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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 後編
72/274

第72話 魔薬

 砕け散って粉々になった魔封じの宝玉を呆然と見つめている。

 魔法と剣の激しい攻防が止まる。


「な、な、なんで……!? 何なの!? あなたは一体何なの!?」


 アルフは剣を戻してパチンと指を鳴らす。

 女性が魔法に気づいて障壁を張ろうとした時にはすでに遅かった。

 その手足には(いばら)(つた)がからみつき、動きを封じられていた。

 身をよじり魔法を使おうとするが、蔦に流された魔力が発動を妨害する。


「これでようやく通りすがりの魔導士を名乗れます」

「くっ……! 私はこの国で歴代最高の魔力を持つ聖女だったのよ!?」

「知っています」

「何でその私が魔法で負けるのよ!」


 話を聞くために口は自由にしてあるが、ハッキリ言って騒がしい。

 やっぱり声も奪った方がいいかなとアルフは思い始めていた。

 

「冒険者!? 魔導士!? 勇者じゃない!? 全部ありえないわ!」

「そう言われてもね。全部事実だとしか」

「ああああああっ! 嫌っ! 私が! この私がっ!?」


 ヒステリーに叫び続ける。

 その声が聞こえたのか、セシルとレオンも外に出てきた。


「お怪我はありませんか? 魔導士様」

「大丈夫ですよ」


 醜い顔だと思っているはずなのに変わらず心配してくれる。

 控えめに言ってもやっぱりセシルは天使だとアルフは思った。


「おいおい、魔導士。これはどういう状況だよ」

「聞きたいことがあるので拘束しました」

「話すわけないでしょ!」


 このままでは簡単に聞き出せそうもない。

 そこにドロシーが話しかけてくる。


『ご主人様。不死ならば、このまま消滅させてはいかがでしょう』

「そうだね」

「しょ、消滅って……まさか、消滅結界まで使えるの!?」

「使えますよ。この後も仕事があるので早速結界を……」


 言いながらアルフは結界の準備に取り掛かろうとする。

 パチンと指を鳴らし周囲に防音結界を張っておく。

 本気で存在を消すつもりだと思った女性は焦り始めた。

 

「待って! 話すから……!? 何を知りたいのよ!?」

「別にいいです。嘘で惑わすつもりでしょうから、消えて下さい」

「さすが魔導士。容赦ないな」


 上手くいったなと内心笑いだしそうになりながら、素っ気なく答える。

 どうやらレオンも思惑に気づいて話を合わせてくれるようだ。


「嫌っ! 私の美しさは永遠に残さなきゃダメなの! 消さないで!」

「まあ一回くらいはチャンスをやってもいいんじゃないか?」

「無駄だとおもいますけどね」

「話すわよ!」

「嘘だったらあなたの存在を消しますから、そのつもりで」

「分かったわ!」


 どうやら時間をかけて拷問せずに済みそうだ。

 あとはどれだけ情報を引き出せるかだろう。


「では本物のマドレーネ修道院長はどこです」

「幻術をかけて城の地下牢に閉じ込めておいたわ」


 嘘ではないだろう。城内ですり替わったのかもしれない。

 早めに助け出しに行く必要がある。


「操るのにも使っていたあの黒い塊は何ですか」

「私たちは魔薬と呼んでいるわ」

「魔薬とは?」

「素晴らしい力を秘めた悪魔様からのギフトよ! 悪魔様が御身を分けて下さるの」


 この情報は非常にまずい。

 国内外に広がっているらしい魔薬の正体は悪魔の身体。

 それはすでに召喚されて肉体を持った悪魔がいるということを意味する。


「どこで手に入れたものです」

「マクシムという男から」

「その男はどこから魔薬を入手しているのですか」

「外国との貿易取引で手にしているらしいけど、詳しくは知らない」


 外国の諜報を任されていたマクシムには適任だったのだろう。


「その取引は外交大臣であるベルジック公爵の指示ですか」

「公爵? ああ、あの頑固爺さんのこと。違うわ」

 

 これは予想外の答えだった。

 ベルジック公爵が黒幕ではないかとアルフは考えていたからだ。

 だったら三男のマクシムが黒幕なのだろうか。


「あなたの愛しい人というのはマクシムなのですか」

「は? マクシムですって? ふっふふふふふ! あははははははは!」


 アルフの疑問に女性は突然笑い出した。

 高笑いが響き渡っている。


「ふざけないでよ! 誰があんな坊やの心を手にしたいものですか!」


 と思ったら今度は怒り出した。違ったらしい。

 感情の起伏が激しくて正直苦手だなと感じる。

 黒幕はベルジック公爵でも三男のマクシムでもない。

 では一体誰がこんなことを指示していると言うのだろうか。

 闇が深そうで、踏み入るのが怖くなってくる。


「では誘拐したエルフの子たちの行方については?」

「そっちはルフラウスの担当だったわ」


 元聖女に元賢者の悪魔崇拝者。

 ある意味で人材が豊富に揃ってる組織と言えるだろう。

 この調子で元剣聖とか元勇者とか出てくるのは勘弁して欲しいなと思う。


「一人は私が人形にしたけどあなたに奪われた」

「誤解のないように言っておきますが、先に奪ったのはあなた方です」

「ふふふふ。どうせ男の子もあなたが解放したのでしょうね」

「子どもや精霊に不法労働させないようにと言いましたよね」


 ここまでは分かっている。問題は残り二人の行方だった。

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