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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの勇者探索編
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第98話 勇者の条件

「私に出来る事ならば協力は惜しまない。何でも言って欲しい」

「まずジーナさんは命を狙われていますので護衛をつけて下さい」


 追っていた者と屋敷周辺にいた暗殺者は眠らせて拘束した。

 だが他にも潜んでいる可能性は否めない。


「すぐに手配しよう。これだけの情報をよく持ち帰ってくれた」

「……はい。ですが私のために諜報の方々が……」


 それ以上の言葉は続かず目を伏せてしまった。

 犠牲があっての情報だったのだろう。

 アルフとぶつからなければ、ジーナも生きてここにはいなかった。


「辛い仕事を任せてしまったな。しばらく屋敷で休むと良い」

「……お姉様はどうなるのでしょう」

「今のままでは帝国に嫁がせるわけにはいかない」


 公爵が生き延びたいと願う程、祝ってあげたい結婚だったのだ。

 それが白紙撤回ともなれば公爵家の落胆は相当なものだろう。

 表情が暗くなるのも当然のことだった。

 

 そんな中、アルフは疑問を口にする。


「ジーナさん。第二皇子は魔薬を口にしていないのですか?」

「軍部の将でもあるため、お酒は控えていたようです」


 知りたかった情報が集まってきた。

 皇帝と皇太子から魔薬を取り除けば、帝国を取り戻せる可能性はある。


「もう一つ。マルファスという悪魔の名に聞き覚えはありませんか」

「姿は見ていませんが、城にいるとの噂を耳にしました」

「城で何をしているか分かりますか」

「美しい男女や魔力の高い子どもを集めているとか」


 妃候補にされたというエルフ族の子も近くにいるはずだ。

 こちらもまだ助け出すチャンスがありそうだった。

 だがそれは同時に、肉体を持った悪魔を相手にするという事。

 

「まずは目の前のことから解決していきましょうか」

「そうだな。焦っても仕方あるまい」

「僕は調べたいことがあるので一度失礼します」

「こちらも準備が整ったら城から合図を送ろう」

「分かりました。それでは」


 アルフは二人に会釈をして部屋を退室する。

 玄関に向かって歩きながら頭を悩ましていたが、ふと呟く。

 

「あっ、そう言えば……」


 あまりに衝撃的な情報を耳にして忘れていた。

 何も誤解を解いていなかったと言うことに。


「仕方ない。また今度だな」


 気持ちを切り替え、外に出て公爵家の庭へと向かう。

 すぐにアルフを見つけたドロシーが肩に飛び乗って来た。

 パチンと指を鳴らし防音結界を張る。


「お疲れ様。ドロシー」

『死体の破片はどこにも見当たりませんでした』

「どうやら爆発を目くらましにして逃げたみたいだね」

『周囲も探りましたが国内にはいないようです』

「うーん。報告のためにラッセル帝国へ行ったのかもな」

『帝国ですか? ご主人様はどのようなお話を』

「うん。相当厄介な悪夢潰しになりそうだよ」


 言いながらアルフは額に手を当てて目を閉じる。

 イメージするのはレオンの屋敷だ。


■■■


「やあ! レオン。ちょっと頼みがあるんだけど」


 到着するなりアルフは防音結界を張って依頼する。

 食事時に来てしまったらしく、魚が焼けるいい匂いが漂っている。


「うおっ!? 今度はいきなり目の前かよ」

「先触れを出している時間が惜しくてね」

「まあ、突然魔法で羊とか送りつけられても困るけどな」

「大丈夫。次からは鳩を使う」


 どうせその鳩も普通の伝書鳩じゃないのだろう。

 呆れ混じりにレオンがうなずく。


「はいはい、期待しておくよ。で、頼みってのは?」

「勇者の居場所を教えて欲しい」

「は? ここにいるだろ」

「え! どこに!?」

「どこって……目の前だけど」


 レオンに言われてアルフはキョロキョロと部屋を見渡す。

 これほど気づけないとは、凄い隠形技術の持ち主だ。

 しかしどれほど探っても気配が見当たらない。


「急いでいるから、冗談はやめて欲しいのだけど」

「そう言われてもな。勇者を探しているなら目の前にいるとしか」

「もしかして僕の事を言っているのか?」

「もしかしなくても、そうだが」


 アルフは深いため息を吐いた。

 公爵はまだしも、何でレオンまで誤解しているのだろうかと。


「何度も言っているけど、僕は勇者じゃないよ」

「じゃあ魔導士の言う勇者ってどんな奴なんだ」


 神から選ばれた聖印があるというのは大前提だ。

 勇者としての資質を聞いているのならば――。

  

「世界中の皆に希望を与える存在だよ」

「うん、そうだな。他に特徴は」

「誰かを守るために強い魔獣や悪魔と戦えるような勇気ある者」

「そうだな。他にもあるか」

「神託を受けて行動していること」


 それを聞いていたドロシーが肩口から口を出す。


『ご主人様は毎日のように神託を受けて行動していますね』

「…………ドロシー。お口にチャック」

『ニャア』


 神託というのは神殿の巫女や教会の教皇などに降りてくる神のお告げだ。

 祈りの途中で聞くこともあれば、夢の中で聞くこともあるという。


「いや、ちょっと待て! 神託が毎日ってどう言う事だよ!?」


 重要な内容であれば数年に一度。

 そうでなくても年に数回あるかという頻度が普通だった。

 だからこそ神託があってそれが知らされた場合、大騒ぎする。

 未来を知るというのは、それほど重要視される事柄であるからだ。


「気にしないで。僕のは神託って言うよりも呪いみたいなものだから」

「呪いって何だよ。すげー気になる」


 気にされても説明が難しいことだった。

 アルフは無理矢理に話題を変える。


「そんなことより! 僕が知りたいのは勇者の居場所だよ」


 今度はレオンが深いため息を吐いた。


「はぁ……これだけ勇者の条件が揃っているのに、まだ否定するのか」

「僕じゃダメなんだよ」

「何がダメなんだ?」

「ラッセル帝国を相手にするためには、国同士の協力が必要なんだ」


 顔を見せない相手に協力してくれる国。

 正体も分からない者の呼びかけに応えてくれる国。

 そんな国があるとは思えなかった。


「帝国と戦争でも始めるつもりか!?」

「向こうがね。本当の相手は悪魔だけど、先に国同士の争いになりかねない」

「よく分からんが一大事じゃないか!」

「だから急いでるって言っただろ。無駄な血が流れるのを見たくないよ」


 勇者の資質ではなくて、国に呼びかけられる存在が必要なのだろう。

 ようやくレオンは意図を理解して、影響力のある勇者の情報を話し始めた。


「噂じゃ勇者一行は迷宮(ダンジョン)に挑んでいるはずだが」

「知りたかった情報はそれだよ! どこの迷宮(ダンジョン)!?」

「確か……試練の塔だったと思うが」

「分かった。ちょっと行って来る!」

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