第87話 自爆
「ふざけた真似を! この日のためにどれだけ時間をかけたと……!」
「契約内容はきちんと説明していただかないと困りますね」
「いつ瓶の中身をすり替えた!?」
「さあ? 初めから魔薬ではなかったのでは」
アルフと男の会話を聞いたことで、その場にいた者は理解した。
だれも魔薬を口にしておらず、悪魔との契約が行われていないということに。
「俺は契約をしないぞ! 子どもを返せ!」
「私もだ!」
「我が子の命を犠牲に出来るか!」
だまされて子どもを差し出していた父親たちが、子どもを取り戻そうと動く。
その数は六名。
生け贄に用意されたのは、全員ここに集まっている者の子どもだったらしい。
「黙れ!」
その父親たちに向けて雷撃が放たれる。
魔法で身体を強化していたアルフは、すでに飛び込んでいた。
両手足を使って四人を突き飛ばす。
肩にいたドロシーも二人に続けて体当たりして鮮やかな回転で着地した。
雷撃は床を貫き六カ所の穴を開ける。
防御魔法の無い状態で受けたら身体を貫通だった。
「ナイスドロシー! こっちを頼むね」
『ニャア』
フワリとフードを揺らして跳び、祭壇から離れるように距離を取る。
「不愉快な! 羽虫のようにちょろまかと」
「羽虫のように羽を持つのはそちらでしょう」
他の者から狙いがずれるように、敵意を集めるような挑発をする。
「何だと!?」
「あれ? 気づいていませんか? あ、頭も羽虫並だから分からないとか」
「ほざくな!!!」
雷が落下したような衝撃音が響く。
アルフに向けられた攻撃は今までの小手先の雷撃とは桁違いの威力だった。
背後に人がいないことは確認していたが、当たった壁が崩れ去っていく。
外からの風が吹き込んできた。
「勝手に出入り口を増やされると、館の主が困ると思いますよ」
空中に避けたアルフはクルリと後ろに一回転して床に着地した。
「高威力の一撃を避けるというなら数を増やすまでだ」
「いっ!?」
祭壇に飾られていた獣の生首が一斉に宙へと浮かびあがる。
その数、二十二頭分。
ゾンビと化した獣の生首がアルフに向かって噛みつこうと次々に飛んでくる。
「気持ち悪っ!」
その光景を見て即座に収納空間からナイフを取り出す。
スーリオンから回収していた剣と揃いで購入したナイフだった。
噛みつきを避けながら、急いでナイフを聖魔法強化する。
「どうだ? これが死んだものを操るだけの力だ」
「ちっ」
選ばれたら持てる能力についての発言を根に持っていたらしい。
こんなゾンビが外に放たれでもしたら、ベルジェ王国の二の舞だった。
この場で全て倒すしかないだろうと覚悟を決める。
外が見えている崩れた壁とは反対方向に避けながら移動していく。
「うわっ!」
剣に比べてリーチが短いので、切る際に首と接近してしまい気持ち悪い。
首から滴る血と腐敗臭で吐き気を感じ、目眩をおこしそうになる。
――ズシャツ!
脳天に突き刺すようにナイフを差し込んで消滅させていくが、数が多い。
さらに室内で逃げ場も限られているため、アルフは追い詰められていた。
前後左右グルリと獣の首が取り囲んでいる。
その状況を見て悪魔と同化した男は余裕を取り戻した。
「はははっ! どうした。動きが落ちてきたぞ?」
「くっ」
「そうだ! この器となる死体も使ってやろうか」
この状況でさらに戦力が加われば、確かに対処しきれなくなるだろう。
しかし――。
「ん? 何故動かない」
祭壇の棺に手のひらを向けているが動く気配はなかった。
その間にアルフは何とか半数まで生首ゾンビの数を減らしていた。
――ヒュッ!
外からの風が室内を吹き抜けフードを揺らす。
それは避難が完了したというドロシーと風の精霊からの合図だった。
崩れた壁から外へと逃がすために、アルフは囮になっていた。
「ようやくこっちの番かな」
「何だと?」
陽動は成功した。アルフの動きにだけ注意が向けられている。
いつの間にか室内から人が消えていることに気づいていない。
――パァン!
アルフが大きめに指を鳴らす。
するとスーリオンに似せて作ったゴーレムが起き上がって動き始めた。
そのゴーレムが狙う相手は、もちろん悪魔と同化した男だ。
操ろうとしていた死者からの攻撃を受け、動揺している。
「どう言う事だ!? なぜ死者を操れる!?」
「まあ操るだけなら選ばれなくても出来ますよ」
言いながらナイフを持つ腕を前に出し、その場で一回転するように回る。
アルフを囲んでいた生首に斬撃が飛び、切られた首が白い炎で燃え上がる。
聖なる炎に焼かれ、すべての生首ゾンビが消え去っていく。
「そんな力が……!? 欺いていたのか!?」
「欺いていたのはそちらでは」
「何だと」
「悪魔と契約する良い部分だけを教えて、都合の悪いことは隠していた」
「だまされる人間が愚かなのだ」
「だったらそのまま言葉を返しましょうか」
ゴーレムが背後から掴みかかり床へと押し倒す。
核に魔石を入れてあるためゴーレムが持っている力は大きい。
華奢な見た目と裏腹に、そう簡単に振りほどくことはできない。
「これで最後までこの場に立っていたのは僕だ。推薦してもらえるのかな?」
「この私を……マルファス様に選ばれたこの私を……うああああっ!!!」
「なっ!?」
危険を感じ取ったアルフは身体を守るように、物理障壁を重ねて展開する。
直後、ゴーレムに拘束されていた男の身体が爆発した。
その凄まじ衝撃を受けてゴーレムは破壊されてしまった。
「自爆したのか?」
会場に使われていた場所も爆発により半壊していた。
ガラガラと不安定に崩れてくる天井を避けてアルフも外へと避難する。
振り返ると土煙を上げて建物が倒壊していく。
「うわぁ……公爵家の別邸が倒壊とか……修繕が大変そう」




