外に出向くこともあまりないことから、かなり興味を惹いたようで珍しくミリアに食い下がっていたが。

 それでも時間が遅く、眠かったことも事実。文句を言いつつも布団に入ってから彼女が眠りにつくのにかかった時間は一瞬で、そのことに気がついたリネットとエリナが口々に「寝顔、か、可愛い……」と覗き込んでいたりもした。

 昨夜のような時間をフィリスが得ることができたのは、立場や職責を考えなければ、ミリア個人としては素直に喜ばしいと思う。

 フィリスが貴族だの王族だのと身分を気にすることなく、無邪気に過ごしていられたのは物心ついてからのほんの僅かな期間だ。それは王族としては当たり前のことではあるが、一人の人間としては寂しい話である。

 少なくとも、ミリアが専属侍女として付き従うようになってから、屈託無く楽しそうに声を上げて笑う姿など、ほとんど見た記憶がない。

 そう思うと、偶然にも得られたこの機会が、フィリスにとって貴重なものであることは、ミリアにも痛いほどよく分かる。

「(年相応の関係性がどこまで続けられるかわかりませんが、できるところまではお付き合いして差し上げねばなりませんね……)」

 天幕奥の簡易寝台で、小さく丸まりながら、穏やかな寝息を立てているフィリスを眺めながら、ミリアは決意するのであった。

 他の三人の寝顔を少しの間眺めてから、朝の準備に取り掛かるミリア。

 自身の着替えや洗顔などを済ませ、三人を起こしたり、フィリスの準備を手伝ったりとしているうちに、時間はすぐに出発の時を迎えていた。

 それぞれの部隊の面々もほとんどが準備を終え、そろそろ移動を開始しようというころ、エリナは隊列から少し離れたところにいるエディルを目にした。

 左手を前に出し、手首の辺りに小鳥を止まらせている。

「エディル様? その子……」

「あぁ、エリナちゃんっすか。この子、俺のネクサバードっすよ。聞いたことあるっしょ? 一人ひとりの感応術の特徴か何かを覚えてるらしくて、ちょっとしたメモ書きなんかをやり取りできるってやつ。」

 体長は二十センチ程度、旧時代で言えば鳩よりも少し小さいくらいだ。

 片足に小さな小物を入れる筒が装着されているのがわかる。

 人間や生物には、感応術を扱えるかどうかとは関係なく、感応波というものが体外に放出されているとされている。この感応波は一人ひとり少しずつ違いがあり、同じ特徴を持つ感応波を放つ者はいないらしい。

 ネクサバードはこの感応波を感じ取る能力に優れており、手懐けた主人を起点に様々な場所との連絡用に使われているのだという。

 一般的には鮮やかな色の個体が多いが、エディルの腕に止まっている個体は、全体的に白く羽先に向けて少し灰色が入った特徴的な色をしていた。

「はい、聞いたことも見たこともあります。村の役所にも手紙の配送で飛んで来てましたから。村に来てた子とは色合いが違うなぁ……」

「色? あぁ、珍しいっしょ? おかげで目立ちにくくて軍の秘密をやり取りするのに向いてるんすよ。じゃあそろそろ……」

 ネクサバードの足の筒に丸めたメモを入れると、エディルはネクサバードを空に解き放った。

 バサバサと大きく羽ばたいたあと、どんどん上昇し、遠く隊列の進行方向に向かって飛び立っていく。

「ああやって関係者と情報共有してるんですね。」

「そうっす。今どのあたりにいるとか、問題があるかないか、あるなら何に困っているか、みたいなことをやり取りするわけっすね。まぁ今のところ問題無いんで、到着した時のために歓待の準備よろしく! ってな感じで送ってみたってとこっすね。今の護衛騎士だと俺しか使えないんで、あの子も大変なんっすよ~」

 エディルはへらへらと笑いながら飛んでいく自分のネクサバードを見やると、持ち場に戻ると言って隊列に戻っていく。

 その後姿を見送った後、エリナも持ち場である馬車の方へ戻っていった。

 遠く黒い点のようにしか見えなくなったネクサバードは、もう誰にも見られていない。その姿は右へ大きく旋回しながら、雲間へと姿を消していったのだった。

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