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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの諜報員編
83/274

第83話 潜入

 海洋王国ヴェルヌ。

 フィッシャー港の港町は夜間でも大いに賑わっていた。

 海の獣人が泳ぎを競っていたり、酒豪を決める飲み比べをしていたり。

 酒場からは陽気な唄や音楽が聞こえてくる。


「ああカレン! やっと会えたわね!」


 ようやくレオンの家族を再会させることが出来た。

 セレーナは大事そうに赤ん坊(カレン)を抱きしめている。

 レオンがそのセレーナの肩を抱き、家族みんな幸せそうだ。


「ありがとう! 本当にありがとう!」

「どういたしまして」

「今度はこっちで調査するとか言ってたな?」

「まだ間に合いそうなので、これから行ってみます」


 スーリオンに似せたゴーレム入りの樽は元の場所になかった。

 港にいたセレーナによると樽は馬車に載せられ、移動したばかりだと言う。

 追えば悪魔崇拝者たちの集会場所にたどり着けるだろう。

 

「魔導士様。どうかお気をつけて」

「ありがとうございますセシル様。何かあれば通信石で教えて下さい」

「はい。指輪とペンダントは常に身に着けておきます」

「くれぐれも無茶はしないで下さいね」


 呪いも完全には解呪出来ていないし、だまされやすいしとても心配だった。

 でもアルフは逆に心配されてしまった。


「おいおい、それは魔導士の方こそじゃないのか?」

「そうですよ」

『ニャア!』

「あははは……ちょっと魔力を使い過ぎちゃってね」

「笑いごとじゃないだろーが! いきなり倒れたら驚くっての」


 王都での仕事に一区切りついたので教会に戻り、予定通り海洋王国に転移した。

 そこまではよかったのだが、セシル、レオン、赤ん坊にエルフの子二人。

 アルフとドロシーだけに比べて転移に予想以上の魔力を使っていた。


 レオンの船に到着したと同時にアルフは眩暈で倒れてしまったのだ。


水薬(ポーション)で回復したからもう大丈夫。あ、再入荷したら買うから」

 

 幸い気を失っていなかったので、収納空間から水薬を取り出して飲み干した。

 後でドロシーから叱られそうな気がして、アルフは内心ビクビクしている。

 先ほどから肩に爪が食い込んでいて少々痛い。


「予約ね。最高品質は手に入りにくいからな。取り置きしておく」

「助かるよ。五本全部買ったのに一日で残り一本しかなくてさ」

「すげー消費してるな!? そんなに安いもんじゃないだろ」

「魔導士にとって魔力は生命線だからね」

「まあそうかもしれないが、飲みすぎると反動で身体壊すぞ?」

「あはは。終わったらゆっくり休むことにするよ」


 無理に魔力を回復させているのだから、そのたびに疲労が蓄積していく。

 それを一日に四回。疲労の累積で明日はぐったりしていることだろう。

 だからこそ今日中に終わらせておく必要があった。


「それじゃあレオン。みんなを頼むね」

「おう! 任された。こっちは気にせず行って来い」


 セレーナが世話をしてくれていたようで、預けていた馬は元気だった。

 そのまま馬に跨って樽を載せた馬車を追いかける。

 港を離れ王都方面に向かっているらしい。


 馬上で防音結界を張ったアルフはドロシーと話し始める。


「ねえ? 見たドロシー。セシル様が僕に手を振っていたよ」

『振っていましたね。手でよかったですね』

「……ご機嫌斜め?」

『ご主人様が身体を大切にしないからです』


 やっぱり魔力不足で倒れたのがいけなかったようだ。

 ドロシーを心配させると怒られてしまう。さっきよりも爪が痛い。

 これはそろそろ防御結界を使うレベルだ。


「明日は休むから。そうだ! ドロシーの首輪を買いに行こう」

『……絶対ですよ』

「うん」

『絶対に絶対ですよ』

「うん。約束する」


 ようやく機嫌を直してくれたようだ。爪の食い込みが無くなった。

 これ以上怒らせないように、明日は絶対に休む必要があるなとアルフは思う。


「それじゃあ、明日のデートのためにもう一仕事頑張りますか」

『ニャア。向こうは馬車なので、この速度なら追いつけるかと』

「王都のどこに向かっているのかな」


 アルフがつぶやいたとき、馬上に風が吹き抜けた。

 基本的には世界中に精霊がいる。

 このヴェルヌ王国でも風のささやきが聞こえてくる。

 高位の風精霊が力を貸してくれているので、協力してくれるらしい。


『公爵の屋敷に集まっているよ』

『ウォーターズ公爵だ』


 いくつかの声に知りたい情報が含まれていた。


「偶然か必然か、ウォーターズ公爵の屋敷とはね」

『ご主人様が毛根を奪った相手の偽名でしたね』

「たしかクリストファー・デ・ウォーターズ公爵だったかな」


 しばらく走らせていると樽を載せた馬車が見えて来た。

 門で一度止まり、大きな屋敷へと入っていった。

 

「どうしようかな。とりあえずこのまま行ってみるか」


 アルフがそのまま門へ向かうと門番の男に止められる。

 想定通りだ。


「今夜は紹介者のみ通すように言われています。どなたの紹介ですか?」

「ベルジック公爵家のマクシム様の紹介です」

「失礼いたしました。どうぞお通り下さい」


 拍子抜けするほどあっさりと通過してしまった。

 逆に罠なのではないかと疑うレベルだ。

 馬を預けてそのまま玄関へと向かう。

 屋敷内に入る前に武器の所持がないか確認され、問題なく案内される。


「ようこそ同士よ」

「遅くなったようですね。なにぶん初めて参加する若輩ものでして」

「心配することはありません。それにメインイベントはこれからですよ」


 案内された場所はパーティ会場のような雰囲気だった。

 立食形式で食事が提供され、ワイングラスを手に紳士が語らっている。

 公爵家で開催されていることから貴族が中心のようだ。


「それは間に合ったようでよかった」


 普通のパーティ会場なら黒フード姿のアルフは浮いていただろう。

 ところが違和感はなかった。

 なぜなら皆それぞれに仮面やフードなどで顔を隠していたからだ。

 話しかけて来た白髪で初老の男性も、鳥のような仮面をつけていた。


「貴方も魔薬を求めてこちらへ?」

「ええ。素晴らしい力を秘めていると聞いています」

「願いを叶えてくれるとも、力をもたらすとも言われていますからな」

「それは是非とも手に入れたい」

「しかし対価も必要だ。お若いの覚悟はおありかな?」

「もちろんですよ」


 覚悟を聞かれたアルフは力強く宣言して、不敵に笑う。




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