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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 後編
73/275

第73話 悪女

 焦る気持ちは出さないように気を付けながら問いかける。


「あと二人、エルフ族の女の子がいたはずです」

「さあ? 知らないわ」

「一人はラッセル帝国に転移させたようですが、何か心当たりは?」

「もしかして気が狂ったとかいう子」

「そうさせたのもあなた方ですが」

「私じゃないわ。あの国ならば悪魔様に捧げられたのかもね」


 すでに召喚されているという悪魔の生贄になったのだろうか。

 今度は怒りを抑えながら冷静に尋ねていく。


「すでに生贄にされたということですか」

「違うわ。悪魔様は狂気を宿した人が好みなのよ。妃候補とかじゃないの?」

「その悪魔の名とは」

「偉大な御方よ。様をつけて! マルファス様よ」


 やはり一人は帝国にいるらしい。しかも悪魔マルファスの妃候補として。

 

「残る一人は――」


  アルフが残る一人の行方を聞き出していたその時。


――ビュオッ! 


 突風が吹き抜け草木を揺らした。

 その風にハッとなる。

 風の精霊たちが一足先に教えてくれた警告。

 それを確かめるため額に手を当て目を閉じ、周囲に気配察知の魔法を使う。


「ちっ。次から次へと厄介なことを」


 状況を把握したアルフは舌打ちする。

 その様子に蔦で拘束されている女性は意地悪い笑みを見せた。


「おい、どうした? 魔導士」

「魔獣のゾンビが街に出没しています」

「……まさかブルド子爵家の地下にいた魔獣ですか!?」

「おそらく」


 王都内に魔獣がいるだけでもおかしいのに、それがゾンビとなっている。

 先ほど死体を操っていたことから考えてもセシルの考えは妥当だろう。


「何だって!? おい! どうせアンタの仕業だろ!?」


 レオンが睨みつけながら女性に問いただす。

 女性はもう怯えた顔をしていなかった。

 その言葉には余裕すら感じられる。


「うふふふ。魔獣なら操っても問題ないでしょ? 用意しておいて良かったわ」

「問題大ありだろうが! 狙いは何だ!?」

「あなたがそれを聞いてどうするの? 何か出来るわけ?」

「俺には何とか出来なくたって、魔導士が何とかする!」


 アルフを指さしながらレオンは言い切った。

 そういえばこういう人だったなと思いながらため息を吐く。

 女性はさらに高笑いを始めた。


「うふふふ! あの魔獣たちはゾンビよ! 咬まれたらどうなると思う?」

「王都の人々をゾンビ化して操るつもりですか」

「あら顔は悪くても頭は働くようね。ゾンビ化したら魔薬がなくても簡単に操れるの」

「狂ってやがるな」

「同意しますよ」

「うふふふ! 素敵だわ! みんな私の操り人形。あの人とふたりで支配できる国!」


 来るべき将来に思いを寄せて幸せそうな笑みを浮かべて笑う女性。

 だがそんな悪夢のような国を許容できるはずもなかった。


「そんな未来は来ませんよ」

「あら? 私を置いて助けに行っていいのかしら」

「どういう意味です」

「あなたがいなくなったらこんな蔦、簡単に抜け出せるもの」


 この場から移動したら、容易に拘束から抜け出せるというのは本当だ。

 かと言って拘束の魔力を維持しながら消滅結界を構築し発動させるには時間がかかる。

 時間がかかればそれだけ無差別に人々が危険にさらされてしまう。

 どうすべきか考えていると、決意のこもった声が響いた。


「私が行きます!」


 確かに強化されたナイフでセシルは一度魔獣を倒している。

 そして身代わりの指輪を装着しているため、咬まれてもゾンビ化しないはずだ。

 だが危険であることに変わりはない。

 今にも走り出そうとするセシルを呼び止める。


「待って下さい! 魔獣は複数います。場所も分からず闇雲に行っても効率が悪い」

「でもこのままでは人々が操られてしまいます」

「聖魔法が使える司祭様を頼ったらどうだ?」


 レオンが提案した。

 ゾンビならば聖魔法で倒すことが出来る。

 さらに咬まれた人がいても対処が早ければ聖魔法で治療することができるはずだ。

 しかしその希望を女性はあっさりと打ち消した。


「うふふ。良いこと教えてあげる! 聖魔法の使い手は今王都を離れているわよ」


 マドレーネ修道院長の姿を違和感なく使えるほどの幻術を使っていた。

 他の教会関係者に化けることも容易だろう。

 王都から使い手を遠ざけているというのも嘘ではなさそうだった。


「本当にロクなことしないな! 聖女どころか悪女じゃないか!」

「失礼ね! 悪女っていうのはあの女のことを言うのよ」


 名を聞き出して闇に踏み込むのは今しかない。

 そう思ったアルフは問いかける。


「あなたが悪女と呼ぶ女性の名前を聞いても?」

「ベル」


 口にするのも嫌だと言うようにその名はつぶやかれた。

 よくある名前だった。

 しかしアルフは自身の頭の中にある美女図鑑からベルという名前を探し出す。

 実際に会ったことはないが、過去に美人と評されていた人物。

 氷の中にいた容姿と照らし合わせてその名を導き出す。


「ベル・ド・グラミリアン伯爵夫人ですか」


 その名を聞いて女性が強く唇を噛みしめた。

 その表情からアルフは正解を確信する。

 しかしセシルの言葉までは予想出来なかった。


「え? お母様」

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